The 59th Annual Meeting of the Japanese Association of Educational Psychology

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ポスター発表 PE(01-80)

ポスター発表 PE(01-80)

Sun. Oct 8, 2017 1:30 PM - 3:30 PM 白鳥ホールB (4号館1階)

1:30 PM - 3:30 PM

[PE28] プロンプトの観点から「保育者の援助」を考える

『保育の心理学』における試み

塚本恵信1, 橋村晴美2 (1.日本福祉大学, 2.中部学院大学)

Keywords:保育者養成, 保育者の援助, 応用行動分析

問   題
 幼児教育の基本は,環境による保育の実践にある。保育者は「保育のねらい」として想定された子どもの能動的な学びと育ちをもたらす「保育の内容」を選定し,“環境を通して”効果的に実践する計画を立案する。保育指導計画では,行動の自発を高める応答的な「環境の構成」と,そこで自発される「子どもの活動」,その自発を促す働きかけや応答としての「保育者の援助」の各要素に有機的な繋がりをもたせることが重要となる。
 保育者養成では,教育実習や保育実習における指導案の作成・実行・評価等の機会を通して,子どもの学びと育ちを支援する環境の構成や保育者の援助について実践的なスキルを習得させていく。だが,実習指導は経験的な“センスを磨く”ことが優先されがちで,指導計画や記録においても慣習的な表現をまず獲得することが求められる。また,養成課程の座学においても,保育の理解は日常的な事例を平易で情緒的な表現を用いて語られることが多く,機能的な観点から分析的に保育活動を考察する技能が十分に習熟されないことが懸念される。
 オペラント条件づけを基礎理論とする応用行動分析では,[A]特定の環境刺激(先行事象:Antecedent)のもとで[B]自発された行動(Behavior)に[C]随伴する環境変化(結果事象:Consequence)が自発水準を変容する,という機能的枠組みのもとで行動を分析し,環境([C]および[A])を調整することで行動の形成・変容を支援する。行動の自発[B]を高めるには,随伴する環境変化[C]を実感できる応答的な環境の構造を整備し,また,実行のきっかけとなる環境刺激の弁別を補助する手がかり(プロンプト)の呈示[A]が効果的とされる。このような理解と支援の枠組みは,保育における“環境による保育”を分析的に捉える上で非常に有用なのだが,幼児教育ではあまり積極的に導入されていない(障害児保育や特別支援教育の話題で限定的に扱われる)ように思われる。
目   的
 本研究では,保育者養成課程の演習科目『保育の心理学』に応用行動分析的なアプローチの学習を導入し,保育活動の分析的な理解を試みた授業実践について検討する。本稿では特に,保育指導計画における「保育者の援助」を,子どもの活動[B]を促すプロンプト[A]の観点から考察させた演習課題について報告する。
方   法
実施日・授業 2016年5月;「保育の心理学」にて実施。
参加者 保育者養成課程の大学3年生44名(女38男6)。前年度に保育所保育実習(2週間)を履修済で,翌月中旬から幼稚園教育実習(4週間)に参加予定であった。
演習課題 「保育活動におけるプロンプト事例について例示・説明せよ」の設題で実施し,次の2部構成とした。課題(1)指導案:参加者が所有する実習簿の記録を参照し,日付・曜日・天候,年児・人数(男女),これまでの様子・ねらい・内容,および「環境構成(環境図を含む)」「子どもの活動」「保育者の援助」を時系列で記述させた。課題(2)保育分析:指導案の記述内容をもとに,「保育者の援助」における反応プロンプト(声かけ・身振り・示範・手添え等の働きかけ),および「環境構成」における刺激プロンプト(目印や配置,活動の難易度等の環境配慮)について,それぞれ解説させた。
手続き 課題に先立ち,応用行動分析的アプローチによる行動の理解と支援について講義を実施した。まず基礎となるオペラント行動の学習理論を幼児理解に関連づけながら解説した上で,教育支援となる環境の構造化やプロンプト・フェイディングの技法を説明し,保育活動の理解における有用性を論じた。なお,課題は授業成果物として提出させ,授業終了時に研究利用の承諾を得た。
結   果
 心理学および保育学を専門領域とする2名の研究者によって,指導案の記述と保育分析の記述を比較検討した。
1.指導案「保育者の援助」の記述
 提出課題の指導案は,実施済の保育実習または実施予定の教育実習いずれかの実習簿の記録が引用されていた。その特徴をみると,援助の意図(e.g.…することができるように等)がやや不明確な傾向が見られた。また,「環境構成」と「保育者の援助」が未整理で,「子どもの活動」との有機的な繋がりが不明瞭な箇所も散見された。
2.保育分析「反応プロンプト」の記述
 保育者の個別の援助について,子どものいかなる活動を促すことを想定した反応プロンプトなのか,その意図や効果を明示的に解説しようとする記述が見られた。また,指導案では未整理で不明瞭だった記述内容が,保育分析では「子どもの活動」と「環境構成」「保育者の援助」を具体的に関連づけようとする傾向が現れた。なお,刺激プロンプトの記述でも同様の傾向が見られた。
考   察
 応用行動分析のアプローチを導入した授業実践の試みを通して,保育活動を分析的に捉える“枠組み”の獲得が促される可能性が示唆された。実行を補助するプロンプト[A]の観点だけではなく,行動の強化をもたらす保育者や環境の応答性[C]の理解・考察についても,同様の取り組みが有効だろうと考えられる。保育者養成課程における,より効果的かつ実用的な教育指導方法について,さらに検討を進める必要がある。