1:00 PM - 3:00 PM
[PB18] 小学校1年生における算数文章題の場面理解に関する研究
Keywords:算数文章題, 場面理解, 小学校1年生
問題と目的
算数の文章題解決は,問題文を読み,問題の場面,全体構造を理解し,立式し,計算を実行するという過程を経る(Mayer,1992)。全国学力・学習状況調査の結果からは,日本の児童の特徴として,問題場面と式を関連づけることや,式の意味を解釈することなど,算数文章題解決過程における場面理解に課題があるとされている(文部科学省・国立教育政策研究所,2016)。
特に,教科書で扱われないような,演算の実行理由が不明確な問題や過剰情報を含む問題などに対して児童が持つ困難さが指摘されている(Yoshida,Verschaffel,& De Corte,1997;金田,2002ほか)。石田・子安(1988)は,小学校1,2年生が逆思考を伴うような文章題に対し困難さを表出すると指摘した。金田(2009)は,小学校2年生で教科書に描かれている絵と式の対応関係に複数の可能性を検討しなければならない点に困難さがあると指摘した。末松(2017)は,過剰情報を含む文章題で誤答に至る児童の特徴として,数量関係の把握を含む場面理解の不十分さよりも,言葉による演算決定や,出てくる数字は全部使うといった方略の適用による立式時の数値選択や演算選択の誤りを指摘した。
以上の研究からは,小学校低学年児童の算数文章題の場面理解に関する特徴が明らかになりつつある。一方で,先行研究はある一時点の場面理解の様子であり,1年間の学習の中での場面理解の発達の様相は未だ明らかとなっていない。そこで本研究では,小学校1年生の児童に対し,算数文章題の場面理解の発達を明らかとすることを目的とし,短期縦断的に調査を実施した。
方 法
調査対象 都内の国立大学附属小学校第1学年の1学級35名(男児18名,女児17名)。
調査期間 2016年9月~2017年3月
授業の観察 加法,減法単元を中心に算数の授業を観察した。観察の際には,手書きの記録の他に,ビデオ撮影,ICレコーダーによる録音を行った。さらに,児童の記述が多数書かれているノートをコピーした。
課題の実施 加法の学習が始まる前の9月,加法および減法の基本的な学習が終了した12月,1月,繰り上がり繰り下がりの学習が終わった学年末の3月の4回実施した。課題の内容は,場面理解の課題(合併+増加,逆思考,過剰情報の場面を各1問),複数作問課題1問,過剰情報場面における立式に関する課題1問である。課題は,課題の算数の授業時間内に,担任教諭立ち合いのもと,調査者が実施した。
結果と考察
実施課題のうち,場面理解の課題について分析を行った。場面理解の課題は,小学校1年生で最初に学ぶ加法の場面である合併と増加の場面が混合した「合併+増加」の場面,答えを求める際に使用する演算が,問題の場面で示される演算と逆の場合である「逆思考」の場面,答えを求める場合には使用しない数が問題文に含まれる「過剰情報」の場面の3種類で構成された。課題は,それぞれの場面が文で示され,答えとその理由を記述させるものである。Figure 1には,各場面において場面理解が適切であった人数を示す。
「増加+合併」の場面課題では,学習が進むにつれて場面理解が適切であった児童は増えていた。一方で,「逆思考」「過剰情報」の場面課題では,場面理解が適切であった児童の人数は増えているとは言い難く,特に「逆思考」の場面課題では先行研究と同様に小学校1年生段階での場面理解の困難さがあると考えられる。
今後の課題
場面理解は適切であったとしても,そこから立式にいたる過程において誤った方略を使用する可能性について,実施課題の中の立式に関する課題を含めて検討する必要がある。
算数の文章題解決は,問題文を読み,問題の場面,全体構造を理解し,立式し,計算を実行するという過程を経る(Mayer,1992)。全国学力・学習状況調査の結果からは,日本の児童の特徴として,問題場面と式を関連づけることや,式の意味を解釈することなど,算数文章題解決過程における場面理解に課題があるとされている(文部科学省・国立教育政策研究所,2016)。
特に,教科書で扱われないような,演算の実行理由が不明確な問題や過剰情報を含む問題などに対して児童が持つ困難さが指摘されている(Yoshida,Verschaffel,& De Corte,1997;金田,2002ほか)。石田・子安(1988)は,小学校1,2年生が逆思考を伴うような文章題に対し困難さを表出すると指摘した。金田(2009)は,小学校2年生で教科書に描かれている絵と式の対応関係に複数の可能性を検討しなければならない点に困難さがあると指摘した。末松(2017)は,過剰情報を含む文章題で誤答に至る児童の特徴として,数量関係の把握を含む場面理解の不十分さよりも,言葉による演算決定や,出てくる数字は全部使うといった方略の適用による立式時の数値選択や演算選択の誤りを指摘した。
以上の研究からは,小学校低学年児童の算数文章題の場面理解に関する特徴が明らかになりつつある。一方で,先行研究はある一時点の場面理解の様子であり,1年間の学習の中での場面理解の発達の様相は未だ明らかとなっていない。そこで本研究では,小学校1年生の児童に対し,算数文章題の場面理解の発達を明らかとすることを目的とし,短期縦断的に調査を実施した。
方 法
調査対象 都内の国立大学附属小学校第1学年の1学級35名(男児18名,女児17名)。
調査期間 2016年9月~2017年3月
授業の観察 加法,減法単元を中心に算数の授業を観察した。観察の際には,手書きの記録の他に,ビデオ撮影,ICレコーダーによる録音を行った。さらに,児童の記述が多数書かれているノートをコピーした。
課題の実施 加法の学習が始まる前の9月,加法および減法の基本的な学習が終了した12月,1月,繰り上がり繰り下がりの学習が終わった学年末の3月の4回実施した。課題の内容は,場面理解の課題(合併+増加,逆思考,過剰情報の場面を各1問),複数作問課題1問,過剰情報場面における立式に関する課題1問である。課題は,課題の算数の授業時間内に,担任教諭立ち合いのもと,調査者が実施した。
結果と考察
実施課題のうち,場面理解の課題について分析を行った。場面理解の課題は,小学校1年生で最初に学ぶ加法の場面である合併と増加の場面が混合した「合併+増加」の場面,答えを求める際に使用する演算が,問題の場面で示される演算と逆の場合である「逆思考」の場面,答えを求める場合には使用しない数が問題文に含まれる「過剰情報」の場面の3種類で構成された。課題は,それぞれの場面が文で示され,答えとその理由を記述させるものである。Figure 1には,各場面において場面理解が適切であった人数を示す。
「増加+合併」の場面課題では,学習が進むにつれて場面理解が適切であった児童は増えていた。一方で,「逆思考」「過剰情報」の場面課題では,場面理解が適切であった児童の人数は増えているとは言い難く,特に「逆思考」の場面課題では先行研究と同様に小学校1年生段階での場面理解の困難さがあると考えられる。
今後の課題
場面理解は適切であったとしても,そこから立式にいたる過程において誤った方略を使用する可能性について,実施課題の中の立式に関する課題を含めて検討する必要がある。