3:30 PM - 5:30 PM
[PC49] 幼稚園教諭による教育支援が子どもの学習機会や意識に与える影響
Keywords:ESD, 幼稚園教諭, 低所得者層
研究の背景,目的,方法
・子どもが教育を受けることは基本的な権利の一つであるが,6000万人を超える子どもが初等教育を受けていないとされる。筆者はスリランカ国(以下,国)D市の低所得者地域で,1998年から基礎教育の調査をしている。本稿では,D市役所管轄の14か所の幼稚園(以下,D市幼稚園)の幼稚園教諭(以下,保育者)による教育支援が,子どもの学習機会や意識に与える影響について考察する。
・同国では1997年から乳幼児に対する様々な政策が実施されてきたが,いずれも達成には至っていない。
日本では小学校に入学する時期を接続期と捉え,幼稚園等での生活,様々な直接体験を伴う活動や遊びを通して,小学校で学習するために必要な力が育つと考えられている。スリランカには,そのような考え方はない。一般的な幼稚園では,保護者の意向により文字学習がなされている。
・開発途上国では就学前教育を無償で実施しているところは一部であり,同国も一般的な幼稚園は有償である。そのような中,D市幼稚園は無償で行われている。
研究結果の概要と考察
1.D市役所の幼稚園の状況
・D市幼稚園は各地域の有力者等が創設し,その後様々な経緯により市役所が管轄したものである。
1998年無償で保育が行われていたが,教材費給食費等の必要経費や保育者の給与の支給は滞っていた。入園を希望する子どもは全員入園でき,保護者が金銭を要求されることはなかったが,経費不足のため保育者が用意するような教材を子どもが持参する様子が見られた。2000年以降,必要経費は滞りなく支給されるようになり,給与金額は増額している。
・1998年,保育者は地域の学齢期の子どもが学習機会を得られていないという現状を知り,支援活動をはじめた。その改善には時間を要したが,在園児への就学対策は即時進められ,在園児全員が卒園後の学習の機会を得た。
・無償で,寄付の要求や入園審査がなく,地域にある教育の課題に働きかける保育者の存在は,低所得者層の子どもが継続的に学習する機会を保障する一方策になると推察する。
2.子どもの学ぶ意識の変化
・D市幼稚園では,常時文字学習を行っており,音声と文字を対応できてない発達段階の子どもも,ノートに文字や数字を書き写す様子が見られた。
・1999年から,D市W幼稚園の保育者は,保育について学ぶ機会を得た。それを切っ掛けに意欲的に仕事に取り組むようになり,子どもに対する態度が受容的になった。保育内容や方法も少しずつ変化し,短時間だが子どもが遊びを選択できる空間や時間が設けられた。遊ぶ時間が設定され文字学習の時間や量が減ると,保護者の中には子どもを登園させない方もいた。一方,子どもは遊びの時間がない時よりも,自分の欲求を表すだけでなく我慢しようとする姿が多く見られた。この時期,文字学習により有能感を高める子どもがいることも確認した。出席率が高まり,入園希望者も増えている。
・1998年の面接では,保護者の大半は「学校には十分行かせられないから園に行かせている」と述べた。その後「子どもには中等または高等教育まで受けさせたい」と述べる保護者が増えている。保護者の教育・保育に対する意識が変化した要因の一つには,保育者の働きもあると推察する。
・D市幼稚園全園を比較すると,W幼稚園のように子どもに対し受容的な態度で接したり保育を工夫したりする保育者のいる園では,出席率が高い。このような保育者の存在は,子どもに学習に必要な力を育む可能性があると考える。
・子どもが教育を受けることは基本的な権利の一つであるが,6000万人を超える子どもが初等教育を受けていないとされる。筆者はスリランカ国(以下,国)D市の低所得者地域で,1998年から基礎教育の調査をしている。本稿では,D市役所管轄の14か所の幼稚園(以下,D市幼稚園)の幼稚園教諭(以下,保育者)による教育支援が,子どもの学習機会や意識に与える影響について考察する。
・同国では1997年から乳幼児に対する様々な政策が実施されてきたが,いずれも達成には至っていない。
日本では小学校に入学する時期を接続期と捉え,幼稚園等での生活,様々な直接体験を伴う活動や遊びを通して,小学校で学習するために必要な力が育つと考えられている。スリランカには,そのような考え方はない。一般的な幼稚園では,保護者の意向により文字学習がなされている。
・開発途上国では就学前教育を無償で実施しているところは一部であり,同国も一般的な幼稚園は有償である。そのような中,D市幼稚園は無償で行われている。
研究結果の概要と考察
1.D市役所の幼稚園の状況
・D市幼稚園は各地域の有力者等が創設し,その後様々な経緯により市役所が管轄したものである。
1998年無償で保育が行われていたが,教材費給食費等の必要経費や保育者の給与の支給は滞っていた。入園を希望する子どもは全員入園でき,保護者が金銭を要求されることはなかったが,経費不足のため保育者が用意するような教材を子どもが持参する様子が見られた。2000年以降,必要経費は滞りなく支給されるようになり,給与金額は増額している。
・1998年,保育者は地域の学齢期の子どもが学習機会を得られていないという現状を知り,支援活動をはじめた。その改善には時間を要したが,在園児への就学対策は即時進められ,在園児全員が卒園後の学習の機会を得た。
・無償で,寄付の要求や入園審査がなく,地域にある教育の課題に働きかける保育者の存在は,低所得者層の子どもが継続的に学習する機会を保障する一方策になると推察する。
2.子どもの学ぶ意識の変化
・D市幼稚園では,常時文字学習を行っており,音声と文字を対応できてない発達段階の子どもも,ノートに文字や数字を書き写す様子が見られた。
・1999年から,D市W幼稚園の保育者は,保育について学ぶ機会を得た。それを切っ掛けに意欲的に仕事に取り組むようになり,子どもに対する態度が受容的になった。保育内容や方法も少しずつ変化し,短時間だが子どもが遊びを選択できる空間や時間が設けられた。遊ぶ時間が設定され文字学習の時間や量が減ると,保護者の中には子どもを登園させない方もいた。一方,子どもは遊びの時間がない時よりも,自分の欲求を表すだけでなく我慢しようとする姿が多く見られた。この時期,文字学習により有能感を高める子どもがいることも確認した。出席率が高まり,入園希望者も増えている。
・1998年の面接では,保護者の大半は「学校には十分行かせられないから園に行かせている」と述べた。その後「子どもには中等または高等教育まで受けさせたい」と述べる保護者が増えている。保護者の教育・保育に対する意識が変化した要因の一つには,保育者の働きもあると推察する。
・D市幼稚園全園を比較すると,W幼稚園のように子どもに対し受容的な態度で接したり保育を工夫したりする保育者のいる園では,出席率が高い。このような保育者の存在は,子どもに学習に必要な力を育む可能性があると考える。