3:30 PM - 5:30 PM
[PC24] メタ認知能力を育成する試み(6)
「頭の中の先生」の言葉の評価・賞賛を中心とした2016研究の遅延効果
Keywords:メタ認知, 介入授業, 算数問題解決
著者らは,メタ認知の存在を子どもに直接教授し意識させること(メタ認知の意識づけ),算数の問題をメタ認知的思考をしながら解く練習(メタ認知訓練)を通して,メタ認知ひいては問題解決能力の育成を目指した実践研究を行ってきた。吉野・風間・島貫(2016)では,応用可能なメタ認知能力を育成するために,個々のメタ認知的方略の教授よりも,児童に自分なりにメタ認知的方略を考案させることを目標とし,その動機づけとしての評価・賞賛を行った。
介入授業では,最初の1時間でメタ認知(=頭の中の先生)を漫才の「ボケ」と「ツッコミ」にたとえて類推的に説明した(オリエンテーション授業)。次に通常の算数単元10時間の中で,ノートに「頭の中の先生」欄を設けさせ,問題を解く際にメタ認知的方略やメタ認知的活動を書くように指導した。授業後にノートを回収して,評価コメントを添えて返却するとともに,良い記述は学級通信や掲示物に紹介するなどして賞賛した。こうした介入授業を小学5年生の2つのクラスに時期をずらして行うとともに事前・中間・事後調査を行った結果,全体としては介入の前後で問題解決の得点もメタ認知得点も上昇していた。本研究では,この介入授業の効果が1年後の6年生の段階でどの程度残存しているかを検証する。
方 法
対象者 公立小学校6学年2クラス58名(第1群28名,第2群30名)。前年度の事前・事後調査,介入授業を受けた児童のみを分析対象とした。
材料(遅延調査課題) 吉野ら(2016)の事後調査で用いたのと全く同一の,過剰情報を含む算数文章題であり,問題理解,立式計算,解答の段階毎に問に答えるものである(問題解決得点:11点満点)。また,問題を解く前に「解く自信があるか」(予想),解き終わった後に「答えに自信があるか」(評価)をそれぞれ3段階で評価させた。さらに,解決中のメタ認知的思考の程度を調べるため,各段階でなぜそのように考えたかなども併せて記述させた(メタ認知得点:15点満点)。
手続き 調査課題は第2著者の指示のもとクラスで一斉に実施した(解答時間は15分)。
結果と考察
2016研究では,1つめのクラスの介入授業終了後の中間調査において,介入済みクラス(第2群)の得点は事前調査より上昇したが,未介入クラス(第1群)より有意に高いわけではなかった。第1群介入後の事後調査では,第1群の得点が上昇したのに比べ,第2群の得点は中間調査と同程度であった。このように,介入授業の効果は明確ではなかったもののある程度認められた。今回の遅延調査データを加え,改めて時期の要因(事前・中間・事後・遅延)と群(第1・2群)の要因で分散分析を行ったが,問題解決得点・メタ認知得点ともに時期の主効果のみが有意であった。問題解決得点は,事前:5.9,事後:7.4,遅延:8.4となり,事前-事後間に有意差が認められた。事後-遅延間では得点がやや上昇した。メタ認知得点は,事前:7.6,事後:9.3,遅延:10.9となり,事前-事後間,事後-遅延間に有意差が認められた。介入授業の効果は1年後の時点でも続いており,自然な発達的伸びも加わったと考えられる。
両群を込みにした問題解決得点とメタ認知得点との間の相関は,事前調査ではr=.372であったが,事後:.493,遅延:.691となった(df=56, p<.01)。事前調査の段階に比べて,介入後の事後調査や遅延調査の段階では,問題を解けている子どもはメタ認知得点も高いという傾向がより強まった。
全員を事前調査のメタ認知得点の上位(8点以上)・下位に分け,問題解決得点とメタ認知得点について時期と群(上位下位)の2要因の分散分析を行った。問題解決得点は2つの主効果のみが有意であったが,メタ認知得点は2つの主効果と交互作用(F(2,112)=9.6, p<.001))が有意であり,メタ認知的思考に与える介入授業後の効果は下位群で顕著であった(右図)。1年後の遅延調査では上位・下位群ともに両得点が有意に上昇しており,「頭の中の先生」の言葉を使い効率的に問題解決を行うことが徐々に浸透していたと考えられる。
介入授業では,最初の1時間でメタ認知(=頭の中の先生)を漫才の「ボケ」と「ツッコミ」にたとえて類推的に説明した(オリエンテーション授業)。次に通常の算数単元10時間の中で,ノートに「頭の中の先生」欄を設けさせ,問題を解く際にメタ認知的方略やメタ認知的活動を書くように指導した。授業後にノートを回収して,評価コメントを添えて返却するとともに,良い記述は学級通信や掲示物に紹介するなどして賞賛した。こうした介入授業を小学5年生の2つのクラスに時期をずらして行うとともに事前・中間・事後調査を行った結果,全体としては介入の前後で問題解決の得点もメタ認知得点も上昇していた。本研究では,この介入授業の効果が1年後の6年生の段階でどの程度残存しているかを検証する。
方 法
対象者 公立小学校6学年2クラス58名(第1群28名,第2群30名)。前年度の事前・事後調査,介入授業を受けた児童のみを分析対象とした。
材料(遅延調査課題) 吉野ら(2016)の事後調査で用いたのと全く同一の,過剰情報を含む算数文章題であり,問題理解,立式計算,解答の段階毎に問に答えるものである(問題解決得点:11点満点)。また,問題を解く前に「解く自信があるか」(予想),解き終わった後に「答えに自信があるか」(評価)をそれぞれ3段階で評価させた。さらに,解決中のメタ認知的思考の程度を調べるため,各段階でなぜそのように考えたかなども併せて記述させた(メタ認知得点:15点満点)。
手続き 調査課題は第2著者の指示のもとクラスで一斉に実施した(解答時間は15分)。
結果と考察
2016研究では,1つめのクラスの介入授業終了後の中間調査において,介入済みクラス(第2群)の得点は事前調査より上昇したが,未介入クラス(第1群)より有意に高いわけではなかった。第1群介入後の事後調査では,第1群の得点が上昇したのに比べ,第2群の得点は中間調査と同程度であった。このように,介入授業の効果は明確ではなかったもののある程度認められた。今回の遅延調査データを加え,改めて時期の要因(事前・中間・事後・遅延)と群(第1・2群)の要因で分散分析を行ったが,問題解決得点・メタ認知得点ともに時期の主効果のみが有意であった。問題解決得点は,事前:5.9,事後:7.4,遅延:8.4となり,事前-事後間に有意差が認められた。事後-遅延間では得点がやや上昇した。メタ認知得点は,事前:7.6,事後:9.3,遅延:10.9となり,事前-事後間,事後-遅延間に有意差が認められた。介入授業の効果は1年後の時点でも続いており,自然な発達的伸びも加わったと考えられる。
両群を込みにした問題解決得点とメタ認知得点との間の相関は,事前調査ではr=.372であったが,事後:.493,遅延:.691となった(df=56, p<.01)。事前調査の段階に比べて,介入後の事後調査や遅延調査の段階では,問題を解けている子どもはメタ認知得点も高いという傾向がより強まった。
全員を事前調査のメタ認知得点の上位(8点以上)・下位に分け,問題解決得点とメタ認知得点について時期と群(上位下位)の2要因の分散分析を行った。問題解決得点は2つの主効果のみが有意であったが,メタ認知得点は2つの主効果と交互作用(F(2,112)=9.6, p<.001))が有意であり,メタ認知的思考に与える介入授業後の効果は下位群で顕著であった(右図)。1年後の遅延調査では上位・下位群ともに両得点が有意に上昇しており,「頭の中の先生」の言葉を使い効率的に問題解決を行うことが徐々に浸透していたと考えられる。