日本教育心理学会第59回総会

講演情報

ポスター発表 PD(01-83)

ポスター発表 PD(01-83)

2017年10月8日(日) 10:00 〜 12:00 白鳥ホールB (4号館1階)

10:00 〜 12:00

[PD21] 音楽教育の経験に基づく成人の読譜力と自発的な音楽活動についての一調査

牛久香織 (心泉學舎)

キーワード:音楽科教育, 読譜力

背景と目的
 小学校学習指導要領の変換を調査した水町(2010)は昭和26年改訂は最も読譜指導が充実し過密で程度も高かったが児童の発達に即応していたのに対し,昭和50年改訂以降は読譜指導が大幅に縮小され自発的な音楽活動を不自由なものにさせる危惧を提示した。だが実際に読譜力が自発的な音楽力とどのように関わるのかを明らかにしていない。今井・奥(1978)は知識を習得しても実音化できるのは大学生でさえ約20%に過ぎないとし,今井・木村(1980)では年長児と小学1年生の音楽科指導においてメロディの一部として音符を与える方法が有意義だったとした。しかし読譜力の習得まで導けたか否かまでは踏み込めていない。そこで成人の読譜力と音楽科教育の受動的体験及び現在における音楽との関わりを知ることで自発的に音楽を楽しめるようになるための音楽科教育のあり方を模索していく。
方   法
 20歳以上80歳未満男女各世代15名ずつ計180名(AV. 49.41歳,SD.17.45)を対象として質問紙によるアンケート調査を2017年4月8日から5月7日の期間で行った。
結   果
 (1)読譜できると回答した割合は35.00%で,世代別では20代63.33%,30代50.00%,40代26.67%,50代33.33%,60代23.33%,70代13.33%であった。(2)読譜力を要因とした音楽を好むか否かについての一要因分散分析の結果はF(1,178)=9.076,P<0.00297となり0.01%水準で有意,読譜力を要因とした自発的に音楽活動を楽しむか否かについての一要因分散分析結果はF(1,178)=33.18,P<3.62E-08となり0%標準で有意,音楽が好きか否かを要因とした自発的に音楽活動を楽しむか否かについての一要因分散分析結果はF(2,177)=80.73,P<2e-16となり0%水準で有意であった。さらに多重比較において「音楽が好き-自発的な音楽活動として歌を歌う」・「音楽が好き-自発的な音楽活動として歌を歌い演奏をする」はともにP<1e-04となり0%水準で有意であった。(3)読譜力を習得していると回答した割合が高い20代・30代は読譜を習得した時期を入学時に憧れて入部した中学高校期の吹奏楽等部活時と回答割合が最も高く51.43%であった。次に就学前の楽器の稽古時で義務教育課程を過ぎても稽古を続けている場合で37.14%となった。読譜の習得時期を要因とした自発的に音楽活動を楽しむか否かについての一要因分散分析結果は,F(2,60)=12.24,P<3.48E-05となり0%水準で有意であった。(4)読譜ができないと回答した場合に○1楽譜に記載された音符や記号の知識は習得したが実音化はできないのか○2読譜はできないが演奏や歌を聞いて再現することはできるのか○3読譜力を得たいと思っているのかについて及び○1〜○3の事項と自発的な音楽活動との関わりを確認した。重回帰分析結果を図1に示す。
結   論
 自発的な音楽活動は読譜力によって促されるが,加えて習得方法や時期・きっかけも大きな要因となる。メロディからの習得は模倣としての楽器を弾く行為や歌を歌う行為を可能にするが読譜力を養うには至らないことが示唆された。
今後の展望
 楽譜に記載された音符や記号の知識を習得したが実音化できない原因と読譜はできないが演奏や歌を聞いて再現することができる要因を明確にし,読譜力習得への手がかりを探る。
参考文献
水町愛(2010)音楽教育における読譜指導についての研究-小学校指導要領の変換を中心に-
今井靖親・奥忍(1978)音楽 教科学習の心理学第II部第5章図書文化 125-150
今井靖親・木村順子(1980)読譜学習に関する心理学的研究