10:00 AM - 12:00 PM
[PD37] 食事場面における保育者と子どものかかわりに関するテキスト分析
Keywords:食育, 養成教育, 乳幼児
問題と目的
本研究の目的は,保育士養成テキストで,食事場面における子どもとのかかわりがどのように取り上げられているかを検証することである。
「共食」(共に食卓を囲むこと)は,「人間関係を深め,連帯感を高める何か特別な力をもつもの」 (外山, 2008) である。特に,乳幼児期の保育所等における「共食」は,保育者や近い年齢の他児と集団で食卓を囲み,他者から様々に学びながら食事をする機会である(外山, 2000; 淀川, 2015)。食育の推進により栽培や調理等,様々に実施されているが,第一義的に重要なのは日々の食事の経験ではないだろうか。2004年の厚生労働省通知「楽しく食べる子どもに―保育所における食育に関する指針」では,期待する子ども像として①お腹がすくリズムのもてる子ども,②食べたいもの,好きなものが増える子ども,③一緒に食べたい人がいる子ども,④食事づくり,準備にかかわる子ども,⑤食べものを話題にする子ども,を挙げている。単なる栄養摂取の場としてでなく,食事をともにする人々との関係をふまえた育ちの場として捉えているところが,近年の流れであると言えよう。
では,保育士の養成段階で,食事をコミュニケーションや団らんの場として捉える関係論的な観点から,その意義や求められる保育者のかかわりについてどのように取り上げられているだろうか。本研究では,実際の授業を検証する前に,まず保育士養成用テキストの分析を通して,動向を確かめることにした。なお,保育士養成カリキュラムのうち,「子どもの食と栄養」をはじめ,食事場面と特にかかわりが深い「乳児保育」「健康」「言葉」「人間関係」のテキストを対象とした。
方法
分析対象:食育が新たに加わった,2008年の保育所保育指針改定後刊行の保育者養成用テキストのうち,特に食と関係するもの(「子どもの食と栄養」2冊,「乳児保育」3冊,「保育内容健康」「保育内容言葉」「保育内容人間関係」各4冊)。分析方法:1)全テキストについて,園での食事場面に関する記述(事例を含む)の有無と,記述の認められたテキスト数を算出。2)各テキストから食事場面のかかわりの具体的な記述を抜き出し,特徴を分析。
結果と考察
1)園における食事場面に関する記述の内容ごとに,記述が確認されたテキスト数と事例数を算出した(表1)。「子どもの食と栄養」では,全体的に食に関する記述が充実しており,保育者の子どもへの《技術的かかわり》と《技法以外のかかわり》の記述と事例は多いが,《子ども同士のやりとり》の記述は見られなかった。「乳児保育」では年齢的なこともあり《子ども同士のやりとり》の記述はなく,それ以外の記述のみ見られた。「健康」「言葉」「人間関係」では,保育者の子どもへの《技法以外のかかわり》と《子ども同士のやりとり》の記述と事例両方が認められた。全体的に食事場面の事例は少なく,実際の保育での食事の様子はテキストではあまり扱われていないことがわかった。
2)さらに,全テキストから《技法以外のかかわり》と《子ども同士のやりとり》の記述を抜き出し,内容ごとに分類したところ,表2のようになった。
厚生労働省通知や『保育所における食事の提供ガイドライン』の記載内容に加えて,子どもの語彙の発達や社会性の発達に関連する内容も含まれていた。ただし,ほとんどのテキストでは短い文章で簡単に述べられる程度であり,食事場面への関心はあまり高くないことが推察された。
総合考察
日々の食事場面は養護的側面と教育的側面をもつ(塚田・辻, 2011等)が,子どものさまざまな学びの場,学び合う関係を築く場としての食事への注目は,テキストでは高いと言えないことが示唆された。今後,養成校の授業での扱いや,学生・現職保育士の認識を調べ,食事場面におけるかかわりの質に関する実態や課題を明らかにしたい。
付記 本研究はJSPS科研費 JP16K17378の助成を受けた。
本研究の目的は,保育士養成テキストで,食事場面における子どもとのかかわりがどのように取り上げられているかを検証することである。
「共食」(共に食卓を囲むこと)は,「人間関係を深め,連帯感を高める何か特別な力をもつもの」 (外山, 2008) である。特に,乳幼児期の保育所等における「共食」は,保育者や近い年齢の他児と集団で食卓を囲み,他者から様々に学びながら食事をする機会である(外山, 2000; 淀川, 2015)。食育の推進により栽培や調理等,様々に実施されているが,第一義的に重要なのは日々の食事の経験ではないだろうか。2004年の厚生労働省通知「楽しく食べる子どもに―保育所における食育に関する指針」では,期待する子ども像として①お腹がすくリズムのもてる子ども,②食べたいもの,好きなものが増える子ども,③一緒に食べたい人がいる子ども,④食事づくり,準備にかかわる子ども,⑤食べものを話題にする子ども,を挙げている。単なる栄養摂取の場としてでなく,食事をともにする人々との関係をふまえた育ちの場として捉えているところが,近年の流れであると言えよう。
では,保育士の養成段階で,食事をコミュニケーションや団らんの場として捉える関係論的な観点から,その意義や求められる保育者のかかわりについてどのように取り上げられているだろうか。本研究では,実際の授業を検証する前に,まず保育士養成用テキストの分析を通して,動向を確かめることにした。なお,保育士養成カリキュラムのうち,「子どもの食と栄養」をはじめ,食事場面と特にかかわりが深い「乳児保育」「健康」「言葉」「人間関係」のテキストを対象とした。
方法
分析対象:食育が新たに加わった,2008年の保育所保育指針改定後刊行の保育者養成用テキストのうち,特に食と関係するもの(「子どもの食と栄養」2冊,「乳児保育」3冊,「保育内容健康」「保育内容言葉」「保育内容人間関係」各4冊)。分析方法:1)全テキストについて,園での食事場面に関する記述(事例を含む)の有無と,記述の認められたテキスト数を算出。2)各テキストから食事場面のかかわりの具体的な記述を抜き出し,特徴を分析。
結果と考察
1)園における食事場面に関する記述の内容ごとに,記述が確認されたテキスト数と事例数を算出した(表1)。「子どもの食と栄養」では,全体的に食に関する記述が充実しており,保育者の子どもへの《技術的かかわり》と《技法以外のかかわり》の記述と事例は多いが,《子ども同士のやりとり》の記述は見られなかった。「乳児保育」では年齢的なこともあり《子ども同士のやりとり》の記述はなく,それ以外の記述のみ見られた。「健康」「言葉」「人間関係」では,保育者の子どもへの《技法以外のかかわり》と《子ども同士のやりとり》の記述と事例両方が認められた。全体的に食事場面の事例は少なく,実際の保育での食事の様子はテキストではあまり扱われていないことがわかった。
2)さらに,全テキストから《技法以外のかかわり》と《子ども同士のやりとり》の記述を抜き出し,内容ごとに分類したところ,表2のようになった。
厚生労働省通知や『保育所における食事の提供ガイドライン』の記載内容に加えて,子どもの語彙の発達や社会性の発達に関連する内容も含まれていた。ただし,ほとんどのテキストでは短い文章で簡単に述べられる程度であり,食事場面への関心はあまり高くないことが推察された。
総合考察
日々の食事場面は養護的側面と教育的側面をもつ(塚田・辻, 2011等)が,子どものさまざまな学びの場,学び合う関係を築く場としての食事への注目は,テキストでは高いと言えないことが示唆された。今後,養成校の授業での扱いや,学生・現職保育士の認識を調べ,食事場面におけるかかわりの質に関する実態や課題を明らかにしたい。
付記 本研究はJSPS科研費 JP16K17378の助成を受けた。