1:00 PM - 3:00 PM
[PB20] 大学生におけるADHD特性とコーピングが心理的適応に及ぼす影響に関する研究
コーピング柔軟性に焦点を当てて
Keywords:ADHD, コーピング柔軟性, 心理的適応
問題と目的
大学における障害学生における発達障害学生の割合は年々増加している(日本学生支援機構,2014)。発達障害のある学生には,その障害特性からさまざまな適応上の困難さが想定され,中でもADHDのある大学生は,学習スキルの獲得の遅れ(Norwalk, Norvilitis, & MacLean, 2009)時間的見通しのつきにくさ(Prevatt, Lampropoulos, Bowles,& Garrett, 2011),など,大学生活に必要な計画性や自己管理,自己抑制など種々のスキルの獲得が遅れていることにより,大学での適応に困難が生じている(Barkley & Murphy,2006)。学生生活上の様々な課題に対処し,適応へと支援するうえで,ADHDのある大学生のコーピングと大学適応との関連を検討することは意義があると考えられる。
ところで,加藤(2001)は,大学生のストレス対処と適応の関連についてコーピングの柔軟性という観点から検討を行っている。コーピング柔軟性とは“あるストレスフルな状況下で用いたコーピングがうまく機能しなかった場合,効果的でなかったコーピングの使用を断念し,新たなコーピングを用いる能力”と定義され,これが豊かである学生はより適応的であることを示している。加藤(2001)は一般大学生を対象とした研究であるが,ADHDの障害特性を考慮すると,彼らが計画性や柔軟性に欠けるコーピングを行っている可能性があると考えられる。したがって,彼らを支援するための切り口としてコーピング柔軟性は有用性のある概念であると推察される。
そこで本研究では大学生を対象にADHD特性とコーピング柔軟性,および心理的適応の関連を検討することを目的とする。
方 法
研究協力者 首都圏私立大学に在籍する168名
(男性98名,女性70名:19.0歳±0.69)
調査時期 2017年4月
調査材料 1.ADHD特性尺度(篠田,2008)
2.成人用エフォートフル・コントロール尺度日本語版(山形ら,2005) 3.気分尺度(福岡,2011)
4.コーピング柔軟性:尾関(1993)の大学生ストレス自己評価尺度の「コーピング尺度」を用いて,コーピング柔軟性を測定できるように,伊勢ら(2015)を参考に改変した。
結果と考察
まず,加藤(2001)を参考にコーピング相対量を計算し,その値が40%以上になるコーピング(問題焦点,情動焦点,回避逃避)をもって,各調査協力者のコーピングタイプ(以下CT)とした。なお,40%以上が二つ抽出された場合は混合型一つも抽出されない場合は全般型とした。さらに,一回目のCTと二度目のCT(一回目のコーピングが失敗したという仮定で評定された二回目のコーピング)はコーピングの柔軟性の定義より,コーピング失敗状況において“失敗したコーピングの使用を断念すること”(水準A) ,“ 新たなコーピングを使用すること”(水準B)の二つの水準から比較された。水準Aを満たすことをA ,満たさないことをnoA とすると,A-B群は33名,A-noB群は73名,noA-B群は24名,noA-noB群は37名であった。ADHD特性尺度得点とその下位尺度である不注意得点,多動・衝動性得点のそれぞれについて水準A,水準Bを要因とする2要因分散分析をおこなった結果,多動・衝動性得点において水準Bの主効果(F(1,163)=4.57,p<.05)が有意であった。Table1に多動・衝動性得点の平均値,標準偏差を示した。したがって,ADHD特性のある学生は新たなコーピングを使用することに欠けるコーピングを行っている可能性があり,仮説が一部支持された。
つぎに,ADHD傾向と適応との関連を検討するため,ADHD傾向とエフォートフル・コントロール(以下,EC),およびポジティブ・ネガティブ気分との相関分析を行った。その結果,ADHD傾向が高いほどECが低く(r=‐.65,p<.01),ネガティブ気分が強いことが示された(r=.33,p<.01)。ADHD傾向とポジティブ気分との間には有意な関連が見られなかった。このことからADHD特性をもつ大学生ほど,その特性から学校生活において躓きがあり,心理的に不適応な状態に陥りやすいという可能性が示唆された。
大学における障害学生における発達障害学生の割合は年々増加している(日本学生支援機構,2014)。発達障害のある学生には,その障害特性からさまざまな適応上の困難さが想定され,中でもADHDのある大学生は,学習スキルの獲得の遅れ(Norwalk, Norvilitis, & MacLean, 2009)時間的見通しのつきにくさ(Prevatt, Lampropoulos, Bowles,& Garrett, 2011),など,大学生活に必要な計画性や自己管理,自己抑制など種々のスキルの獲得が遅れていることにより,大学での適応に困難が生じている(Barkley & Murphy,2006)。学生生活上の様々な課題に対処し,適応へと支援するうえで,ADHDのある大学生のコーピングと大学適応との関連を検討することは意義があると考えられる。
ところで,加藤(2001)は,大学生のストレス対処と適応の関連についてコーピングの柔軟性という観点から検討を行っている。コーピング柔軟性とは“あるストレスフルな状況下で用いたコーピングがうまく機能しなかった場合,効果的でなかったコーピングの使用を断念し,新たなコーピングを用いる能力”と定義され,これが豊かである学生はより適応的であることを示している。加藤(2001)は一般大学生を対象とした研究であるが,ADHDの障害特性を考慮すると,彼らが計画性や柔軟性に欠けるコーピングを行っている可能性があると考えられる。したがって,彼らを支援するための切り口としてコーピング柔軟性は有用性のある概念であると推察される。
そこで本研究では大学生を対象にADHD特性とコーピング柔軟性,および心理的適応の関連を検討することを目的とする。
方 法
研究協力者 首都圏私立大学に在籍する168名
(男性98名,女性70名:19.0歳±0.69)
調査時期 2017年4月
調査材料 1.ADHD特性尺度(篠田,2008)
2.成人用エフォートフル・コントロール尺度日本語版(山形ら,2005) 3.気分尺度(福岡,2011)
4.コーピング柔軟性:尾関(1993)の大学生ストレス自己評価尺度の「コーピング尺度」を用いて,コーピング柔軟性を測定できるように,伊勢ら(2015)を参考に改変した。
結果と考察
まず,加藤(2001)を参考にコーピング相対量を計算し,その値が40%以上になるコーピング(問題焦点,情動焦点,回避逃避)をもって,各調査協力者のコーピングタイプ(以下CT)とした。なお,40%以上が二つ抽出された場合は混合型一つも抽出されない場合は全般型とした。さらに,一回目のCTと二度目のCT(一回目のコーピングが失敗したという仮定で評定された二回目のコーピング)はコーピングの柔軟性の定義より,コーピング失敗状況において“失敗したコーピングの使用を断念すること”(水準A) ,“ 新たなコーピングを使用すること”(水準B)の二つの水準から比較された。水準Aを満たすことをA ,満たさないことをnoA とすると,A-B群は33名,A-noB群は73名,noA-B群は24名,noA-noB群は37名であった。ADHD特性尺度得点とその下位尺度である不注意得点,多動・衝動性得点のそれぞれについて水準A,水準Bを要因とする2要因分散分析をおこなった結果,多動・衝動性得点において水準Bの主効果(F(1,163)=4.57,p<.05)が有意であった。Table1に多動・衝動性得点の平均値,標準偏差を示した。したがって,ADHD特性のある学生は新たなコーピングを使用することに欠けるコーピングを行っている可能性があり,仮説が一部支持された。
つぎに,ADHD傾向と適応との関連を検討するため,ADHD傾向とエフォートフル・コントロール(以下,EC),およびポジティブ・ネガティブ気分との相関分析を行った。その結果,ADHD傾向が高いほどECが低く(r=‐.65,p<.01),ネガティブ気分が強いことが示された(r=.33,p<.01)。ADHD傾向とポジティブ気分との間には有意な関連が見られなかった。このことからADHD特性をもつ大学生ほど,その特性から学校生活において躓きがあり,心理的に不適応な状態に陥りやすいという可能性が示唆された。