1:30 PM - 3:30 PM
[PE13] 困り感を持つ生徒への発達支援(1)
非行傾向のある少年に対する中学校と連携した支援
Keywords:支援, 非行, 学習環境デザイン
問題と目的
20歳以下の少年が非行行為をした場合,少年法に基づいた教育・保護的な処遇がなされる。現行の少年法は改正を重ねる毎に「厳罰化(高岡, 2010)」の流れにあると言われており,これは,教育・保護的な処分ではなく,大人と同様に行為の責任を取らせる刑事的な処分が重視されつつあることを示している。しかし松嶋(2013) は,非行少年への強い指導に対し「パワーによる問題解決は,容易に文字通りのパワー(暴力)へと発展する」と懸念している。さらに,非行のリスクとしての「劣悪な家庭環境」など少年たちの社会文化的背景に注目するとき,非行少年は「その加害行為を監督するべき対象であると同時に,被害者としての側面に注目して人生が支えられるべき存在である」と述べている。
本研究は男子中学生2名(P, Q)を対象に,中学校と大学チームが連携して発達支援をする実践を行い,非行傾向のある少年に対する支援のデザインについて検討することを目的とした。実践は,非行・いじめ・校内暴力・学級崩壊などの問題を持つ課題集中校である公立中学校で行った。支援対象者は両名とも授業のエスケープや妨害,器物破損や暴力行為を行っていた。
本実践では発達をヴィゴツキー(1978)及びホルツマン(2014)に倣い「中学生だけでなく実践の場にいる中学校教員や大学の支援チームの誰もが関わり合いながら,互いに支援し支援される場を創造すること,またそれに伴う個人の変化」と定式化した。本実践は (1)支援対象者が参加しやすく,学びやすい学習環境のデザインを教員,支援者と共に構築すること(2)学習環境のデザインを通して,支援対象者及び教員・支援者の発達をめざすこと,以上2点を目的として行った。
方 法
実践では,支援対象者にとって必要な教材や人材といった支援・指導は何かを,実践に参加するメンバー全員で話し合うオープンダイアログ形式(Seikkula and Olson, 2003)を採用した。この実践は中学校と大学チームの共同研究いう名目で行われ支援対象者も研究者の一員として参加した。また,両名の言動に合わせて適宜実践の順序や内容を変更した。2015年10月までに5回の実践を行い,うち2回が面接,3回が学習支援を中心とした実践であった。
結果と考察
実践における対話は,支援チーム側から支援対象者に問いかけ,彼らの行為の意味について理解しようとするものだった。しかし支援対象者の返答には支援チームの想定範囲の内外を往還する内容が多く含まれた。例えば第5回の実践では,テストの必要性について対話をしていた(Figure 1参照)。大学チームは Qが「テストは必要ない」と主張するのではないかと考えていたが,Qの返答は想定とは異なり「テストは必要である」というものだった。
ここでは支援対象者の返答が支援者の想定と異なったため,彼らなりのテストの意義・意味に気付いた場面であったと考えられる。本実践のデザインによって,支援者は支援者でありつつ,ときに支援対象者の視点を学ぶ立場にもなり,支援対象者は支援対象者でありつつ,ときに彼らの視点を支援者側に教える立場にもなった。実践の場で参加メンバー個々の役割や立場は一意に決定せず,他者との対話の中で変化し続けていたと考えられる。実践に参加するメンバーは互いに視点や意見を学び合い,支援し合いながら相互行為の中で発達していく環境を構築していたと推察される。
以上のことから,本実践は支援チームが一方的に支援対象者を導くデザインではなかったと考えられる。ホルツマン(2014)は発達を「道具と結果の弁証法」であると述べている。本実践における発達は支援対象者個人の発達ではなく,実践に参加するメンバー全員の相互行為そのものであると示唆される。非行傾向のある少年に対する支援において,支援者が一方的に支援対象者を導くデザインだけでなく,支援者と支援対象者が創発的に支援を作り上げていこうとするプロセスの構築自体を目的とするデザインもまた扱われていく必要性があると考える。
20歳以下の少年が非行行為をした場合,少年法に基づいた教育・保護的な処遇がなされる。現行の少年法は改正を重ねる毎に「厳罰化(高岡, 2010)」の流れにあると言われており,これは,教育・保護的な処分ではなく,大人と同様に行為の責任を取らせる刑事的な処分が重視されつつあることを示している。しかし松嶋(2013) は,非行少年への強い指導に対し「パワーによる問題解決は,容易に文字通りのパワー(暴力)へと発展する」と懸念している。さらに,非行のリスクとしての「劣悪な家庭環境」など少年たちの社会文化的背景に注目するとき,非行少年は「その加害行為を監督するべき対象であると同時に,被害者としての側面に注目して人生が支えられるべき存在である」と述べている。
本研究は男子中学生2名(P, Q)を対象に,中学校と大学チームが連携して発達支援をする実践を行い,非行傾向のある少年に対する支援のデザインについて検討することを目的とした。実践は,非行・いじめ・校内暴力・学級崩壊などの問題を持つ課題集中校である公立中学校で行った。支援対象者は両名とも授業のエスケープや妨害,器物破損や暴力行為を行っていた。
本実践では発達をヴィゴツキー(1978)及びホルツマン(2014)に倣い「中学生だけでなく実践の場にいる中学校教員や大学の支援チームの誰もが関わり合いながら,互いに支援し支援される場を創造すること,またそれに伴う個人の変化」と定式化した。本実践は (1)支援対象者が参加しやすく,学びやすい学習環境のデザインを教員,支援者と共に構築すること(2)学習環境のデザインを通して,支援対象者及び教員・支援者の発達をめざすこと,以上2点を目的として行った。
方 法
実践では,支援対象者にとって必要な教材や人材といった支援・指導は何かを,実践に参加するメンバー全員で話し合うオープンダイアログ形式(Seikkula and Olson, 2003)を採用した。この実践は中学校と大学チームの共同研究いう名目で行われ支援対象者も研究者の一員として参加した。また,両名の言動に合わせて適宜実践の順序や内容を変更した。2015年10月までに5回の実践を行い,うち2回が面接,3回が学習支援を中心とした実践であった。
結果と考察
実践における対話は,支援チーム側から支援対象者に問いかけ,彼らの行為の意味について理解しようとするものだった。しかし支援対象者の返答には支援チームの想定範囲の内外を往還する内容が多く含まれた。例えば第5回の実践では,テストの必要性について対話をしていた(Figure 1参照)。大学チームは Qが「テストは必要ない」と主張するのではないかと考えていたが,Qの返答は想定とは異なり「テストは必要である」というものだった。
ここでは支援対象者の返答が支援者の想定と異なったため,彼らなりのテストの意義・意味に気付いた場面であったと考えられる。本実践のデザインによって,支援者は支援者でありつつ,ときに支援対象者の視点を学ぶ立場にもなり,支援対象者は支援対象者でありつつ,ときに彼らの視点を支援者側に教える立場にもなった。実践の場で参加メンバー個々の役割や立場は一意に決定せず,他者との対話の中で変化し続けていたと考えられる。実践に参加するメンバーは互いに視点や意見を学び合い,支援し合いながら相互行為の中で発達していく環境を構築していたと推察される。
以上のことから,本実践は支援チームが一方的に支援対象者を導くデザインではなかったと考えられる。ホルツマン(2014)は発達を「道具と結果の弁証法」であると述べている。本実践における発達は支援対象者個人の発達ではなく,実践に参加するメンバー全員の相互行為そのものであると示唆される。非行傾向のある少年に対する支援において,支援者が一方的に支援対象者を導くデザインだけでなく,支援者と支援対象者が創発的に支援を作り上げていこうとするプロセスの構築自体を目的とするデザインもまた扱われていく必要性があると考える。