日本教育心理学会第59回総会

講演情報

ポスター発表 PD(01-83)

ポスター発表 PD(01-83)

2017年10月8日(日) 10:00 〜 12:00 白鳥ホールB (4号館1階)

10:00 〜 12:00

[PD81] 多次元項目反応モデルに基づいたTIMSS2015の質問紙調査における日本の中学生の回答バイアスの分析

萩原康仁 (国立教育政策研究所)

キーワード:項目反応理論, 回答バイアス, TIMSS

問題・目的
 学習の有用性の認知は学習意欲の向上の一要因である。国際的な学力調査のTIMSSでは,児童生徒の算数・数学,理科の教育到達度が測定されており,算数・数学,理科に対する態度等についての質問紙調査も併せて実施されている。このうち,学習の有用性の認知に関するものとして,生徒の「数学や理科に価値を置く程度」の尺度化が行われている。ただし,TIMSSの質問紙における元々の尺度化(Martin et al., 2016)は,項目反応理論の部分採点モデルを用いて教科別になされたものであり,個々の項目の内容によらずに質問紙の項目群に回答する系統的な傾向である回答バイアス(Paulhus,1991)については考慮されていない。直近の先行研究では,日本の大学生は中間反応傾向(MRS)があり,極端反応傾向(ERS)はあまりないことが示されている(田崎・申,2017)。
 本研究では,TIMSS2015の公開データを用い,日本の中学校第2学年の生徒の数学や理科に価値を置く程度に関する質問項目群への回答に,MRSの因子を別途仮定できるか検討する。また,MRSの因子と数学や理科に価値を置く程度の因子のそれぞれと,教育到達度との間の相関を見る。具体的には,MRSの因子と教育到達度との間の相関が,数学や理科に価値を置く程度の因子と教育到達度との間の相関よりも小さく,ゼロに近いか検証する。
方   法
分析対象:TIMSS2015の公開データにある日本の生徒147校4745人の,価値を置く程度に関する生徒質問紙(数学は問20,理科は問24)への回答(各9項目,4件法)と,五つずつある数学と理科の教育到達度の推算値を用いた。
分析モデル:二つのモデルを構成した。第一は,因子間相関のある確認的な多次元の一般化部分採点モデルであり,数学と理科に価値を置く程度についてそれぞれ因子を仮定し,識別力が項目間で異なるとした。第二は,第一のモデルにMRSの因子を追加したモデルである(cf. Falk & Cai,2016)。MRSの因子は各問の2・3番目のカテゴリへの回答にのみ影響を与え,数学や理科に価値を置く程度の二因子とは無相関とした。また,MRSの因子に係る識別力は項目間及び回答カテゴリ間で等値とした。なお,4件法の場合,この第二のモデルではMRSの因子得点の符号を反転させればERSであると解釈できる。
分析方法:Mplus ver. 8(Muthén & Muthén,1998-2017)のMLRの方法で母数を推定した(学校IDによるクラスタリングと各生徒の標本加重を考慮した)。多次元の一般化部分採点モデルを,Mplus上で制約のある多次元の名義反応モデルとして扱うこと(cf. 萩原・松原,2015)で,識別力が回答カテゴリに係ることを表した。因子と教育到達度との間の相関を推定する際には両モデルを再分析し,推算値ごとに統計量を求めてからこれらを平均するPV-Rの方法(von Davier et al., 2009)を用いた。
結果・考察
 2・3番目のカテゴリへの回答割合の中央値は0.722であり,5割よりも高かった。両モデルをBICで比較した結果,第二(159658.362)の方が第一(172050.902)よりも良かった。また,上記の回答割合と推定されたMRSの因子得点との間の相関係数の推定値は0.914であった。
 各モデルで推定された相関行列をTable 1に示す。数学や理科に価値を置く程度の因子と教育到達度との間の相関は第二の方がわずかに高かった。MRSの因子と教育到達度との相関は5%水準で有意であるものの,小さな効果量の目安(係数の絶対値が0.1)未満であった。
文   献
Falk, C.F., & Cai, L.(2016). A flexible full-information approach to the modeling of response styles. Psychological Methods, 21, 328–347.
萩原康仁・松原憲治(2015). TALIS2013の日本の教員における自己効力感の一検討:項目反応理論を用いて 日本教育心理学会総会発表論文集, 57, 246.
Martin, M. O., Mullis, I. V. S., & Hooper, M.(Eds.).(2016). Methods and procedures in TIMSS 2015. Chestnut Hill, MA: TIMSS & PIRLS International Study Center, Lynch School of Education, Boston College.
Muthén, L. K., & Muthén, B. O.(1998–2017). Mplus user’s guide. Eighth edition. Los Angeles, CA: Muthén & Muthén.
Paulhus, D. L.(1991). Measurement and control of response bias. In J. P. Robinson, P. Shaver, & L. S. Wrightsman (Eds.), Measures of personality and social psychological attitudes(pp. 17–59). San Diego, CA: Academic Press.
田崎勝也・申知元(2017). 日本人の回答バイアス:レスポンス・スタイルの種別間・文化間比較 心理学研究, 88, 32–42.
von Davier, M., Gonzalez, E., & Mislevy, R. J.(2009). What are plausible values and why are they useful? IERI Monograph Series, 2, 9-36.
謝   辞
SOURCE: TIMSS 2015 User Guide for the International Database. Copyright © 2017 International Association for the Evaluation of Educational Achievement (IEA). Publishers: TIMSS & PIRLS International Study Center, Lynch School of Education, Boston College and International Association for the Evaluation of Educational Achievement (IEA).
※本研究の一部はJSPS科研費(17K04599)の助成を受けたものである。