日本教育心理学会第59回総会

講演情報

ポスター発表 PC(01-83)

ポスター発表 PC(01-83)

2017年10月7日(土) 15:30 〜 17:30 白鳥ホールB (4号館1階)

15:30 〜 17:30

[PC39] 小学校におけるBLS教育の有効性に関する検討

道徳的アプローチによる実践

矢野正1, 吉井英博#2 (1.名古屋経済大学大学院, 2.鹿児島テレビ放送株式会社)

キーワード:BLS教育, 道徳, 安全教育

研究の背景
 わが国では2002年に小中高等学校の学習指導要領改訂に伴い,心肺蘇生法(Cardiopulmonary Resuscitation:以下CPRと記載)を含めた一次救命処置(Basic Life Support:以下BLSと記載)に関する教育内容が盛り込まれた。また,時を同じくして小中高等学校へ自動体外式除細動器(Automated External defibrillator:以下,AEDと記載)の導入が始まった。2008年現在,その設置率は約81%になっている。こうした現状から,自ずとAEDの普及やそれに伴うAEDの使用を含めたBLS教育の推進がなされるものと思われた。しかしながら,現在BLS教育の実施率は全国で約20%と言われている。学習指導要領に示されているにも関わらず,なぜBLS教育が学校現場で十分に実施されないのだろうか。その理由のほとんどは,学校内における指導者の不在,学習教材の不足,授業時間の確保が困難ということがあげられる。
目   的
 本研究は,小学生にBLS教育を短時間かつ効果的に行う授業方法と,BLS教育を受けた児童にどのような教育的効果があるのか,またどのように思考が変化したのかを調査・検討することにある。
方   法
(1)期間 2016年3月8日
(2)対象 山梨県私立Y小学校6年生2クラス 56名(男子28名,女子28名)
(3)実施方法
 1)児童に対するアンケート調査
 2)学校内BLS教育の実施(授業の進め方)
 小学6年生の児童56名に45分×2コマの授業を行った。授業時間は1時限45分,計90分間である。本授業の1週間前の同時刻に事前アンケート調査を行った。1時限目はDVDを用いた講義型授業(心肺蘇生法およびAEDの重要性,心肺蘇生法およびAEDの使用方法の提示)とし,2時限目はG2015対応・CPRトレーニング・ボックスCPR Training Box APPA-KUNを教材として使用し,胸骨圧迫およびAEDの電極パッドの貼付方法など実技を行った。また,授業の結末において事後アンケート調査を行い,授業を終えた。
結果および考察
 本授業実践では,学校において誰でも短時間に行える授業を目指した。それは,BLS教育が普及しない要因が,指導者不足,指導時間の確保,教材教具の準備等にあるからである。児童の事前アンケートにもあるように,指導する側にも「失敗したらどうしよう」,「うまく指導できるか」等の消極的な思いが現場での実践を阻害しているのではないだろうか。今後,学校教育で重要になってくるのは,答えのないことに教師と児童が関わりながら模索して,自分たちなりの答えを導き出すことだと考える。論理的な思考力や探究する力は,こういった実践からも生まれるものと考える。また,90分の授業全般で人の命の尊さ,勇気をもつこと,何かできる事を考えることなど,道徳的なアプローチや声かけを多くしたことで,子どもたちが技能ありきの授業ではないということを感じてくれたことが重要である。今回の授業を通し,学齢期の児童に対して提供すべきBLS教育は,技能よりむしろ人の命を助けることの意味と自分がすべきことやできること,つまり自分ができることを理解するといった自己理解ではないだろうか。技能的な指導は肉体的,精神的に安定充実していく中学生以降にむしろするべきではないかと考える。それは,人命救助に対するハードルを下げることを意味しているのではなく,誰にでも等しく人命救助に携わる機会があり,その術は体力,気力が違うように人それぞれ異なってもよいと考えるからである。このねらいを,本授業の骨格にしたことで多くの児童に無理なく効果的にBLS教育の重要性を説くことができたものと考える。