10:00 AM - 12:00 PM
[PD26] 反復的な振り返りを可能にするプレゼンテーション教育のデザイン
Keywords:プレゼンテーション, 評価, 振り返り
背景と目的
近年アクティブ・ラーニングの一環としてプレゼンテーションを取り入れた授業が増えているが,実際に能力が身に付いたかどうか適切に振り返り,評価するための研究が求められている。福岡工業大学工学部電気工学科では2008年度より「プレゼンテーション」の講義を専門科目として導入し,プレゼンテーション教育の指導に関する知見を蓄積してきた。初期の実践により解決すべき問題として,「苦手意識を強める」「プレゼンは上手でも準備が間に合わない」「授業が終わると学んだことを忘れる」ことが明らかとなった。そこで,プレゼンテーションの技術に加えて課題のマネジメントを同時に教え,1回目の実践で明らかになった問題点をすぐに改善できるように2回の実践と評価を含む並行反復学習法(中野,2012a)を考案した(図1)。本発表では並行反復学習法による反復的な振り返りの導入方法を紹介し,振り返りとプレゼンテーションの他者評価の関係について明らかにすることを目的とする。
デザインの概要
並行反復学習法はA「知識領域」,B「プレゼンテーション技術」,C「マネジメント」の3要素から構成され,学生はA「知識領域」におけるB「プレゼンテーションスキル」とC「マネジメント」を並行して学習する。構想などの準備から発表後の反省までを1セット(ABC)とし,15回の講義を前半の基礎期と後半の応用期に分け,テーマ(A)を変えて2セット(ABC とA’BC)反復する。実践を通して得た知識を蓄積するために,毎回の講義で学んだことを記録できるポートフォリオ機能のあるテキスト(中野, 2012b)を用いた。このシステムにより,テーマ(A)が変わっても対応可能なプレゼンテーションの技術(B)とマネジメント
(C)のスキルを身に付けることができる。15回の講義中,基礎期と応用期が終了する講義で各期の振り返りをおこなってもらった。実践と振り返りを反復することで,1回目の実践の問題点を2回目の実践で改善することができ,自己効力感を高めることができる。また2回目の振り返りでは1回目と2回目の実践を結び付け,時空間を越えて学びを統合することをねらいとした。
方 法
2016年度前期に福岡工業大学工学部電気工学科2年次「プレゼンテーション」を受講した24名。学習内容の基礎期が終わる第7回目講義と,応用期が終わる第15回目講義に各期で「学んだこと」と「感想」をPPTファイルにまとめ提出してもらった。分析には入力された振り返りの文字数と,教員による各期のプレゼンテーションの総合評価をデータとして用いた。評価項目は構成,内容,伝え方,質疑応答であった。
結果と考察
振り返りの文字数の平均は基礎期終了時1656.5(SD=226.2),応用期終了時は2849.8(SD=401.7)で,応用期終了時の方が振り返りの量が多かった (N=23, t=5.91, p<.0001)。また,振り返りの文字数と最終プレゼンテーションの評価の関係を調べたところ,基礎期終了時 (N=23, t=7.28, p<.0001)と 応用期終了時 (N=23, t=7.07, p<.0001) いずれも統計的に有意であった。この結果より,反復的な振り返りはパフォーマンスを高める効果があると言える。2回目の振り返りでは,1回目の実践と関連付けられ振り返りの視点が増えており,パフォーマンスを高めるための振り返りの言語化の有効性が示唆される。
本論では並行反復学習法による反復的な振り返りの導入方法と効果を述べた。今後は振り返りの質的研究を行い,どのような振り返りがパフォーマンスを高めるかについて検証する必要がある。また振り返りにおける個人差も検討していきたい。
引用文献
中野美香(2012a). 社会人基礎力を指標としたプレゼンテーション教育のデザイン ―コミュニケーションとマネジメントの並行反復学習― 電気学会誌, A, 132(12), 1106-1111
中野美香(2012b). 大学生からのプレゼンテーション入門 ナカニシヤ出版
近年アクティブ・ラーニングの一環としてプレゼンテーションを取り入れた授業が増えているが,実際に能力が身に付いたかどうか適切に振り返り,評価するための研究が求められている。福岡工業大学工学部電気工学科では2008年度より「プレゼンテーション」の講義を専門科目として導入し,プレゼンテーション教育の指導に関する知見を蓄積してきた。初期の実践により解決すべき問題として,「苦手意識を強める」「プレゼンは上手でも準備が間に合わない」「授業が終わると学んだことを忘れる」ことが明らかとなった。そこで,プレゼンテーションの技術に加えて課題のマネジメントを同時に教え,1回目の実践で明らかになった問題点をすぐに改善できるように2回の実践と評価を含む並行反復学習法(中野,2012a)を考案した(図1)。本発表では並行反復学習法による反復的な振り返りの導入方法を紹介し,振り返りとプレゼンテーションの他者評価の関係について明らかにすることを目的とする。
デザインの概要
並行反復学習法はA「知識領域」,B「プレゼンテーション技術」,C「マネジメント」の3要素から構成され,学生はA「知識領域」におけるB「プレゼンテーションスキル」とC「マネジメント」を並行して学習する。構想などの準備から発表後の反省までを1セット(ABC)とし,15回の講義を前半の基礎期と後半の応用期に分け,テーマ(A)を変えて2セット(ABC とA’BC)反復する。実践を通して得た知識を蓄積するために,毎回の講義で学んだことを記録できるポートフォリオ機能のあるテキスト(中野, 2012b)を用いた。このシステムにより,テーマ(A)が変わっても対応可能なプレゼンテーションの技術(B)とマネジメント
(C)のスキルを身に付けることができる。15回の講義中,基礎期と応用期が終了する講義で各期の振り返りをおこなってもらった。実践と振り返りを反復することで,1回目の実践の問題点を2回目の実践で改善することができ,自己効力感を高めることができる。また2回目の振り返りでは1回目と2回目の実践を結び付け,時空間を越えて学びを統合することをねらいとした。
方 法
2016年度前期に福岡工業大学工学部電気工学科2年次「プレゼンテーション」を受講した24名。学習内容の基礎期が終わる第7回目講義と,応用期が終わる第15回目講義に各期で「学んだこと」と「感想」をPPTファイルにまとめ提出してもらった。分析には入力された振り返りの文字数と,教員による各期のプレゼンテーションの総合評価をデータとして用いた。評価項目は構成,内容,伝え方,質疑応答であった。
結果と考察
振り返りの文字数の平均は基礎期終了時1656.5(SD=226.2),応用期終了時は2849.8(SD=401.7)で,応用期終了時の方が振り返りの量が多かった (N=23, t=5.91, p<.0001)。また,振り返りの文字数と最終プレゼンテーションの評価の関係を調べたところ,基礎期終了時 (N=23, t=7.28, p<.0001)と 応用期終了時 (N=23, t=7.07, p<.0001) いずれも統計的に有意であった。この結果より,反復的な振り返りはパフォーマンスを高める効果があると言える。2回目の振り返りでは,1回目の実践と関連付けられ振り返りの視点が増えており,パフォーマンスを高めるための振り返りの言語化の有効性が示唆される。
本論では並行反復学習法による反復的な振り返りの導入方法と効果を述べた。今後は振り返りの質的研究を行い,どのような振り返りがパフォーマンスを高めるかについて検証する必要がある。また振り返りにおける個人差も検討していきたい。
引用文献
中野美香(2012a). 社会人基礎力を指標としたプレゼンテーション教育のデザイン ―コミュニケーションとマネジメントの並行反復学習― 電気学会誌, A, 132(12), 1106-1111
中野美香(2012b). 大学生からのプレゼンテーション入門 ナカニシヤ出版