3:30 PM - 5:30 PM
[PC80] 類似判断における先行知識の影響
Keywords:先行知識, 注視点解析, 筆跡
目 的
筆跡鑑定は,書き手が分からない筆跡と書き手が分かっている筆跡を比較して,書き手が分からない筆跡の筆者が,書き手が分かっている筆跡の筆者と同じかどうかを識別する。あるものを別のものと識別するには,識別対象に関する知識が必要である。筆跡の識別にはどのような知識が必要か,先行知識と識別結果に関係があるかどうかを明らかにするために,筆跡とそれ以外の類似画像を用いて類似画像を分類する課題を行わせ,課題実行中の注視点計測の結果をもとに,類似する観察対象の分類方略と先行知識の関係を考察した。
方 法
文書鑑定の経験が3年から25年程度の者(経験者)8名および,文書鑑定の経験がない者(未経験者)20名に,複数の類似画像および同一字種の筆跡6個から共通の特徴を持つ画像ごとにグループ分けする課題を行わせ,課題試行中の視線の動きをアイトラッキング装置により計測した。
呈示刺激は二部構成となっており,前半は,類似した花や動物を区別する課題を5課題,後半は,6個の筆跡を似たものどうしに分類する16課題,計21課題であった。筆跡の分類では,ディスプレーに6個の筆跡(同一字種の一文字)が呈示され,6個の筆跡を似たものどうしにグループ分けをさせた。実験参加者には,あらかじめ,6個の筆跡は2人ないし4人の筆者が書いた筆跡であること(ただし,一人の筆者が何個の筆跡を書いたかは刺激により異なる),6個の筆跡をよく似ている筆跡どうしに分類してほしいこと(ただし,同じ筆者が書いたとは思えないほど似ていない,あるいは他人が書いたとは思えないほど似ている筆跡があるので,筆者の数と同数のグループに分類することにはこだわらず,よく似ていると思われるものどうしに分類してほしい),わからないものは,わからないと回答してよいことを教示した。
筆跡の分類課題は,16試行であったが,試行に使用した文字種は10個であった。したがって,1文字種につき2試行を行った文字があったが,この場合,2回目に提示された筆跡はすべて,1回目に提示された筆跡の筆者とは異なる筆者の筆跡を用いた。また,花や動物を分類する課題のうち1種類は,3種類の花の写真を呈示して相違する箇所を指摘させた後,その3種類を区別するための特徴を描いた図を見せ,その図を手掛かりに3種類の花を区別する課題(区別には,最初とは異なる写真を使用した)を行った。
実験参加者には,本試行の前に練習用の試行(3種類の画像の区別1試行と,本試行とは異なる6個の筆跡の分類1試行)を行った。
また,実験開始前に,各実験参加者に,植物に対する興味の有無,動物飼育経験の有無,書道経験の有無など,本実験結果に影響があると思われる知識や経験の有無と経験年数を尋ねた。
視線の計測には,計測装置にEyetech TM3(Eyetech Digital System製),解析ソフトウェアにQG Plus(DITECT製)を使用した。
いずれの試行においても,実験参加者に分類結果(類似画像の相違点,同じ筆者が書いた筆跡に分類した結果)とその根拠を回答させた。
結果および考察
観察時間:1試行あたりの平均観察時間は全体で経験者73.6秒,未経験者53.9秒,類似画像課題で経験者44.9秒,未経験者43.9秒,筆跡分類課題では,経験者81.1秒,未経験者56.9秒であった。類似画像課題では経験者と未経験者の差はなかったが,筆跡分類課題では,経験者の観察時間が長かった。
注視箇所:筆跡課題では,経験者,未経験者のいずれも,類似もしくは相違の根拠として指摘した箇所を注視していた。同一文字種の場合,異なる試行においても同じ個所を注視する参加者が見られた。判断根拠の回答をもとに注視箇所を比較したところ,文字の大きさや色材の濃さなど,文字全体に関する情報は,文字の部分特徴(転折の状態,点画の大きさや位置関係など)と比較すると注視度が低かったが,分類方針決定に利用されていた。一方,類似画像課題では,注視箇所が分類の根拠となっていた。分類情報提供の有無を比較した画像では,情報提供ありの画像では,情報提供された箇所が注視されていた。
回答内容:類似画像課題では経験者と未経験者に差が見られなかったが,筆跡分類課題では,未経験者は経験者に比較して,注目箇所の指摘や形態の記述に擬態語が多かった。経験者は形態を書字行動の観点から記述しており,観察結果および結論に至る意思決定過程の説明を分析的に表現する知識をより多くもっていることがわかった。
筆跡鑑定は,書き手が分からない筆跡と書き手が分かっている筆跡を比較して,書き手が分からない筆跡の筆者が,書き手が分かっている筆跡の筆者と同じかどうかを識別する。あるものを別のものと識別するには,識別対象に関する知識が必要である。筆跡の識別にはどのような知識が必要か,先行知識と識別結果に関係があるかどうかを明らかにするために,筆跡とそれ以外の類似画像を用いて類似画像を分類する課題を行わせ,課題実行中の注視点計測の結果をもとに,類似する観察対象の分類方略と先行知識の関係を考察した。
方 法
文書鑑定の経験が3年から25年程度の者(経験者)8名および,文書鑑定の経験がない者(未経験者)20名に,複数の類似画像および同一字種の筆跡6個から共通の特徴を持つ画像ごとにグループ分けする課題を行わせ,課題試行中の視線の動きをアイトラッキング装置により計測した。
呈示刺激は二部構成となっており,前半は,類似した花や動物を区別する課題を5課題,後半は,6個の筆跡を似たものどうしに分類する16課題,計21課題であった。筆跡の分類では,ディスプレーに6個の筆跡(同一字種の一文字)が呈示され,6個の筆跡を似たものどうしにグループ分けをさせた。実験参加者には,あらかじめ,6個の筆跡は2人ないし4人の筆者が書いた筆跡であること(ただし,一人の筆者が何個の筆跡を書いたかは刺激により異なる),6個の筆跡をよく似ている筆跡どうしに分類してほしいこと(ただし,同じ筆者が書いたとは思えないほど似ていない,あるいは他人が書いたとは思えないほど似ている筆跡があるので,筆者の数と同数のグループに分類することにはこだわらず,よく似ていると思われるものどうしに分類してほしい),わからないものは,わからないと回答してよいことを教示した。
筆跡の分類課題は,16試行であったが,試行に使用した文字種は10個であった。したがって,1文字種につき2試行を行った文字があったが,この場合,2回目に提示された筆跡はすべて,1回目に提示された筆跡の筆者とは異なる筆者の筆跡を用いた。また,花や動物を分類する課題のうち1種類は,3種類の花の写真を呈示して相違する箇所を指摘させた後,その3種類を区別するための特徴を描いた図を見せ,その図を手掛かりに3種類の花を区別する課題(区別には,最初とは異なる写真を使用した)を行った。
実験参加者には,本試行の前に練習用の試行(3種類の画像の区別1試行と,本試行とは異なる6個の筆跡の分類1試行)を行った。
また,実験開始前に,各実験参加者に,植物に対する興味の有無,動物飼育経験の有無,書道経験の有無など,本実験結果に影響があると思われる知識や経験の有無と経験年数を尋ねた。
視線の計測には,計測装置にEyetech TM3(Eyetech Digital System製),解析ソフトウェアにQG Plus(DITECT製)を使用した。
いずれの試行においても,実験参加者に分類結果(類似画像の相違点,同じ筆者が書いた筆跡に分類した結果)とその根拠を回答させた。
結果および考察
観察時間:1試行あたりの平均観察時間は全体で経験者73.6秒,未経験者53.9秒,類似画像課題で経験者44.9秒,未経験者43.9秒,筆跡分類課題では,経験者81.1秒,未経験者56.9秒であった。類似画像課題では経験者と未経験者の差はなかったが,筆跡分類課題では,経験者の観察時間が長かった。
注視箇所:筆跡課題では,経験者,未経験者のいずれも,類似もしくは相違の根拠として指摘した箇所を注視していた。同一文字種の場合,異なる試行においても同じ個所を注視する参加者が見られた。判断根拠の回答をもとに注視箇所を比較したところ,文字の大きさや色材の濃さなど,文字全体に関する情報は,文字の部分特徴(転折の状態,点画の大きさや位置関係など)と比較すると注視度が低かったが,分類方針決定に利用されていた。一方,類似画像課題では,注視箇所が分類の根拠となっていた。分類情報提供の有無を比較した画像では,情報提供ありの画像では,情報提供された箇所が注視されていた。
回答内容:類似画像課題では経験者と未経験者に差が見られなかったが,筆跡分類課題では,未経験者は経験者に比較して,注目箇所の指摘や形態の記述に擬態語が多かった。経験者は形態を書字行動の観点から記述しており,観察結果および結論に至る意思決定過程の説明を分析的に表現する知識をより多くもっていることがわかった。