3:30 PM - 5:30 PM
[PC65] 障害児保育における保育者の熟達化
保育困難感の分析を通して
Keywords:障害児保育, 熟達化, 保育困難感
問題と目的
障害児保育の経験は,保育者に他機関との連携の意識,過去の経験を活かす保育実践への意識を高めるといった熟達化をもたらす(扇子,1996)。財部(2002)が指摘するように,保育者の子どもの捉え方の変化は,子どもの行動の変化につながることを考えると,保育者の熟達化は子どもの発達支援に直結するであろう。保育経験が5年以上になると子ども理解が多様性をもつという指摘 (高濱,2000)を考えると,5年以内の保育者は様々な困難と直面しているであろう。本研究では,特に5年以内の保育者に焦点を当てて,発達に課題がある子どもの保育への困難感を通した保育者の熟達化について明らかにすることを目的とした。
方 法
1.対象者 保育者(保育所・幼稚園・認定こども園)434名を対象として,345名から回答を得た(回収率79.5%)。
2.質問項目 (1)基礎情報:年齢,所属,保育経験年数,発達に課題がある子どもの保育歴・担任歴 (2)保育困難感:発達に課題がある子どもの保育困難感(17項目) (3)熟達へのニーズ:発達に課題がある子どもの保育について保育者が成長したいと感じている面(23項目) ※いずれも山本ら(2006)・廣澤(2016)を参考にした
3.分析方法 保育困難感については,因子分析を行い,因子得点を求めた。所属,保育経験年数,発達に課題がある子どもの保育歴・担任歴と保育困難感との関連(分散分析),熟達へのニーズとの関連(χ2検定)を統計的に分析した。
4.倫理的配慮 個人が特定されないこと,保管と廃棄のプロセスについて書面で伝え,回収時は他の保育者に回答が見られないように配慮した。
結 果
1.保育困難感 保育困難感について因子分析を行った結果(最尤法・プロマックス回転),4因子構造(1項目削除)となった。第1因子(5項目):保護者との協働(α=.892),第2因子(5項目):園内外の連携(α=.857),第3因子(3項目):計画立案力(α=.820),第4因子(3項目):直接的支援力(α=.766)とした。また,各因子得点を求めた。
2.所属との関連 発達に課題がある子どもの保育経験年数が1~4年目の保育者に限定すると,「園内外の連携」のみ保育所保育士の困難感が高かった(F(1,254)=6.12, p<.05)。熟達へのニーズについては,検査についての知識,短期的な保育計画の立案,支援プログラムの知識等9項目について保育所との関連が見られた。
3.経験年数との関連 「保護者との協働」(F(1,283)=5.76,p<.05)「計画立案力」(F(1,283)=11.75,p<.01)「直接的支援力」(F(1,285)=4.85,p<.05)について保育経験年数1~4年目の困難感が高かった。また,子どもの観察記録,地域の親の会との連携,福祉の法律知識について1~4年目のニーズが高かった。
4.発達に課題がある子どもの保育経験年数との関連 発達に課題がある子どもの保育経験年数との関連を検討した結果,「園内外の連携」(F(1,256)=5.48,p<.05)「計画立案力」(F(1,253)=19.02,p<.001)「直接的支援力」(F(1,254)=12.87,p<.001)について1~4年目の保育者の困難感が高く,検査についての知識へのニーズが高かった。
5.発達に課題がある子どもの担任経験との関連
発達に課題がある子どもの保育経験年数が1~4年目の保育者に限定すると,ADHD児の担任経験者は「保護者との協働」(F(1,175)=4.21, p<.05)「園内外の連携」(F(1,176)=5.55,p<.05)について担任経験がない保育者と比べて困難感が高かった。
考 察
発達に課題がある子どもの保育経験年数が1~4年目の保育者にとって保育所の方がより「園内外の連携」が課題となっていた。これは,勤務形態の違いにより同僚や園長・主任等と相談する機会が少なくなること,発達に課題がある子どもは比較的保育所に多いことが関連していると考えられ,熟達のニーズも幅広いことが明らかとなった。
保育者が発達に課題がある子どもの保育に感じる困難感は,保育経験年数と発達に課題がある子どもの保育経験年数を基準にすると差異が見られた。このことから,初任の保育者は全ての困難感を持つものの,保育の経験が比較的長くても発達に課題がある子どもとの保育が初めてであれば,園内外との情報の共有等に課題を持ち,熟達のニーズも異なっていることが示唆された。
ADHD児の担任経験が保護者との協働,園内外の連携の困難感を高めているのは,子どものネガティブな行動を保護者に説明しつつ解決を模索していくことや園全体で協働して保育を行う体制を構築していくことに困難を感じていると考えられた。
障害児保育の経験は,保育者に他機関との連携の意識,過去の経験を活かす保育実践への意識を高めるといった熟達化をもたらす(扇子,1996)。財部(2002)が指摘するように,保育者の子どもの捉え方の変化は,子どもの行動の変化につながることを考えると,保育者の熟達化は子どもの発達支援に直結するであろう。保育経験が5年以上になると子ども理解が多様性をもつという指摘 (高濱,2000)を考えると,5年以内の保育者は様々な困難と直面しているであろう。本研究では,特に5年以内の保育者に焦点を当てて,発達に課題がある子どもの保育への困難感を通した保育者の熟達化について明らかにすることを目的とした。
方 法
1.対象者 保育者(保育所・幼稚園・認定こども園)434名を対象として,345名から回答を得た(回収率79.5%)。
2.質問項目 (1)基礎情報:年齢,所属,保育経験年数,発達に課題がある子どもの保育歴・担任歴 (2)保育困難感:発達に課題がある子どもの保育困難感(17項目) (3)熟達へのニーズ:発達に課題がある子どもの保育について保育者が成長したいと感じている面(23項目) ※いずれも山本ら(2006)・廣澤(2016)を参考にした
3.分析方法 保育困難感については,因子分析を行い,因子得点を求めた。所属,保育経験年数,発達に課題がある子どもの保育歴・担任歴と保育困難感との関連(分散分析),熟達へのニーズとの関連(χ2検定)を統計的に分析した。
4.倫理的配慮 個人が特定されないこと,保管と廃棄のプロセスについて書面で伝え,回収時は他の保育者に回答が見られないように配慮した。
結 果
1.保育困難感 保育困難感について因子分析を行った結果(最尤法・プロマックス回転),4因子構造(1項目削除)となった。第1因子(5項目):保護者との協働(α=.892),第2因子(5項目):園内外の連携(α=.857),第3因子(3項目):計画立案力(α=.820),第4因子(3項目):直接的支援力(α=.766)とした。また,各因子得点を求めた。
2.所属との関連 発達に課題がある子どもの保育経験年数が1~4年目の保育者に限定すると,「園内外の連携」のみ保育所保育士の困難感が高かった(F(1,254)=6.12, p<.05)。熟達へのニーズについては,検査についての知識,短期的な保育計画の立案,支援プログラムの知識等9項目について保育所との関連が見られた。
3.経験年数との関連 「保護者との協働」(F(1,283)=5.76,p<.05)「計画立案力」(F(1,283)=11.75,p<.01)「直接的支援力」(F(1,285)=4.85,p<.05)について保育経験年数1~4年目の困難感が高かった。また,子どもの観察記録,地域の親の会との連携,福祉の法律知識について1~4年目のニーズが高かった。
4.発達に課題がある子どもの保育経験年数との関連 発達に課題がある子どもの保育経験年数との関連を検討した結果,「園内外の連携」(F(1,256)=5.48,p<.05)「計画立案力」(F(1,253)=19.02,p<.001)「直接的支援力」(F(1,254)=12.87,p<.001)について1~4年目の保育者の困難感が高く,検査についての知識へのニーズが高かった。
5.発達に課題がある子どもの担任経験との関連
発達に課題がある子どもの保育経験年数が1~4年目の保育者に限定すると,ADHD児の担任経験者は「保護者との協働」(F(1,175)=4.21, p<.05)「園内外の連携」(F(1,176)=5.55,p<.05)について担任経験がない保育者と比べて困難感が高かった。
考 察
発達に課題がある子どもの保育経験年数が1~4年目の保育者にとって保育所の方がより「園内外の連携」が課題となっていた。これは,勤務形態の違いにより同僚や園長・主任等と相談する機会が少なくなること,発達に課題がある子どもは比較的保育所に多いことが関連していると考えられ,熟達のニーズも幅広いことが明らかとなった。
保育者が発達に課題がある子どもの保育に感じる困難感は,保育経験年数と発達に課題がある子どもの保育経験年数を基準にすると差異が見られた。このことから,初任の保育者は全ての困難感を持つものの,保育の経験が比較的長くても発達に課題がある子どもとの保育が初めてであれば,園内外との情報の共有等に課題を持ち,熟達のニーズも異なっていることが示唆された。
ADHD児の担任経験が保護者との協働,園内外の連携の困難感を高めているのは,子どものネガティブな行動を保護者に説明しつつ解決を模索していくことや園全体で協働して保育を行う体制を構築していくことに困難を感じていると考えられた。