10:00 AM - 12:00 PM
[PD22] ピグマリオン効果は本当なのか?
教育現場での6年間の実験的研究結果からみる
Keywords:期待効果, 教師, 学習成果
問題・目的
動機づけ研究において期待概念の中では,Rosenthal&Jacobson(1968)実験により,教師期待効果(teacher expectation effect)に関する研究が注目されてきた。教師期待効果は,ピグマリオン(Pygmalion)効果とも呼ばれ,児童・生徒の学業成績や学級内行動が教師の期待する方向で成就するという現象を意味する。ピグマリオン効果の最初の研究は,心理学の実験者を対象としたものであり,ローゼンタールらは,同様の結果は,動物を使った研究でも見られた。ネズミの学習実験においてヒントを得て,小学校の児童・生徒への実験では,教師が期待をかけた個々の生徒とそうでない個々の生徒では成績の伸びに明らかな違いが見られた。この実験をめぐっては様々に批判が寄せられた。ローゼンタール自身の論文で「期待を抱くことになる生徒とのつきあいが2週間以内の教師の場合には91%の研究でピグマリオン効果が見られたが,2週間以上のつきあいがある教師では12%の研究でしか効果が見られなかった」という報告がなされている。
期待効果を生み出す要因として雰囲気等を表しているが,長期にわたるならば,多大な影響を及ぼすと考えられる。一般的な期待と個人的な期待の中間に集団の属性に基づく,集団に対する期待も予測される。これまでの期待研究の多くは個別的な期待を扱っている。そこで,本研究では,教師期待が集団成員の大学生の集団の学習成果に対する教師の原因帰属に及ぼす効果を,教育現場で実験的に検討することを目的とする。以下の仮説を検証とする。教師期待が学生集団の学習成果に及ぼす効果的な影響力をもつのであろう。
方 法
実験時期:2011年度~2016年度
実験計画:実験集団(クラス)に教師期待することの有無の1要因を独立変数とし,期末学習成果発表順位による学業成績を従属変数とした。
実験参加者(集団):年度につき,250名位の新入1年大学生約20名程度の人数(男性14~18名,女性2~6名)でランダムに12クラスが編成された。うち,年度毎に同担当教員は同じ科目で受講曜日(火・木)異なる2つのA・Bクラスに,6年間で計12クラスに実験した。
実験手続:12クラス(集団)に,期待することを強調的に伝えるクラス(実験群),言語的に伝達しないクラス(統制群)に,ランダムに実施した。具体的に,各年度の初回目の授業のオリエンテーションに,授業の科目概要等説明した後,「年度末に行われる学習成果全体発表会でよい報告ができるように,一年間頑張ってください。大いに期待しています」というポジティブな言葉をかけた。各年度末に,クラスの代表グループが他の担当教員のクラスを含めた6クラスずつ,火曜受講クラス全体会と木曜受講クラスのそれぞれの全体会で,同科目内容についての学習成果の発表が行われ,学部教員の投票数(科目担当教員は自分の担当クラスに投票しない)による順位つけられた。
結 果
年度別の教師期待有無と学習成果のカテゴリーはTable1に,まず,ダミー変数(0,1)を用いて,定性的データを定量的データに置き換えた。教師が学生に対する期待の有無のカテゴリーはダミー変数(0,1)を用いて,「期待あり」を1,「期待なし」を2と設定した。学習成果発表の順位は,「1位」を6,「2位」を5,…という順に得点化した。t検定結果,期待言語強化実験群と統制群の顕著な有意差が示された(t(10)=-.759,P<.001)。Figure1のパス解析結果では,教師期待が学生集団の学習成果に有意な正のパス係数が確認された。
考 察
本研究では,教師期待が集団成員の大学生の集団の学習成果に対する教師の原因帰属に及ぼす効果を,教育現場で実験的に検討した。教師期待が学生集団の学習成績に強い影響を及ぼしている仮説が支持された。教師が何を手掛かりとして期待を形成するかは非常に重要である。蘭・内田(1995)は,教師期待は言語的行動よりも非言語的行動に表しやすいこと,教師期待と教師期待認知が生徒の学習意欲に影響することを示した。教師の期待度,教師の蓄積された経験,学生への能力潜在認知等によって,教師の生徒・学生に対する期待形成はさまざまな側面で考えられる。今後教師期待の規定因および期待効果の生成条件についてより精緻な研究が必要である。
動機づけ研究において期待概念の中では,Rosenthal&Jacobson(1968)実験により,教師期待効果(teacher expectation effect)に関する研究が注目されてきた。教師期待効果は,ピグマリオン(Pygmalion)効果とも呼ばれ,児童・生徒の学業成績や学級内行動が教師の期待する方向で成就するという現象を意味する。ピグマリオン効果の最初の研究は,心理学の実験者を対象としたものであり,ローゼンタールらは,同様の結果は,動物を使った研究でも見られた。ネズミの学習実験においてヒントを得て,小学校の児童・生徒への実験では,教師が期待をかけた個々の生徒とそうでない個々の生徒では成績の伸びに明らかな違いが見られた。この実験をめぐっては様々に批判が寄せられた。ローゼンタール自身の論文で「期待を抱くことになる生徒とのつきあいが2週間以内の教師の場合には91%の研究でピグマリオン効果が見られたが,2週間以上のつきあいがある教師では12%の研究でしか効果が見られなかった」という報告がなされている。
期待効果を生み出す要因として雰囲気等を表しているが,長期にわたるならば,多大な影響を及ぼすと考えられる。一般的な期待と個人的な期待の中間に集団の属性に基づく,集団に対する期待も予測される。これまでの期待研究の多くは個別的な期待を扱っている。そこで,本研究では,教師期待が集団成員の大学生の集団の学習成果に対する教師の原因帰属に及ぼす効果を,教育現場で実験的に検討することを目的とする。以下の仮説を検証とする。教師期待が学生集団の学習成果に及ぼす効果的な影響力をもつのであろう。
方 法
実験時期:2011年度~2016年度
実験計画:実験集団(クラス)に教師期待することの有無の1要因を独立変数とし,期末学習成果発表順位による学業成績を従属変数とした。
実験参加者(集団):年度につき,250名位の新入1年大学生約20名程度の人数(男性14~18名,女性2~6名)でランダムに12クラスが編成された。うち,年度毎に同担当教員は同じ科目で受講曜日(火・木)異なる2つのA・Bクラスに,6年間で計12クラスに実験した。
実験手続:12クラス(集団)に,期待することを強調的に伝えるクラス(実験群),言語的に伝達しないクラス(統制群)に,ランダムに実施した。具体的に,各年度の初回目の授業のオリエンテーションに,授業の科目概要等説明した後,「年度末に行われる学習成果全体発表会でよい報告ができるように,一年間頑張ってください。大いに期待しています」というポジティブな言葉をかけた。各年度末に,クラスの代表グループが他の担当教員のクラスを含めた6クラスずつ,火曜受講クラス全体会と木曜受講クラスのそれぞれの全体会で,同科目内容についての学習成果の発表が行われ,学部教員の投票数(科目担当教員は自分の担当クラスに投票しない)による順位つけられた。
結 果
年度別の教師期待有無と学習成果のカテゴリーはTable1に,まず,ダミー変数(0,1)を用いて,定性的データを定量的データに置き換えた。教師が学生に対する期待の有無のカテゴリーはダミー変数(0,1)を用いて,「期待あり」を1,「期待なし」を2と設定した。学習成果発表の順位は,「1位」を6,「2位」を5,…という順に得点化した。t検定結果,期待言語強化実験群と統制群の顕著な有意差が示された(t(10)=-.759,P<.001)。Figure1のパス解析結果では,教師期待が学生集団の学習成果に有意な正のパス係数が確認された。
考 察
本研究では,教師期待が集団成員の大学生の集団の学習成果に対する教師の原因帰属に及ぼす効果を,教育現場で実験的に検討した。教師期待が学生集団の学習成績に強い影響を及ぼしている仮説が支持された。教師が何を手掛かりとして期待を形成するかは非常に重要である。蘭・内田(1995)は,教師期待は言語的行動よりも非言語的行動に表しやすいこと,教師期待と教師期待認知が生徒の学習意欲に影響することを示した。教師の期待度,教師の蓄積された経験,学生への能力潜在認知等によって,教師の生徒・学生に対する期待形成はさまざまな側面で考えられる。今後教師期待の規定因および期待効果の生成条件についてより精緻な研究が必要である。