The 59th Annual Meeting of the Japanese Association of Educational Psychology

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ポスター発表 PD(01-83)

ポスター発表 PD(01-83)

Sun. Oct 8, 2017 10:00 AM - 12:00 PM 白鳥ホールB (4号館1階)

10:00 AM - 12:00 PM

[PD30] 大学生の時間管理に基づくタイプの類型化とタイプ別学習評定

野中陽一朗 (高知大学)

Keywords:時間管理, 主体的な学習態度, 学習時間

問題と目的
 学校から社会あるいは職業への円滑な移行が,大学教育を含めた学校教育の中で叫ばれて久しい。こうした円滑な移行を担保する能力は数多く考えられるが,時間を効率良く使用する能力は,大学生活だけでなく現代社会や職業においても必要不可欠なものである。井邑・髙村・岡崎・徳永(2016)は,時間管理を「目標を達成するために時間を効果的に使用する行動」と捉え,時間管理を測定する尺度を開発している。一方,大学生の学びは,捉え方により多様性がみられる。畑野・溝上(2013)は,授業内外の学習時間だけでなく,大学生の授業に対する主体的な学習態度を加え,授業を中心とした「学習の量」と「学習の質」を構成する総計3側面から大学生の学習タイプを5つに類型化した。野中(2017)は,学びに対する主体性を判断基準の1つと捉え,授業内外の学習時間だけでなく自主的な学習時間を踏まえた「学習の量」,主体的な学習態度である「学習の質」の総計4側面から大学生の学習タイプを5つに類型化し,学習タイプが学習支援内容に対する評価に差異を及ぼすことを示した。しかし,大学生の有する時間管理が,「学習の質」や「学習の量」にどのような影響を及ぼすかは検討されていない。
 そこで,本研究では,井邑etc (2016)の観点から,大学生の時間管理に基づくタイプを類型化するとともに,タイプごとの「学習の質」や「学習の量」に対する評定を明らかにすることを目的とする。
方   法
調査協力者及び手続き 調査協力を承諾した大学生140名(男性42名,女性98名)。調査は,講義時間を利用し,無記名個人記入形式の質問紙を配布し集合調査法により実施した。 質問紙 (1)時間管理:井邑etc(2016)の「時間の見積もり」,「時間の活用」,「その日暮らし」3因子19項目(本研究では,「その日暮らし」を構成する逆転項目の扱いを因子名に基づき出典と異なる対応を行った)。(2)学習の質:畑野(2011)の「主体的な学習態度」1因子9項目。(3)学習の量:畑野・溝上(2013)の「大学で授業や実験に参加する(授業内学習時間)」,「授業に関する勉強(予習や復習,宿題・課題など)をする(授業外学習時間)」,「授業とは関係のない勉強を自主的にする(自主的な学習時間)」3項目。
結果と考察
 時間管理を構成する3因子の観点から,大学生の時間管理に基づくタイプを類型化するため,各因子の評定得点により,クラスター分析(Ward法)を行った(Cophenetic’r=.41)。その結果,解釈可能性から4クラスター解を採用した。各クラスターに含まれる大学生の時間管理タイプの特徴として,タイプ1は,全ての得点が2番目に高く,人数比が最も高いことから標準的な時間管理型と考えられる。タイプ2は,「時間の見積もり」と「時間の活用」の得点が最も高いことから,効果的な時間管理型と考えられる。タイプ3は,「時間の見積もり」と「時間の活用」の得点が2番目に高く,「その日暮らし」の得点が最も低いことから,展望を備えた時間管理型と考えられる。タイプ4は,「時間の見積もり」と「時間の活用」の得点が最も低く,「その日暮らし」の得点が最も高いことから,非時間管理型と考えられる。
 次に,「学習の質」と「学習の量」を構成する各学習評定に対してクラスターを被験者間要因とする分散分析を行った。その結果,「主体的な学習態度」(F(3, 136)=11.07, p=.001, η2=.196),「自主的な学習時間」(F(3, 136)=3.95, p=.010, η2=.080)には,クラスターの主効果がみられた。一方,「授業内学習時間」(F(3, 136)=0.21, p=.887, η2=.005),「授業外学習時間」(F(3, 136)=0.80, p=.497, η2=.017)には,クラスターの主効果がみられなかった。クラスターの主効果がみられたもののみ,多重比較(Ryan法, p<.05)を行ったところ,「主体的な学習態度」において,タイプ2はタイプ3・1・4より評定が高く,タイプ3・1はタイプ4より評定が高かった。「自主的な学習時間」において,タイプ2はタイプ1・4より評定が高かった。
 これらの結果から,タイプ4の大学生のように,「時間の見積もり」と「時間の活用」の評定が低く,「その日暮らし」の評定の高い大学生に対しては,学びを展開する前段として,大学教育における初年次段階の学習プロセスの中で時間管理の重要性を認識できるような仕組みや講義内容を設定することが重要だと考えられる。また,時間管理に基づくタイプは,大学生の自主的な学習時間に差異を及ぼしているため,こうした因果プロセスについて精緻化した検証も今後必要となるだろう。