10:00 AM - 12:00 PM
[PD01] 社会性の発達に問題を有する対象児に対する教育実践
課題の設定と複数の教授者が対象児を取り巻く構造の意義について
Keywords:社会性の発達, 教育実践, 複数の教授者の構造
何事にも自信が持てず不安が強く対人的相互作用が形成されない対象児に対して,社会的相互作用を促進する教育実践を行う。具体的には,種々の役割を持った複数の教授者が関わりを持つことによって,対象児が作業を通して成功体験を持ち,他者との協力の効果に気づき,他者との相互作用を形成することを促進する。
相互作用を発現させるために,対象児に見合った課題を第3項として設定し,対象児と教授者が課題を媒介項とする3項関係を構築する。実践の初期は作業そのものが第3項として機能する課題を使用し,他者と共同して作業すると完成出来るという体験をさせ,他者との相互作用の意味を明確化する。中期以降は,共通目的を持って作業する場面を構成し,作業したものを使って構成的な遊びができる課題を設定する。さらに,課題そのものだけで無く,その場のできごとも第3項としてとりあげて,それを話題とした対話場面を構成する。それにより,第3項を媒介した対人的相互作用の展開を促す。
また,対象児を取り巻く複数の教授者が異なる役割を持って対象児に関わる場面を構成する。具体的には,課題を指示して作業を明確化する指示者,対象児の傍らにいて対象児に連動して補助する補助者,場面全体を統括する統括者をおく。教授者それぞれが対象児の問題にとって有意な役割をもち,異なる関わりを持つ集団として対象児に関わる場面を構成することにより,質の異なる対人相互作用が生じると仮定して,教育実践を行う。
方 法
対象児:B(小学3年生男児)不安が強くて対人相互作用がうまく出来ない。何事も自信が持てず,消極的である。
実践期間:20XX年7月~11月(計11回)各1時間
実践場所:都内Z大学心理相談センター内プレイルーム
教授者(A)集団:同大学大学院臨床心理学専攻院生5名(毎回役割を交代)指示者,補助者,統括者(教員)
各期のなりゆきと考察
第1期:主に補助者との共同作業場面(#1~#3)
対象児一人では出来ないが,出来あがりのイメージは持てる課題(妖怪ウォッチパズル,レゴ等)を使用し,指示に応じながら補助者と共に作業することで何かが出来上がって行く共同作業場面を構成した。教授者達が異なる役割を取って,ゆるやかに対象児を囲んだ。Bは人と一緒にやると何かができあがる過程を通して,Aの指示を受容する様子や,できあがったときにハイタッチするなど,場を共有する様子を見せた。しかしやりとりは,Aの働きかけに対する諾否の反応のみであった。
<考察>主に補助者との協同作業場面が形成されたことにより,他者と作業することの有効性と他者との相互作用の意義が意識されることに繋がった。
第2期:共通の作業目的をもった相互作用(#4~#8)
折り紙・工作は,指示に応じて細かい操作を重ねるとできあがる体験を重ねていくうちに,自ら見本通りに工作しようと工夫する様子を見せた。完成した飛行機を皆で飛ばす場面では、一番よく飛ぶ飛行機を真っ先に取って飛ばした。
#6の最後に,まだ折り上げていないAの一人に対して,Bが手裏剣の折り方を教える場面を構成した。Bは折り図と見比べながらAに折り方を単語で指示し,折り図を指し示し,相手の折り紙を押さえてあげ,最後は代わりに折ってあげるという一連の行動を現した。
<考察>折り図を見て折ろうとする意欲的な行動が発現している。教授者達との作業目的が共有され,共通目標を達成する作業がなめらかに展開した。飛行機を飛ばす場面でよく飛ぶ飛行機を選択したということは,相手に勝とうとする意識の表れである。教師役割をとる場面は,相手の作業を参照しながら自分の知識を対応づける必要がある。他者と関わる意識が一層高まった結果,相手に対する種々の補助行動が発現したと考えられる。
第3期:1対多場面の3項関係の形成(#9~#11)
サメをちぎり絵で作る途中で,水族館に行ったことを話題にすると,単語ではあるが6ターンのやりとりが成立した(#9)。同様に作業に関連する話題を取り上げると,双六のお題作り課題(#10)では4ターン,カルタ作り(#11)では,9ターンのやりとりが成立した。
また,双六ではBを含めた4人の対戦状況を構成した。はじめはやる気が無い素振りでサイコロを振っていたが,2人が上がってしまいBと補助者が残ると,しっかりとサイコロを振り,コマも素早く移動させた。相手のサイコロの目を見て,上がらないと分かるとニヤッとした。
<考察>単語レベルではあるが,ことばによるやりとりが成立したことは,作業と関連した話題が,第3項として明確化されたことによる。また,ゆるやかな競争場面を導入すると,相手を意識した関わりが発生している。1対1では勝ち負けという結果のみに注意が向きやすいが,複数の他者がいる中では,適度に距離を保ちつつ競争できる。その結果,本気で勝とうとする関わりが現れた。複数の他者がいる実践場面を構成した効果である。
全体考察
第3項として取りかかりやすい課題を設定したこと、および現に作業している事柄から派生した話題を使用して3項関係を構成したことと,役割が異なる複数の教授者が対象児を取り巻く実践場面を構成したことは,対象児の社会性の発達に対して有効に機能したと考えられる。
相互作用を発現させるために,対象児に見合った課題を第3項として設定し,対象児と教授者が課題を媒介項とする3項関係を構築する。実践の初期は作業そのものが第3項として機能する課題を使用し,他者と共同して作業すると完成出来るという体験をさせ,他者との相互作用の意味を明確化する。中期以降は,共通目的を持って作業する場面を構成し,作業したものを使って構成的な遊びができる課題を設定する。さらに,課題そのものだけで無く,その場のできごとも第3項としてとりあげて,それを話題とした対話場面を構成する。それにより,第3項を媒介した対人的相互作用の展開を促す。
また,対象児を取り巻く複数の教授者が異なる役割を持って対象児に関わる場面を構成する。具体的には,課題を指示して作業を明確化する指示者,対象児の傍らにいて対象児に連動して補助する補助者,場面全体を統括する統括者をおく。教授者それぞれが対象児の問題にとって有意な役割をもち,異なる関わりを持つ集団として対象児に関わる場面を構成することにより,質の異なる対人相互作用が生じると仮定して,教育実践を行う。
方 法
対象児:B(小学3年生男児)不安が強くて対人相互作用がうまく出来ない。何事も自信が持てず,消極的である。
実践期間:20XX年7月~11月(計11回)各1時間
実践場所:都内Z大学心理相談センター内プレイルーム
教授者(A)集団:同大学大学院臨床心理学専攻院生5名(毎回役割を交代)指示者,補助者,統括者(教員)
各期のなりゆきと考察
第1期:主に補助者との共同作業場面(#1~#3)
対象児一人では出来ないが,出来あがりのイメージは持てる課題(妖怪ウォッチパズル,レゴ等)を使用し,指示に応じながら補助者と共に作業することで何かが出来上がって行く共同作業場面を構成した。教授者達が異なる役割を取って,ゆるやかに対象児を囲んだ。Bは人と一緒にやると何かができあがる過程を通して,Aの指示を受容する様子や,できあがったときにハイタッチするなど,場を共有する様子を見せた。しかしやりとりは,Aの働きかけに対する諾否の反応のみであった。
<考察>主に補助者との協同作業場面が形成されたことにより,他者と作業することの有効性と他者との相互作用の意義が意識されることに繋がった。
第2期:共通の作業目的をもった相互作用(#4~#8)
折り紙・工作は,指示に応じて細かい操作を重ねるとできあがる体験を重ねていくうちに,自ら見本通りに工作しようと工夫する様子を見せた。完成した飛行機を皆で飛ばす場面では、一番よく飛ぶ飛行機を真っ先に取って飛ばした。
#6の最後に,まだ折り上げていないAの一人に対して,Bが手裏剣の折り方を教える場面を構成した。Bは折り図と見比べながらAに折り方を単語で指示し,折り図を指し示し,相手の折り紙を押さえてあげ,最後は代わりに折ってあげるという一連の行動を現した。
<考察>折り図を見て折ろうとする意欲的な行動が発現している。教授者達との作業目的が共有され,共通目標を達成する作業がなめらかに展開した。飛行機を飛ばす場面でよく飛ぶ飛行機を選択したということは,相手に勝とうとする意識の表れである。教師役割をとる場面は,相手の作業を参照しながら自分の知識を対応づける必要がある。他者と関わる意識が一層高まった結果,相手に対する種々の補助行動が発現したと考えられる。
第3期:1対多場面の3項関係の形成(#9~#11)
サメをちぎり絵で作る途中で,水族館に行ったことを話題にすると,単語ではあるが6ターンのやりとりが成立した(#9)。同様に作業に関連する話題を取り上げると,双六のお題作り課題(#10)では4ターン,カルタ作り(#11)では,9ターンのやりとりが成立した。
また,双六ではBを含めた4人の対戦状況を構成した。はじめはやる気が無い素振りでサイコロを振っていたが,2人が上がってしまいBと補助者が残ると,しっかりとサイコロを振り,コマも素早く移動させた。相手のサイコロの目を見て,上がらないと分かるとニヤッとした。
<考察>単語レベルではあるが,ことばによるやりとりが成立したことは,作業と関連した話題が,第3項として明確化されたことによる。また,ゆるやかな競争場面を導入すると,相手を意識した関わりが発生している。1対1では勝ち負けという結果のみに注意が向きやすいが,複数の他者がいる中では,適度に距離を保ちつつ競争できる。その結果,本気で勝とうとする関わりが現れた。複数の他者がいる実践場面を構成した効果である。
全体考察
第3項として取りかかりやすい課題を設定したこと、および現に作業している事柄から派生した話題を使用して3項関係を構成したことと,役割が異なる複数の教授者が対象児を取り巻く実践場面を構成したことは,対象児の社会性の発達に対して有効に機能したと考えられる。