1:00 PM - 3:00 PM
[PB31] 教科教育におけるプログラミング学習による思考力の育成
小学校5年生電流の流れのシミュレーション
Keywords:プログラミング教育, 思考力, 理科教育
はじめに
2020年から日本の小学校においてプログラミング学習を学習指導要領に盛り込むことで議論が始まった。文部科学省の有識者会議は,小学校段階におけるプログラミング教育について「子どもたちにコンピューターに意図した処理を行うよう指示できることを体験させながら,将来どのような職業に就くとしても,時代を超えて普遍的に求められる力としての『プログラミング的思考』などを育むこと」と定義し,プログラミング言語を用いた記述方法「コーディング」を覚えることが,プログラミング教育の目的ではないとしている。
プログラミングの論理的構造の理解と実践は,教科で学習する事柄の因果関係や問題構造の理解や解釈を促進し,その学習はさまざまな学習・教育に効果もたらす可能性があり,教科への応用の可能性も期待される。我々は,小学校におけるプログラミング教育が,児童の科学的論理的思考を育むためにどのような役割を担うのかについて検証を行うため,理科の教科教育においてプログラミングによるシミュレーションを用いる実践授業を行った。
実践授業の内容
方法
実験参加者:都内区立小学校5年生21名(男子7名・女子14名)
手続き:「総合」の時間において理科の電流の流れの単元と,サイエンスの研究指定校であるため発展学習として自由電子を学習している児童を対象に2時間連続で担任の教諭1名と大学教員1名とのティームティーチングで授業を行った。演習のサポートとして大学院生1名が参加した。1人に1台のPCを用い,プログラミング用のソフトはスクラッチを使用した(図1)。
授業の内容と流れ:原子核と電子,自由電子の話を理科の電流の授業の発展として学習しているため,「電子の流れのシミュレーションし,抵抗の概念につながる教材を開発した。学習は次の順に行った。①銅線の一部をモデル化したものに電子が流れるプログラミングする方法を学ぶ(プログラミングのコマンドの学習),②豆電球を明るくするためにどのように工夫したらよいか各自考えてプログラミングする(試行錯誤),③クラスで考えたことを共有するという内容であった。
思考力とプログラミングに対する興味の関係
児童版批判的思考力(楠見,村瀬,武田,2016)とプログラミングへの興味(栗山,2015)を測定するための調査を行ったところ,プログラミングへの興味が高い児童は「探究心(「新しいことをつぎつぎにやってみたいと思う」」「考えの深め方(他の人の考えを自分の言葉でまとめてみる)」「意見の聞き方(意見を聞くときは話におかしいところがないか考えながら聞く)」等が有意に高く,意識的に取り組めていることがわかった。
プログラミング学習後の理解
授業後に理解したことや感想を自由記述で記載させたところ,プログラミングが将来役にたたり,とても楽しかったと答えた児童は9名,授業内容を具体的に振り返り電球を明るくするために電子や原子をどのようにする等(抵抗の概念)に言及した児童は5名,モデル化するということの大切さに言及した児童は5名,目標のためには何通りも方法があるということに言及した児童が2名いた。このように,自由記述の感想ではあるが,抵抗の概念に言及した児童が5名いた。さらに,他の学習に転移可能な学習であることに気づいている児童が7名いることがわかる。
このように,児童の動機と批判的思考の関係,さらに,児童の授業後の理解と感想から,プログラミング的思考と言われているように,プログラミングの学習は考えの枠組みや思考の仕方を学ぶためのツールでもあると言える。今後,初等教育への導入にあたってはこのようなプログラミングの側面を十分教師が理解し,他の学習にも転移するように工夫する必要があるだろう。
2020年から日本の小学校においてプログラミング学習を学習指導要領に盛り込むことで議論が始まった。文部科学省の有識者会議は,小学校段階におけるプログラミング教育について「子どもたちにコンピューターに意図した処理を行うよう指示できることを体験させながら,将来どのような職業に就くとしても,時代を超えて普遍的に求められる力としての『プログラミング的思考』などを育むこと」と定義し,プログラミング言語を用いた記述方法「コーディング」を覚えることが,プログラミング教育の目的ではないとしている。
プログラミングの論理的構造の理解と実践は,教科で学習する事柄の因果関係や問題構造の理解や解釈を促進し,その学習はさまざまな学習・教育に効果もたらす可能性があり,教科への応用の可能性も期待される。我々は,小学校におけるプログラミング教育が,児童の科学的論理的思考を育むためにどのような役割を担うのかについて検証を行うため,理科の教科教育においてプログラミングによるシミュレーションを用いる実践授業を行った。
実践授業の内容
方法
実験参加者:都内区立小学校5年生21名(男子7名・女子14名)
手続き:「総合」の時間において理科の電流の流れの単元と,サイエンスの研究指定校であるため発展学習として自由電子を学習している児童を対象に2時間連続で担任の教諭1名と大学教員1名とのティームティーチングで授業を行った。演習のサポートとして大学院生1名が参加した。1人に1台のPCを用い,プログラミング用のソフトはスクラッチを使用した(図1)。
授業の内容と流れ:原子核と電子,自由電子の話を理科の電流の授業の発展として学習しているため,「電子の流れのシミュレーションし,抵抗の概念につながる教材を開発した。学習は次の順に行った。①銅線の一部をモデル化したものに電子が流れるプログラミングする方法を学ぶ(プログラミングのコマンドの学習),②豆電球を明るくするためにどのように工夫したらよいか各自考えてプログラミングする(試行錯誤),③クラスで考えたことを共有するという内容であった。
思考力とプログラミングに対する興味の関係
児童版批判的思考力(楠見,村瀬,武田,2016)とプログラミングへの興味(栗山,2015)を測定するための調査を行ったところ,プログラミングへの興味が高い児童は「探究心(「新しいことをつぎつぎにやってみたいと思う」」「考えの深め方(他の人の考えを自分の言葉でまとめてみる)」「意見の聞き方(意見を聞くときは話におかしいところがないか考えながら聞く)」等が有意に高く,意識的に取り組めていることがわかった。
プログラミング学習後の理解
授業後に理解したことや感想を自由記述で記載させたところ,プログラミングが将来役にたたり,とても楽しかったと答えた児童は9名,授業内容を具体的に振り返り電球を明るくするために電子や原子をどのようにする等(抵抗の概念)に言及した児童は5名,モデル化するということの大切さに言及した児童は5名,目標のためには何通りも方法があるということに言及した児童が2名いた。このように,自由記述の感想ではあるが,抵抗の概念に言及した児童が5名いた。さらに,他の学習に転移可能な学習であることに気づいている児童が7名いることがわかる。
このように,児童の動機と批判的思考の関係,さらに,児童の授業後の理解と感想から,プログラミング的思考と言われているように,プログラミングの学習は考えの枠組みや思考の仕方を学ぶためのツールでもあると言える。今後,初等教育への導入にあたってはこのようなプログラミングの側面を十分教師が理解し,他の学習にも転移するように工夫する必要があるだろう。