1:00 PM - 3:00 PM
[PB06] 手指活動における操作性の高さと前頭前野の活動
近赤外線分光法を用いた検討
Keywords:手指操作, ペグボード課題, 近赤外線分光法
問題と目的
近年は便利な食品や既製品などが容易に手に入り,生活の中で操作性の高い手指活動が必要とされる機会が減少してきている。料理・裁縫・木工作などは,複数の物を組み合わせ調整しながら扱う操作性の高い活動である。一方,つかむ,拾うといった到達・把握運動,押す,触れるというような手指活動は操作性の低い活動である。これまでの研究で,操作性の高さにより,発達過程や一側化の程度が異なることが示唆された。即ち,物を扱うという点で操作性の高いレベルは,発達初期より一側化がみられること,中間のレベルでは,優位側はあるがどちらの手でも遂行可能である。操作性の低いレベルでは,一側化の程度は低く,発達的にも機能的優位性が変動しやすいことが示唆された(橘,2009;2011;2015)。本研究では,作業療法などの現場ならびに脳卒中上肢機能検査などの一部として広く使用されている(淺川・杉村,2011)ペグボードを用いて検討した。大学生を対象に,操作性の高い道具使用課題と操作性の低い指課題を通して,研究Ⅰでは操作性の高さと機能的左右非対称性について,研究Ⅱでは近赤外線分光法(NIRS)を用いて,操作性の高さと前頭前野の活動について検討した。
研 究 Ⅰ
ペグボード課題において,操作性の高い道具使用課題と操作性の低い指課題により,機能的左右非対称性にどのような差異がみられるかを検討した。
方法
参加者:ラテラリティ指数が100となる右利き大学生36名(男子学生18名,女子学生18名)。
課題:ペグボード(酒井医療株式会社製,SOT-2103)は,縦に4個の穴が5列計20個あけられたボードに棒状のペグを差し込むもので,ペグの両端は赤と青2色となっている。40秒間に赤と青交互になるよう外側から内側に渦巻状に片手で差し込み,何本ペグを挿入できるかで評価した。道具使用課題は割り箸で,指課題は第1指と第2指でペグを把持し,ボードに差し込んでいく。課題の順序,左右の手の順序を参加者間でカウンタバランスした。
結果と考察
課題(割り箸・指)×手(左・右)の分散分析を行ったところ,課題の主効果,手の主効果,課題×手の交互作用において有意差があった。操作性の高い道具使用課題では左右差が顕著で,非利き手のペグ挿入本数が非常に少ない。操作性の低い指課題では,道具使用課題に比較して容易な課題であるためペグ挿入本数が多いが,顕著な左右差はみられなかった。これまでのダイスの積み上げ課題や豆運び課題などの研究結果と同様に,操作性の高さが機能的左右非対称性に影響するという結果となった。
研 究 Ⅱ
操作性の高い道具使用課題と操作性の低い指課題遂行時では,前頭前野の活動(血液量変化)にどのような差異がみられるかを検討した。
方法
参加者:ラテラリティ指数が100となる右利きの男子学生4名。
課題:研究Ⅰと同様に,ペグボードを用いた道具使用課題と指課題を40秒間行った。課題の順序,左右の手の順序を参加者間でカウンタバランスした。
脳機能計測:計測にはSpectratech社製OEG-16を使用した。プローブ配置は,国際10-20法に従い,プローブマトリックスの中心にFpzが来るように設置した。安静期間中及び課題遂行中の参加者の前頭前野の血液量変化を計測した。
結果と考察
課題遂行中の酸素化ヘモグロビン量(oxyHb,単位:mmol/mm)を分析した。課題施行開始時のベースラインを0となるように設定し,施行時との差から算出されたデータをt検定で解析した。その結果,操作性の高い道具使用課題では,前頭前野腹外側領域とその周辺領域に有意な血液量増加が認められ,非利き手での箸使用課題においてより広範囲の活性化がみられた。一方,操作性の低い指課題では,有意な血液量増加はみられず,左右差も認められなかった。
押すだけ,触れるだけというような操作性の低い手指活動でなく,複数の物を組み合わせ調整しながら扱うような操作性の高い道具や玩具を,考えながら使用することが,前頭前野の活性化に効果的ではないかと考えられる。
本研究は,JSPS科研費基盤研究C「前頭前野の活性化に関連する手指の遊びの検討」(課題番号:15K01780)の助成を受けた。
近年は便利な食品や既製品などが容易に手に入り,生活の中で操作性の高い手指活動が必要とされる機会が減少してきている。料理・裁縫・木工作などは,複数の物を組み合わせ調整しながら扱う操作性の高い活動である。一方,つかむ,拾うといった到達・把握運動,押す,触れるというような手指活動は操作性の低い活動である。これまでの研究で,操作性の高さにより,発達過程や一側化の程度が異なることが示唆された。即ち,物を扱うという点で操作性の高いレベルは,発達初期より一側化がみられること,中間のレベルでは,優位側はあるがどちらの手でも遂行可能である。操作性の低いレベルでは,一側化の程度は低く,発達的にも機能的優位性が変動しやすいことが示唆された(橘,2009;2011;2015)。本研究では,作業療法などの現場ならびに脳卒中上肢機能検査などの一部として広く使用されている(淺川・杉村,2011)ペグボードを用いて検討した。大学生を対象に,操作性の高い道具使用課題と操作性の低い指課題を通して,研究Ⅰでは操作性の高さと機能的左右非対称性について,研究Ⅱでは近赤外線分光法(NIRS)を用いて,操作性の高さと前頭前野の活動について検討した。
研 究 Ⅰ
ペグボード課題において,操作性の高い道具使用課題と操作性の低い指課題により,機能的左右非対称性にどのような差異がみられるかを検討した。
方法
参加者:ラテラリティ指数が100となる右利き大学生36名(男子学生18名,女子学生18名)。
課題:ペグボード(酒井医療株式会社製,SOT-2103)は,縦に4個の穴が5列計20個あけられたボードに棒状のペグを差し込むもので,ペグの両端は赤と青2色となっている。40秒間に赤と青交互になるよう外側から内側に渦巻状に片手で差し込み,何本ペグを挿入できるかで評価した。道具使用課題は割り箸で,指課題は第1指と第2指でペグを把持し,ボードに差し込んでいく。課題の順序,左右の手の順序を参加者間でカウンタバランスした。
結果と考察
課題(割り箸・指)×手(左・右)の分散分析を行ったところ,課題の主効果,手の主効果,課題×手の交互作用において有意差があった。操作性の高い道具使用課題では左右差が顕著で,非利き手のペグ挿入本数が非常に少ない。操作性の低い指課題では,道具使用課題に比較して容易な課題であるためペグ挿入本数が多いが,顕著な左右差はみられなかった。これまでのダイスの積み上げ課題や豆運び課題などの研究結果と同様に,操作性の高さが機能的左右非対称性に影響するという結果となった。
研 究 Ⅱ
操作性の高い道具使用課題と操作性の低い指課題遂行時では,前頭前野の活動(血液量変化)にどのような差異がみられるかを検討した。
方法
参加者:ラテラリティ指数が100となる右利きの男子学生4名。
課題:研究Ⅰと同様に,ペグボードを用いた道具使用課題と指課題を40秒間行った。課題の順序,左右の手の順序を参加者間でカウンタバランスした。
脳機能計測:計測にはSpectratech社製OEG-16を使用した。プローブ配置は,国際10-20法に従い,プローブマトリックスの中心にFpzが来るように設置した。安静期間中及び課題遂行中の参加者の前頭前野の血液量変化を計測した。
結果と考察
課題遂行中の酸素化ヘモグロビン量(oxyHb,単位:mmol/mm)を分析した。課題施行開始時のベースラインを0となるように設定し,施行時との差から算出されたデータをt検定で解析した。その結果,操作性の高い道具使用課題では,前頭前野腹外側領域とその周辺領域に有意な血液量増加が認められ,非利き手での箸使用課題においてより広範囲の活性化がみられた。一方,操作性の低い指課題では,有意な血液量増加はみられず,左右差も認められなかった。
押すだけ,触れるだけというような操作性の低い手指活動でなく,複数の物を組み合わせ調整しながら扱うような操作性の高い道具や玩具を,考えながら使用することが,前頭前野の活性化に効果的ではないかと考えられる。
本研究は,JSPS科研費基盤研究C「前頭前野の活性化に関連する手指の遊びの検討」(課題番号:15K01780)の助成を受けた。