The 59th Annual Meeting of the Japanese Association of Educational Psychology

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ポスター発表 PB(01-83)

ポスター発表 PB(01-83)

Sat. Oct 7, 2017 1:00 PM - 3:00 PM 白鳥ホールB (4号館1階)

1:00 PM - 3:00 PM

[PB49] 大学生の目標階層に関する探索的研究

面接法による検討

伊藤忠弘 (学習院大学)

Keywords:目標, 動機づけ, 大学生

目   的
 目標や願望,欲求とその達成手段は認知的に表象される。上位の長期的・抽象的目標は下位のより近接的・具体的な手段がつながっており,さらにその手段を目標としてそれを実現するため手段が下位につながる,といった階層構造を構成すると仮定できる。このような目標の階層構造のあり方を考慮することで,行為者の目標達成のための手段選択や計画の立て方だけでなく,目標達成に対する促進要因や阻害要因を含めた動機づけのあり方を明らかにすることが期待される。
 Kruglanski et al.(2016)によれば,目標と手段の関係について主に3つの関係性を考慮する必要がある。複終局性(multifinality)は1つの手段が2つ以上の目標達成に働くという,いわば一石二鳥の関係であり,その手段の有効性は高く評価される。等終局性(equifinality)は異なる手段それぞれが1つの目標達成に働く状態であり,個々の手段の代替可能が高く,目標に対するコミットメントも高まると考えられる。反終局性(counterfinality)は焦点の目標に有効な手段が別の目標を阻害する関係にある。
 しかし目標の内容,数,抽象-具体性のレベルは個人差が大きく,測定の状況や方法によっても影響を受けることが予想される。目標階層は測定の困難さから,実証的研究が限られている。そこで本研究では,目標階層のあり方を明らかにする方法について探索的に検討する。
方   法
研究参加者 大学生19名(1名はデータ欠如のため目標と価値の結合の分析から除かれた。)
手続き  (1)5年から10年先の,自分にとっての目標(こうしたい,こうなりたい,こうありたい,こうならなければいけないといったこと)を10枚のカードに1個ずつ記述させた。次に人生を生きていくにあたって大切にしていること,自分の価値観や人生観を5枚のカードに1個ずつ記述させた。ここでは前者を「目標」,後者をより上位の目標として「価値」と呼ぶ。目標についてはその重要性を5段階で自己評定させた
 (2)上記のカードを用いて,5つの価値それぞれについて,価値を充実・実現させるために,その達成が役に立つと考える目標を10個の中から全て挙げさせた。そしてそれぞれの目標の有効性を5段階で評定させ,どのように役立つかを説明させた。次に各目標が「自分のため」である程度と「周りの人のため」である程度を5段階で回答させた(その他の評定については,今回の分析では扱わないため割愛する)。
結果と考察
目標の内容 のべ190個の目標を内容に従って, (1)仕事,昇進,転職(11%),(2)収入,貯金,車,家,海外旅行など金銭面(19%),(3)資格,英語,家事,健康など自己成長,技能獲得(18%),(4)ひとり暮らし,恋人,結婚,子どもなど将来設計(16%),(5)親,友人,部下,上司との人間関係や,尊敬される,頼りにされる,など一般的評価(20%),(6)幸せ,充実,後悔しないなど抽象的内容(4%),(7)猫を飼う,ライブに行き続ける,ゲームの大会にでる,など特定の行動(12%)の7つのカテゴリに分類した。
目標の評定値 重要性が一番高かったのは抽象的内容(M=4.8),次に仕事(M=4.4)であり,低かったのは金銭面(M=2.8),技能獲得(M=3.1)であった。ただし旅行や車などと比較して生活のためのお金や貯金の重要性は高かった。技能獲得も分散が大きかった。また目標は全体として「自分のため」(M=4.0)と認識されおり,「周りの人のため」(M=2.8)という評価は低かったが,「人間関係や一般的評価に関する目標」は「他者のため」(M=3.9)が高く評価されていた。
価値の内容 のべ95個の価値を内容に従って,(1)挑戦や自己成長(13%),(2)一人の時間や趣味 (8%),(3)人間関係や他者に対する態度(31%),(4)金銭,出世(5%),(5)「自分に正直でいたい」,「悔いを残さない」など自分に向けられた意識や態度(14%),(6)「時間を大切にする」など行動指針(16%),(7)その他(14%)の7つのカテゴリに分類した。
目標と価値の結合 目標と価値の結合数について目標1つあたりの結合数を算出したところ,平均値は1.6,標準偏差0.9であった。参加者間の差異が大きく,最大で3.9,最小で0.4であり,結合数の平均が2.0以上は3名,1.0以下は5名であった。のべ180個の目標について重要度と結合数の相関は.31であり,価値と結びついている目標を重要と評価する弱い傾向が認められた。
 目標と価値の結合数の多さは複終局性にある関係を反映すると考えられるが,一方で価値間の類似性を反映している可能性も考慮する必要がある。