日本教育心理学会第59回総会

講演情報

ポスター発表 PD(01-83)

ポスター発表 PD(01-83)

2017年10月8日(日) 10:00 〜 12:00 白鳥ホールB (4号館1階)

10:00 〜 12:00

[PD35] ラーニング・コモンズの学習論の構築に向けた予備的検討

学習概念の更新を促す「照射」概念に着目して

山田嘉徳 (大阪産業大学)

キーワード:ラーニング・コモンズ, 状況的学習, 照射

問題と目的
 「学修環境充実のための学術情報基盤の整備について(審議のまとめ)」では,学修環境充実方策の中心にラーニング・コモンズ(以下,LCとする)の設置に関する議論が展開されている(科学技術・学術審議会学術分科会学術情報委員会, 2013)。「主として学生を対象とし,学習支援のための設備・施設,人的サービス,資料を総合的にワンストップで提供する学習支援空間」(呑海・溝上, 2015)と定義されるLCの諸機能を総合的に踏まえた形での,LCの学びと活用可能性に関する研究が必要とされている。ここでのLC の学びと活用可能性については,ある特定の状況の中での学習現象を具に明らかにすることを目指す状況的学習という考え方を手がかりに,LCという場の実態に即した実践のコンテクストのなかで議論されるものとして捉える(Barton&Tusting, 2005)。即ち単にLCを学習の場として利用した経験から学ぶこととしてではなく,LCという場について考えるという学習活動のなかで学ぶこととして捉え,そうした学習(実践)を論じるための視点の提示をはかる。
 以上の議論を踏まえ,学習者自身によるLCという場を検討するという学びを明らかにすることを通じ,LCの学びと活用可能性に関する考察を展開するとともに,LCの学習を捉えるのに有効な概念を提示することを本研究のねらいとする。
方   法
フィールド A大学のLCを調査のフィールドとした。A大学のLCは,2016年5月に綜合図書館1階の自習用演習室のフロアを改装して開設され,プレゼンテーションゾーン,グループワークゾーン,コラボレーションゾーン,カフェゾーンの4つのエリアから構成されている。
調査・分析方法 調査時期は2016年5月25日である。調査対象は,A大学B学部の初年次生対象の教養系演習科目の授業に参加した学生65名であった。当日授業は,ポータルサイト(学生生活に関する休講・補講,時間割,教室変更,履修授業からのお知らせなどをweb上で提供する総合案内システム)の使い方を演習形式で体験的に学んだ後,LCの使い方について協働して学ぶ,というものであった。特に後者の学習活動がメインで,LCの形態,意義,利用方法などを理解でき,自らの学修に結びつけることが授業のねらいとされた。学習活動はワークシートに基づき展開され,課題は,①「LCは全国の大学では具体的にどのように活用されているのか」,②「LCを利用して学ぶメリットとは?自分たちでどのように使いたいか?」の2つで構成された。基本的に4~6名のグループで情報検索サイトを使った調べ学習の形態であった。
分析手続き テキストマイニングソフト(KH Coder)を用いて分析した。課題②の自由記述文の中で出現した上位150語を頻出語とし,このリストを用いて語句と語句の結びつきを表示する共起ネットワークを作成した。
結果と考察
 65名の自由記述データを対象に分析を施した結果,総抽出語数は1160であった。共起ネットワークのなかで強く結びついている部分について,自由記述のテキストに戻り確認し,内容の類似性を考慮して,Ⅰ群【通常教室と異なる場】,Ⅱ群【個人・協働学習の場】,Ⅲ群【友人同士で集まる場】,Ⅳ群【飲み物を楽しみながら授業の宿題に関して相談し合える場】,Ⅴ群【気分転換を図りながらリラックスして勉強できる場】,Ⅵ群【発表練習ができる場】,Ⅶ群【多様な形のコミュニケーションが可能な場】,Ⅷ群【その他】の8つの群に分類された。
 特にLCの学びの場では,Ⅰ群とⅢ群でみられるように,そこでの学びを通して,従来の教室,また従来の図書館の機能を逆に可視化する。LCでの学びが,従来型の学び方をむしろ逆に照り返すので,学習者の学び方の反省につながりやすくなる。これは,自身の学習概念の更新を図るという点を強調する意味で,「照射」と呼べる。LCの学びを支援するというとき,どのように学習者の学習概念が発達していくのか,照射という視座から見通すことで,LCの新たな学びのあり方がみえてくるだろう。学習者の学び方と学習概念の更新という事象との関連に注目して,そこからLCの学習論を立ち上げていく研究が求められる。
付   記
 科学研究費基盤研究(C)「正課教育とラーニング・コモンズにおける学習支援の連環を促す学習環境デザイン」(岩﨑千晶代表:16K01143)の助成を受けて行われた。