1:00 PM - 3:00 PM
[PB25] 小論の作成・推論時に書き手は何を重要視するか
継続した協同推敲活動が書き手の意識の変容に与える効果
Keywords:推敲, 作文, 協同
問題と目的
読解・作文の熟達化を意図した教授技法/活動のひとつにピアレビューを用いた協同推敲がある(Fukaya, 2003;深谷,2009b)。これは,学術雑誌の査読(peer-review)に着想を得ており,自分が書いた文章をピア(仲間)が書いた文章と交換して読みあい,お互いに評価し,改善策を提案するという作業を含むものである。このような協同的な推敲活動にて,書き手が実際どのようにピアの存在を認識しているか,そしてそれが具体的にどのように書き手の推敲過程や推敲作業に影響するのかは,未だ明らかとはなっていない。そこで本稿では,ピアの存在やピアレビュー活動が,参加者の小論(essay,意見文)の作成や推敲時の意識に与えた効果について検討することを目的とする。
方 法
参加者: 大学生1年生12名。うち,データの欠測のない10名を分析の対象とする。
事前/事後アンケート: 1) 読書実態,2)作文実態から構成される。本稿では,事前および事後アンケートのうち,小論作成時および推敲時に意識する点についての質問項目(とてもあてはまる6~まったくあてはまらない1の6段階評定)の回答を報告の対象とする。
手続: 授業の一環として行った。はじめに1) 事前アンケート,2) 小論作成および推敲に関する形式・内容・評価の観点等の教示,を行った。その後,3) 事前に指定の課題図書を読み,小論を準備,4) 授業当日ピア同士で読み評価しコメントをする協同推敲,5) 翌週の授業時にリフレクションの共有および各自でリライトした小論の提出,を行った。この3)~5)のセッションを5回繰り返した。5セッション終了後に,6) 事後アンケートを行った。
結果と考察
小論の作成時および推敲時に意識する点についての各項目の平均はTable1およびTable2のとおりである。
いずれにおいても多くの項目が事前の段階で,「あてはまる」と評定されているが,対応のあるt検定の結果,事後により意識するようになった項目は「推敲18例や比喩は適切か」であり,有意傾向を含めると「作成2自分の意見を効果的に論じるための論理展開を練る」「推敲4文章を読む人にとって理解しやすい文章であるか」「推敲20表現は適切か」であった。また,事前のほうが意識していた項目は「作成4反対意見や異論を予想する」であった。
これらの結果を踏まえると,繰り返し行った協同推敲活動の効果として「読み手に対して適切に伝えられる文章になっているか」により配慮するようになったと推察される。同時に,最初から反対意見や異論に対して説得するという文脈での小論作成はあまり意識されなくなったといえる。
今回の結果は,課題状況に依存する部分もあるのかもしれないが,事前に書き手がもっていた「説得」という文脈での小論作成から,事後には,まず自分の主張を明確にしたうえで,それを適切な表現にして,実際の読み手に理解してもらう必要があるという認識に至った書き手が多かったことが示唆された。
付 記
本研究はJSPS科研費JP16K04288の助成を受けたものです。
読解・作文の熟達化を意図した教授技法/活動のひとつにピアレビューを用いた協同推敲がある(Fukaya, 2003;深谷,2009b)。これは,学術雑誌の査読(peer-review)に着想を得ており,自分が書いた文章をピア(仲間)が書いた文章と交換して読みあい,お互いに評価し,改善策を提案するという作業を含むものである。このような協同的な推敲活動にて,書き手が実際どのようにピアの存在を認識しているか,そしてそれが具体的にどのように書き手の推敲過程や推敲作業に影響するのかは,未だ明らかとはなっていない。そこで本稿では,ピアの存在やピアレビュー活動が,参加者の小論(essay,意見文)の作成や推敲時の意識に与えた効果について検討することを目的とする。
方 法
参加者: 大学生1年生12名。うち,データの欠測のない10名を分析の対象とする。
事前/事後アンケート: 1) 読書実態,2)作文実態から構成される。本稿では,事前および事後アンケートのうち,小論作成時および推敲時に意識する点についての質問項目(とてもあてはまる6~まったくあてはまらない1の6段階評定)の回答を報告の対象とする。
手続: 授業の一環として行った。はじめに1) 事前アンケート,2) 小論作成および推敲に関する形式・内容・評価の観点等の教示,を行った。その後,3) 事前に指定の課題図書を読み,小論を準備,4) 授業当日ピア同士で読み評価しコメントをする協同推敲,5) 翌週の授業時にリフレクションの共有および各自でリライトした小論の提出,を行った。この3)~5)のセッションを5回繰り返した。5セッション終了後に,6) 事後アンケートを行った。
結果と考察
小論の作成時および推敲時に意識する点についての各項目の平均はTable1およびTable2のとおりである。
いずれにおいても多くの項目が事前の段階で,「あてはまる」と評定されているが,対応のあるt検定の結果,事後により意識するようになった項目は「推敲18例や比喩は適切か」であり,有意傾向を含めると「作成2自分の意見を効果的に論じるための論理展開を練る」「推敲4文章を読む人にとって理解しやすい文章であるか」「推敲20表現は適切か」であった。また,事前のほうが意識していた項目は「作成4反対意見や異論を予想する」であった。
これらの結果を踏まえると,繰り返し行った協同推敲活動の効果として「読み手に対して適切に伝えられる文章になっているか」により配慮するようになったと推察される。同時に,最初から反対意見や異論に対して説得するという文脈での小論作成はあまり意識されなくなったといえる。
今回の結果は,課題状況に依存する部分もあるのかもしれないが,事前に書き手がもっていた「説得」という文脈での小論作成から,事後には,まず自分の主張を明確にしたうえで,それを適切な表現にして,実際の読み手に理解してもらう必要があるという認識に至った書き手が多かったことが示唆された。
付 記
本研究はJSPS科研費JP16K04288の助成を受けたものです。