3:30 PM - 5:30 PM
[PC59] 児童生徒理解のための多次元尺度の開発(3)
発達的観点からの児童生徒理解
Keywords:児童生徒理解, 多次元尺度, 発達的観点
問題と目的
不登校,いじめ,非行など,学校において教師が対応しなければならない問題は数多くあるが,子どもの発達段階によってもその行動の背景や意味は異なることがあり,子どもの発達段階も考慮しながら対応を考えることが求められる。特に,小学校高学年から中学校,高校にかけての思春期,青年期といわれる時期は,子どもたちは自立や自己の再構成といった課題に取り組むことになる。その中で,親や教師との関係が不安定になったり,コントロールできない感情に翻弄され情緒不安定になったりと,学校生活上の悩みだけでなく発達上の課題とからんだ困難も生じるようになる。そこで本研究では,児童生徒理解のための多次元尺度による調査結果を校種別に比較し,発達的観点から児童生徒の状態を把握することを目的とする。
方 法
調査時期:2016年10~12月。
調査対象:X県小学5~6年生1,140人,中学1~3年生1,847人,高校1~3年生5,190人。
調査内容:児童生徒理解のための多次元尺度を用い,「自己肯定感」(<自己評価・受容><関係の中の自己><自己主張・決定>,「学校適応」(<教師関係><友人関係><学力への自信>),「家庭の居心地と生きる意欲」(<家庭の居心地><生きる意欲>),「コミュニケーションとレジリエンス」(<コミュニケーション><レジリエンス>),「不適応」(<不登校><いじめ><抑うつ感>)の13因子,65項目について,4件法(「あてはまる」~「あてはまらない」)で回答を求めた。
調査方法:X県教育委員会を通して各校に質問紙を配布し実施。「回答は任意」「個人情報は守られる」「中断も可能」であること等の説明がなされた。
結果と考察
13因子の質問項目の平均点を小・中・高校の校種別に算出し比較した。小学生では,「不適応」3因子の平均は2.00点前後,その他因子の平均は3.00点前後と比較的健全な値を示したが,中学校,高校と校種が上がるにつれて得点が低下・悪化していた。特に,「自己肯定感」の<自己受容・評価>は校種が上がるほど得点が低下し,「学校適応」の<学力への自信>,「コミュニケーションとレジリエンス」の<レジリエンス>にも同様の傾向が見られた。また,「家庭の居心地と生きる意欲」の<家庭の居心地><生きる意欲>は中学生で著しい低下が見られ,「不適応」の<不登校><抑うつ感>は小学校,中学校,高校と校種が上がるにつれて上昇していた(Figure1)。
以上の結果から,中学生で家庭の居心地や生きる意欲の低下が特に見られ,前向きに生きようとする力が低下する傾向にあること,校種が上がるにつれて自己肯定感や学校適応が低下することが確認された。思春期という時期や部活や受験などさまざまな悩みが大きくなる時期の危うさを反映した結果であると考えられる。本研究で開発した児童生徒理解のための多次元尺度によるアセスメントは,発達段階の揺らぎを十分に反映したものであり,児童生徒の状態把握とともに,発達段階特有の揺らぎも踏まえて的確な支援を行うために有効なツールと考えられる。
付 記
本研究は奈良県教育振興課・教育委員会と奈良女子大学との共同研究の一部である。
不登校,いじめ,非行など,学校において教師が対応しなければならない問題は数多くあるが,子どもの発達段階によってもその行動の背景や意味は異なることがあり,子どもの発達段階も考慮しながら対応を考えることが求められる。特に,小学校高学年から中学校,高校にかけての思春期,青年期といわれる時期は,子どもたちは自立や自己の再構成といった課題に取り組むことになる。その中で,親や教師との関係が不安定になったり,コントロールできない感情に翻弄され情緒不安定になったりと,学校生活上の悩みだけでなく発達上の課題とからんだ困難も生じるようになる。そこで本研究では,児童生徒理解のための多次元尺度による調査結果を校種別に比較し,発達的観点から児童生徒の状態を把握することを目的とする。
方 法
調査時期:2016年10~12月。
調査対象:X県小学5~6年生1,140人,中学1~3年生1,847人,高校1~3年生5,190人。
調査内容:児童生徒理解のための多次元尺度を用い,「自己肯定感」(<自己評価・受容><関係の中の自己><自己主張・決定>,「学校適応」(<教師関係><友人関係><学力への自信>),「家庭の居心地と生きる意欲」(<家庭の居心地><生きる意欲>),「コミュニケーションとレジリエンス」(<コミュニケーション><レジリエンス>),「不適応」(<不登校><いじめ><抑うつ感>)の13因子,65項目について,4件法(「あてはまる」~「あてはまらない」)で回答を求めた。
調査方法:X県教育委員会を通して各校に質問紙を配布し実施。「回答は任意」「個人情報は守られる」「中断も可能」であること等の説明がなされた。
結果と考察
13因子の質問項目の平均点を小・中・高校の校種別に算出し比較した。小学生では,「不適応」3因子の平均は2.00点前後,その他因子の平均は3.00点前後と比較的健全な値を示したが,中学校,高校と校種が上がるにつれて得点が低下・悪化していた。特に,「自己肯定感」の<自己受容・評価>は校種が上がるほど得点が低下し,「学校適応」の<学力への自信>,「コミュニケーションとレジリエンス」の<レジリエンス>にも同様の傾向が見られた。また,「家庭の居心地と生きる意欲」の<家庭の居心地><生きる意欲>は中学生で著しい低下が見られ,「不適応」の<不登校><抑うつ感>は小学校,中学校,高校と校種が上がるにつれて上昇していた(Figure1)。
以上の結果から,中学生で家庭の居心地や生きる意欲の低下が特に見られ,前向きに生きようとする力が低下する傾向にあること,校種が上がるにつれて自己肯定感や学校適応が低下することが確認された。思春期という時期や部活や受験などさまざまな悩みが大きくなる時期の危うさを反映した結果であると考えられる。本研究で開発した児童生徒理解のための多次元尺度によるアセスメントは,発達段階の揺らぎを十分に反映したものであり,児童生徒の状態把握とともに,発達段階特有の揺らぎも踏まえて的確な支援を行うために有効なツールと考えられる。
付 記
本研究は奈良県教育振興課・教育委員会と奈良女子大学との共同研究の一部である。