The 59th Annual Meeting of the Japanese Association of Educational Psychology

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ポスター発表 PE(01-80)

ポスター発表 PE(01-80)

Sun. Oct 8, 2017 1:30 PM - 3:30 PM 白鳥ホールB (4号館1階)

1:30 PM - 3:30 PM

[PE03] 乗除算の習得がゆるやかに進む小学生の事例

大西美香子1, 伊藤康児2, 加藤幸久3 (1.名城大学, 2.名城大学, 3.名城大学大学院)

Keywords:計算習得, 乗除算, 小学校高学年

研究の目的
 小学校段階の算数においては,乗除算の理解と習熟は重要な学習内容であり,問題への誤答が多い児童には,そのありように適した指導を行うことが望まれる。
 本研究は自身の学年よりも低い学年配当の乗除算問題でも多くの誤答を示した児童の乗除算習得がゆるやかに進んだ経過を分析し,この児童の数の認知の一面を明らかにすることを目的とする。
方   法
(1)対象者
 B県内のH教室に通う小学生1名。2年生で加減算の習得につまずきがあり,くり上がり・くり下がりの前段階となる10までの数の分解・合成から学習を始めた。6年生となった現在まで,基礎となる内容に何回ももどりながら学習している。本発表については,保護者より承諾を得ている。
(2)期間
 2013年11月から2017年4月。
(3)手続き
 H教室内で対象者が取り組んだ算数学習課題プリントの解答を分析し,また課題に取り組む際の対象者の行動を参考とした。
結果と考察
(1)九九を使う1桁の数同士の乗算の誤答
 Figure 1に3×8,7×4などの1桁の数同士の乗算100問テストにおける誤答数の減少の経過を示した。九九を正しく暗唱できるにつれて誤答は減り,小学2年生に配当される九九の習得が大幅に遅れていたものの,H教室や家庭で繰り返し学習したことにより,5年生の2016年12月時点で誤答がなくなった。
(2)加減算をふくむ問題への解答
 Figure 2は5年生の終わりに近い2017年3月時点で正答した計算問題の例である。乗除算に加減算も組み合わさったこの種の計算問題は,小学3年生で学習する内容に対応しており,学年配当から大きく遅れてはいるが,ほぼすべて正答でき,この計算を要する文章題でも誤答は減少している。その一方で,たとえば「いすが16きゃくあります。1回に3きゃくずつ運ぶと,何回で運び終わりますか。」といった文章題では,「16÷3」の式を立て,ついで,わった答え「5」にあまりのいすを運ぶ1回分を加える「5+1」の式を立てて,2つの式から正答を導く必要があるが,6年生になった2017年4月時点でも,この種の文章題4題のうち1題で2つの式を書けたにとどまった。
 また,割り算の筆算では,Figure 3に例示したあてはまる数を記入する形の問題でも5年生の2016年6月6月時点で混乱が多く見られ,わられる数が3桁,わる数が2桁になると正答がえられなかった。この種の筆算では,「十の位」で答えを立てる-わる数に答えをかける-ひく-「一の位」の数をおろす,といった手順を繰り返する必要があり,このステップが増加すると混乱が増すものと推測される。
(3)本児の数量の認知
 誤答が減少した経過を踏まえると,学習を重ねたことにより,学年配当より遅れながらも乗除算でフォローされる数量変化の認知も進み,計算技能も向上してきたと判断される。その一方で,現実世界での数量変化への乗除算の応用にはぎこちなさが残り,数量の認知の深まりがなお求められる。また,計算手順の認知的負荷が増した問題に正答するための習熟のプロセスも求められよう。