10:00 AM - 12:00 PM
[PD53] 危険予測と対処行動を学ぶ防災教育の効果
小学校低学年にデジタル教材を活用した授業実践
Keywords:防災教育, デジタル教材, 小学生
問題と目的
豊沢他(2017)は,地震発生時に小学生が主体的に考え行動する力を育成することを目的として,児童の日常場面(授業中,給食中,下校中,就寝中)で大地震が発生した際の危険予測と対処行動を理解するためのデジタル教材を作成した。この教材を使用した学習の前後比較において,災害時の対処可能性が学習後に概ね高く評定されることが示されたが,質問紙の設計と実施方法に問題があり,一部の設問で効果が確認されなかった。これは調査のための時間が十分に確保できない中で抽象的かつ二重否定文の設問を用いたために,一部の児童が設問を誤解した可能性が考えられた。本研究は,この問題を解決した上で再度学習効果を検討する。具体的には,調査のための時間を授業時間外に確保するとともに,児童が一人になりうる状況の「下校中」と「就寝中」に焦点を当て,潜在的な危険と対処行動が理解できたかを問うことにした。
また,児童の理解を促すためには,保護者が学習に関与することが有効であると考えられる。先行研究においても2回の授業の間に宿題(通学路と寝室の危険を確認する)を課し,保護者と一緒に取り組んでもらう工夫をしたが,本研究ではそれに加えて1回目の授業を参観日に充てた。
方 法
対象者:大阪府内の小学校の2年生281名(A校:105名,B校:176名)を対象として,各クラス担任がデジタル教材を使った安全の授業を行った。
教材:地震時の危険予測(場面共通),各場面の対処行動(給食,下校,就寝)の4教材を使用した。
手続き:45分の授業を2回行った。1回目は,地震時の危険予測の教材を用いた。2回目は,給食,下校,就寝時の対処行動の教材を用いた。
質問紙:学習前後に,通学路と寝室の危険予測と対処行動(各2項目)の理解度を4件法(1:全くそう思わない-4:とてもそう思う)で確認した。
結 果
危険予測 学習後に理解が促進された。A校は下校・就寝中ともに傾向差(ts (86) = 1.88, 1.94, ps < .10),B校は下校・就寝中ともに有意差が確認された(ts (138) = 2.29, 2.58, ps < .05)。
対処行動 一部を除き学習後に理解が促進された。A校は下校中は傾向差,就寝中は有意差(ts (86) = 1.89, 3.51, ps < .10, .01),B校は下校中は差がなく就寝中は有意差が確認された(t (138) = 2.72, p < .01)。
考 察
危険予測は,下校中・就寝中ともに両学校で学習後に理解が促進されており,本教材を使用することの効果が確認された。一方,対処行動は,就寝中は理解が促進されているものの,下校中は傾向差あるいは差なしという結果であった。下校中は学習前から得点が高かったことの影響が考えられる。また,通学路は対象範囲が広いため,災害発生状況も対処行動も多様になる。本教材は,各場面において1つのシナリオのみを示したが,多様な状況への対処行動について理解を促すことで,更なる学習効果を期待できる可能性がある。
引用文献
豊沢純子・元吉忠寛・竹橋洋毅・野田理世・宮本真紀子・土本純平・井上洋・眞田巧・藤田大輔(2017) 小学生向け防災教育デジタル教材の開発-主体的な行動力の育成を目的として- 社会安全学研究, 7, 49-59.
豊沢他(2017)は,地震発生時に小学生が主体的に考え行動する力を育成することを目的として,児童の日常場面(授業中,給食中,下校中,就寝中)で大地震が発生した際の危険予測と対処行動を理解するためのデジタル教材を作成した。この教材を使用した学習の前後比較において,災害時の対処可能性が学習後に概ね高く評定されることが示されたが,質問紙の設計と実施方法に問題があり,一部の設問で効果が確認されなかった。これは調査のための時間が十分に確保できない中で抽象的かつ二重否定文の設問を用いたために,一部の児童が設問を誤解した可能性が考えられた。本研究は,この問題を解決した上で再度学習効果を検討する。具体的には,調査のための時間を授業時間外に確保するとともに,児童が一人になりうる状況の「下校中」と「就寝中」に焦点を当て,潜在的な危険と対処行動が理解できたかを問うことにした。
また,児童の理解を促すためには,保護者が学習に関与することが有効であると考えられる。先行研究においても2回の授業の間に宿題(通学路と寝室の危険を確認する)を課し,保護者と一緒に取り組んでもらう工夫をしたが,本研究ではそれに加えて1回目の授業を参観日に充てた。
方 法
対象者:大阪府内の小学校の2年生281名(A校:105名,B校:176名)を対象として,各クラス担任がデジタル教材を使った安全の授業を行った。
教材:地震時の危険予測(場面共通),各場面の対処行動(給食,下校,就寝)の4教材を使用した。
手続き:45分の授業を2回行った。1回目は,地震時の危険予測の教材を用いた。2回目は,給食,下校,就寝時の対処行動の教材を用いた。
質問紙:学習前後に,通学路と寝室の危険予測と対処行動(各2項目)の理解度を4件法(1:全くそう思わない-4:とてもそう思う)で確認した。
結 果
危険予測 学習後に理解が促進された。A校は下校・就寝中ともに傾向差(ts (86) = 1.88, 1.94, ps < .10),B校は下校・就寝中ともに有意差が確認された(ts (138) = 2.29, 2.58, ps < .05)。
対処行動 一部を除き学習後に理解が促進された。A校は下校中は傾向差,就寝中は有意差(ts (86) = 1.89, 3.51, ps < .10, .01),B校は下校中は差がなく就寝中は有意差が確認された(t (138) = 2.72, p < .01)。
考 察
危険予測は,下校中・就寝中ともに両学校で学習後に理解が促進されており,本教材を使用することの効果が確認された。一方,対処行動は,就寝中は理解が促進されているものの,下校中は傾向差あるいは差なしという結果であった。下校中は学習前から得点が高かったことの影響が考えられる。また,通学路は対象範囲が広いため,災害発生状況も対処行動も多様になる。本教材は,各場面において1つのシナリオのみを示したが,多様な状況への対処行動について理解を促すことで,更なる学習効果を期待できる可能性がある。
引用文献
豊沢純子・元吉忠寛・竹橋洋毅・野田理世・宮本真紀子・土本純平・井上洋・眞田巧・藤田大輔(2017) 小学生向け防災教育デジタル教材の開発-主体的な行動力の育成を目的として- 社会安全学研究, 7, 49-59.