10:00 AM - 12:00 PM
[PD62] 青年期における過去のいじめ体験の長期的影響及びPTGの検討
生成過程の自由記述に注目した質的検討
Keywords:いじめ, PTG
問題・目的
森田・滝・秦・星野・若井(1999)によれば,いじめを様々な立場から経験した児童は全体の7~8割ほどである。いじめの直後に見られる症状としては身体症状や精神症状がみられ (中桐・岡本・澤田,2008),低い自尊心や対人恐怖などといった症状はいじめ直後だけでなく人格が完成される青年後期まで影響が及ぶとされている(荒木,2005)。坂西(1995)は,いじめの長期的な影響を青年期後期にあたる大学生期においてもいじめの影響があることを示唆した。こうしたいじめの影響から,いじめを受けることでPTSDになる可能性は十分にあるといえる(岩切,2014)。
一方で長期的にはいじめの積極的な影響もあるといえる。坂西(1995)によれば,高い共感性や我慢強さなどといった積極的な影響がみられ,また香取(1999)は他者尊重,精神的強さ,進路選択への影響の3つを挙げている。こうしたつらい体験からの苦悩の結果生じた成長はPTG(心的外傷後成長)と呼ばれる(宅,2010)。
しかし,PTGやいじめの長期的影響における積極的な影響の生成過程やその内容については検討の余地がある。そこで,本研究においては,いじめ体験とその影響,及びそれらの体験から学びとしてのPTGの関係を量的に検討する。また,いじめ体験からの回復過程において形成される学びの内容とその形成過程に関する自由記述を探索的に検討し確認していく。
方 法
2016/1月~3月に大学の講義時間を使って,質問紙による調査を行った。調査内容は①小中学校時代のいじめ体験の立場・内容・症状の頻度,②いじめ体験に関する自由記述(いじめ体験を乗り越える支えとなったことについて,いじめ体験を相談することについて,いじめ体験から学んだことについて),③PTGI‐J(Taku et al,2007)であった。なお,本調査は同大学の研究科研究倫理審査員会の承認のもと調査を行った。
結 果
研究協力者は大学生211名のうち,欠損値を除いた197名(男84,女105,他8)であった。平均年齢19.58歳(1.66),有効回答率は,93.37%であった。
考 察
まず,量的な検討から,いじめ体験・影響とPTGIの間に有意な弱い正の相関関係が見られた。この結果は,苦痛がPTGの要件であるとする開(2003)の知見と一致する。一方で,関係が弱いことから,調整変数が媒介していることが考えられる。
次に,自由記述の検討から,いじめ体験を乗り越える過程で無視・我慢,何もしない,相談といった過程があることが示唆された。今後はこの検討をもとに,「いじめからの成長要因」尺度の作成を行い,いじめ体験とPTGの間にある変数の関係を検討していくことを考えている。
最後に,自由記述のいじめから学んだこととして,従来のPTGの概念に加えて本研究では「処世術」が見られた。「処世術」とは,またいじめられるかもしれない不安を抱えて苦しむ中でいじめの標的にされないための方法である(手代木,2009)。ここから,いじめは他のストレス体験と比べて,対人関係領域での成長が見られることが示唆された。
森田・滝・秦・星野・若井(1999)によれば,いじめを様々な立場から経験した児童は全体の7~8割ほどである。いじめの直後に見られる症状としては身体症状や精神症状がみられ (中桐・岡本・澤田,2008),低い自尊心や対人恐怖などといった症状はいじめ直後だけでなく人格が完成される青年後期まで影響が及ぶとされている(荒木,2005)。坂西(1995)は,いじめの長期的な影響を青年期後期にあたる大学生期においてもいじめの影響があることを示唆した。こうしたいじめの影響から,いじめを受けることでPTSDになる可能性は十分にあるといえる(岩切,2014)。
一方で長期的にはいじめの積極的な影響もあるといえる。坂西(1995)によれば,高い共感性や我慢強さなどといった積極的な影響がみられ,また香取(1999)は他者尊重,精神的強さ,進路選択への影響の3つを挙げている。こうしたつらい体験からの苦悩の結果生じた成長はPTG(心的外傷後成長)と呼ばれる(宅,2010)。
しかし,PTGやいじめの長期的影響における積極的な影響の生成過程やその内容については検討の余地がある。そこで,本研究においては,いじめ体験とその影響,及びそれらの体験から学びとしてのPTGの関係を量的に検討する。また,いじめ体験からの回復過程において形成される学びの内容とその形成過程に関する自由記述を探索的に検討し確認していく。
方 法
2016/1月~3月に大学の講義時間を使って,質問紙による調査を行った。調査内容は①小中学校時代のいじめ体験の立場・内容・症状の頻度,②いじめ体験に関する自由記述(いじめ体験を乗り越える支えとなったことについて,いじめ体験を相談することについて,いじめ体験から学んだことについて),③PTGI‐J(Taku et al,2007)であった。なお,本調査は同大学の研究科研究倫理審査員会の承認のもと調査を行った。
結 果
研究協力者は大学生211名のうち,欠損値を除いた197名(男84,女105,他8)であった。平均年齢19.58歳(1.66),有効回答率は,93.37%であった。
考 察
まず,量的な検討から,いじめ体験・影響とPTGIの間に有意な弱い正の相関関係が見られた。この結果は,苦痛がPTGの要件であるとする開(2003)の知見と一致する。一方で,関係が弱いことから,調整変数が媒介していることが考えられる。
次に,自由記述の検討から,いじめ体験を乗り越える過程で無視・我慢,何もしない,相談といった過程があることが示唆された。今後はこの検討をもとに,「いじめからの成長要因」尺度の作成を行い,いじめ体験とPTGの間にある変数の関係を検討していくことを考えている。
最後に,自由記述のいじめから学んだこととして,従来のPTGの概念に加えて本研究では「処世術」が見られた。「処世術」とは,またいじめられるかもしれない不安を抱えて苦しむ中でいじめの標的にされないための方法である(手代木,2009)。ここから,いじめは他のストレス体験と比べて,対人関係領域での成長が見られることが示唆された。