The 59th Annual Meeting of the Japanese Association of Educational Psychology

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ポスター発表 PB(01-83)

ポスター発表 PB(01-83)

Sat. Oct 7, 2017 1:00 PM - 3:00 PM 白鳥ホールB (4号館1階)

1:00 PM - 3:00 PM

[PB38] アイデンティティに基づく学習動機づけ形成のエピソード

大学生を対象とした回顧法による自由記述から

伊田勝憲 (静岡大学)

Keywords:学習意欲, 動機づけ, アイデンティティ

問題と目的
 学習への動機づけとパーソナリティとの関係を捉える研究の枠組みとして,Oyserman(2007)などによる“identity-based motivation”の概念が挙げられる。社会的アイデンティティ理論を土台としており,消費行動等に適用した研究も見られるが,Erikson(1963)等による心理社会的発達との関連づけは明確ではない。この概念を教育場面に適用する場合,アイデンティティに基づく学習への動機づけとして捉え直し,Ryan & Deci(2002)による自己決定理論をはじめとする学習動機づけ研究の視点からの検討が必要になるだろう。
 本研究では,ある程度の学習経験を積み重ねている大学生を対象として,それまでの経験の中からアイデンティティに基づく学習動機づけが触発されたと思われる場面のエピソードを尋ね,その内容について探索的に検討する。
方   法
 4年制国立大学教育学部の教職に関する科目(教育相談)の受講生101名を対象に2016年11〜12月に調査を実施し,94名から回答を得た。対象者は2名(4年生)を除き3年生であった。
 教示文は「自分自身の生き方や価値観(アイデンティティ)について考えさせられる教師からのメッセージや学習内容の提示等により,学習への意欲が高まった(意欲の質が変わった)経験はありますか。特に,学ぶことについてハッとする気づきがあった,学ぶことの意味について考え方が変わった,学ぶ理由や目標が定まるきっかけになった等のエピソードを歓迎します。できれば授業時のエピソードが望ましいですが,個別の面談や学校独自の進路資料等によって触発された経験も含めて構いません。」とし,当てはまるエピソードを最大3つまで回答するよう求めた。
結   果
 回答した94名のうち,1つ以上の回答を記述したのは39名で,うち5名が2つ,1名が3つのエピソードを記述し,合計46の回答が得られたが,具体的なエピソードが含まれていない回答が2つあり,残る44の回答を分析対象とした。
 経験された時期(学年等)ごとのエピソード数は,小学校が10(小1が1,小3が1,中学年が1,小5が4,小6が2,不明が1),中学校が8(中1が1,中2が2,中3が3,中2・3が1,不明が1),高校が18(高1が6,高2が2,高3が4,不明が6),大学が1(大2),不明が7であった。
 次に,エピソードの場面としては,教科等の授業やホームルーム,学校行事,学年通信等の媒体及びネット上の動画等,広く多人数に対しての指導や発信を受けてのエピソードが27(小4,中7,高10,大1,不明5)件に対して,個人面談等の二者関係的な場面あるいは授業等の集団場面ではあるが個別的に声を掛けられた等,「個に応じた指導」によるエピソードが17(小6,中1,高8,不明2)件であった。
 誰からの働きかけ・影響を受けたかについて明確なエピソードとしては,学級担任が20(小9,中2,高7,不明2)件,教科担任が6(中2,高4)件,部活顧問(高)が2件,大学教員が2(高1,大1)件,学年主任(中)が1件であった。
 内容としては,学ぶ意味や教科観,特定の課題を通しての気づき等「学習」そのものに関するエピソードが14(小4,中2,高4,大1,不明3)件,受験勉強の意味や心構え,相談時の助言や体験談を通しての気づき等「受験」に関するものが11(中2,高9)件,職業観・勤労観や職業選択等「職業」に関するものが9(小4,中3,高2)件,生き方全般に関わる「人生論」に触れた経験によるものが6(中1,高2,不明3)件,「反面教師」が2(小1,高1)件,その他2件であった。
考   察
 分析対象の44件のうち,個別対応によらないものが27件を占め,また内容的にも「学習」と「受験」を合わせると25件になる等,日常的な教育活動を通してアイデンティティに基づく学習動機づけが形成されているエピソードが多く見られた。すなわち,学級担任をはじめとする教師自身の学びへの姿勢や教科授業時の質疑応答等,必ずしもキャリア教育それ自体を目的としていない場面において「啓発的経験」をしていることが少なくない点は注目に値する。
 一方で,半数以上の対象者がアイデンティティに基づく学習動機づけに該当するエピソードを想起しない結果であり,エピソードのさらなる蓄積と面接法による丁寧な聴き取りによる内容の精査及びその成果に基づく教材開発等が課題である。
*本研究は JSPS 科研費16K04298の助成を受けたものである。