10:00 AM - 12:00 PM
[PD74] 保育者志望学生の幼稚園教育実習を通した心理的プロセス
実習形態及び学年差に着目したJD‐Rモデルの検証
Keywords:保育者志望学生, 幼稚園教育実習, JD‐Rモデル
問題と目的
Bakker&Demerouti(2008)は,「仕事要求度-資源モデル」(JD-Rモデル)というワーク・エンゲイジメントの統合的モデルを提唱した。JD-Rモデルの妥当性は立証されているが,対象者は小・中・高等学校などの現職教員に限定されており(Hakanen et al.,2006など),幼児教育者においても適用可能なモデルか検討の余地がある。そこで本研究では,保育者志望学生を対象に,実習を通した力量形成や進路希望の変容に関する心理的プロセスをJD-Rモデルに基づいて検証する。本研究の仮説モデルとして,仕事資源は,実習園の指導教諭の「指導スタイル」に着目する。3つの特徴(自律性サポート,構造,関わり合い)を備えた指導スタイルは,実習生のワーク・エンゲイジメントを促すと予想される(Meyer,2014)。個人資源は,「保育職の適性感」と「保育者効力感」の2つを扱う。パフォーマンス指標は,「保育者としての力量形成の認知」,「保育者効力感の向上」,「保育職への志望度の向上」,「実習を通した達成感や充実感」の4つを用いる。本研究では更に,実習形態や学年差も考慮に入れて検討する。
方 法
調査対象者及び手続き:埼玉県内の保育者養成系の女子短大生258名(1年生:132名,2年生:126名,平均年齢:18.86歳,SD=1.07)を対象に,2016年5月から9月にかけて質問紙調査を行った。1年生(観察実習1週間)と2年生(指導実習3週間)共に,教育実習事前・事後指導の講義を活用して行われた。事前指導と事後指導の各1回の計2回質問紙を配布し,その場で回収した。
調査内容:実習前の質問紙は,(a)「保育職の適性感」(西山,2007)の2項目(4段階評定),(b)「保育者効力感」(三木・桜井,1998)の10項目(5段階評定)である。実習後の質問紙は,(a)指導スタイルは筆者がJang et al.(2010)などを参考に,「自律性サポート」(4項目),「構造」(4項目),「関わり合い」(4項目)を作成(5段階評定),(b)ワーク・エンゲイジメントは,Shimazuら(2008)を参考に,9項目(5段階評定)を作成,(c)「保育者としての力量形成の認知」は金子(2013)の20項目(4段階評定),(d)保育者効力感の向上は三木・桜井(1998)の10項目(5段階評定),(e)「幼稚園教諭への志望度の向上」は1項目(5段階評定),(f)「実習を通した達成感や充実感」は1項目(5段階評定),である。
結果と考察
指導スタイルの項目に対する因子分析(最尤法)の結果,1因子構造が確認された。全ての負荷量が.50以上と高かったため,全12項目から成る「指導スタイル尺度」が作成された(α=.93)。次に,モデルの各変数を組み込んだ多母集団同時分析によるパス解析を行った。配置不変性モデル(χ2(39)=64.89,p<.01,GFI=.97,AGFI=.91,RMSEA=.03,AIC=202.89)のAICは,等値制約を課したモデル(AIC=212.63)よりも低く,集団間の異質性を考慮することの妥当性が示された。その後,一対比較を行った結果,ワーク・エンゲイジメントから幼稚園教諭への志望度の向上(z=2.91,p<.001),指導教諭の指導スタイルから実習を通した達成感や充実感(z=2.20,p<.05)において,1年生の方が2年生よりも影響性が強いことが示された。実習の初期経験は,学生にとって非常に重要な意味を持つ可能性が示唆された。
Bakker&Demerouti(2008)は,「仕事要求度-資源モデル」(JD-Rモデル)というワーク・エンゲイジメントの統合的モデルを提唱した。JD-Rモデルの妥当性は立証されているが,対象者は小・中・高等学校などの現職教員に限定されており(Hakanen et al.,2006など),幼児教育者においても適用可能なモデルか検討の余地がある。そこで本研究では,保育者志望学生を対象に,実習を通した力量形成や進路希望の変容に関する心理的プロセスをJD-Rモデルに基づいて検証する。本研究の仮説モデルとして,仕事資源は,実習園の指導教諭の「指導スタイル」に着目する。3つの特徴(自律性サポート,構造,関わり合い)を備えた指導スタイルは,実習生のワーク・エンゲイジメントを促すと予想される(Meyer,2014)。個人資源は,「保育職の適性感」と「保育者効力感」の2つを扱う。パフォーマンス指標は,「保育者としての力量形成の認知」,「保育者効力感の向上」,「保育職への志望度の向上」,「実習を通した達成感や充実感」の4つを用いる。本研究では更に,実習形態や学年差も考慮に入れて検討する。
方 法
調査対象者及び手続き:埼玉県内の保育者養成系の女子短大生258名(1年生:132名,2年生:126名,平均年齢:18.86歳,SD=1.07)を対象に,2016年5月から9月にかけて質問紙調査を行った。1年生(観察実習1週間)と2年生(指導実習3週間)共に,教育実習事前・事後指導の講義を活用して行われた。事前指導と事後指導の各1回の計2回質問紙を配布し,その場で回収した。
調査内容:実習前の質問紙は,(a)「保育職の適性感」(西山,2007)の2項目(4段階評定),(b)「保育者効力感」(三木・桜井,1998)の10項目(5段階評定)である。実習後の質問紙は,(a)指導スタイルは筆者がJang et al.(2010)などを参考に,「自律性サポート」(4項目),「構造」(4項目),「関わり合い」(4項目)を作成(5段階評定),(b)ワーク・エンゲイジメントは,Shimazuら(2008)を参考に,9項目(5段階評定)を作成,(c)「保育者としての力量形成の認知」は金子(2013)の20項目(4段階評定),(d)保育者効力感の向上は三木・桜井(1998)の10項目(5段階評定),(e)「幼稚園教諭への志望度の向上」は1項目(5段階評定),(f)「実習を通した達成感や充実感」は1項目(5段階評定),である。
結果と考察
指導スタイルの項目に対する因子分析(最尤法)の結果,1因子構造が確認された。全ての負荷量が.50以上と高かったため,全12項目から成る「指導スタイル尺度」が作成された(α=.93)。次に,モデルの各変数を組み込んだ多母集団同時分析によるパス解析を行った。配置不変性モデル(χ2(39)=64.89,p<.01,GFI=.97,AGFI=.91,RMSEA=.03,AIC=202.89)のAICは,等値制約を課したモデル(AIC=212.63)よりも低く,集団間の異質性を考慮することの妥当性が示された。その後,一対比較を行った結果,ワーク・エンゲイジメントから幼稚園教諭への志望度の向上(z=2.91,p<.001),指導教諭の指導スタイルから実習を通した達成感や充実感(z=2.20,p<.05)において,1年生の方が2年生よりも影響性が強いことが示された。実習の初期経験は,学生にとって非常に重要な意味を持つ可能性が示唆された。