日本教育心理学会第59回総会

講演情報

ポスター発表 PE(01-80)

ポスター発表 PE(01-80)

2017年10月8日(日) 13:30 〜 15:30 白鳥ホールB (4号館1階)

13:30 〜 15:30

[PE45] マルチレベル分析によるアクティブ・ラーニング型授業の効果測定(6)

大学環境に対する適応感およびグループワーク活動が成績に及ぼす影響

佐藤友美1, 高比良美詠子2, 杉本英晴3 (1.九州工業大学, 2.立正大学, 3.駿河台大学)

キーワード:アクティブ・ラーニング, 学校適応感, マルチレベル分析

 近年大学教育において,対話を重視したグループワークといった,アクティブ・ラーニング型授業が積極的に導入されてきている。グループワークのような協同学習は,競争学習や個別学習に比べ,心理的適応や大学への態度などの改善において優れているという(Johnson et al., 1998)。しかしグループワークが,アクティブ・ラーニング型授業で期待されている効果,つまり汎用的技能・態度,そして知識の定着・活用を促進しているのか,実証的な検討は少ない。
 そこで佐藤他(2016)は,グループワーク中の発言活動と協同活動が,汎用的態度の中でも大学生の適応感に及ぼす集団レベルおよび個人レベルの効果を,マルチレベル構造方程式モデリングを用いて検討した。その結果,発言活動は個人志向の適応を促進し,他者志向の適応を阻害することが明らかになった。さらに,協同活動は個人志向の適応を阻害し,他者志向の適応を促進することが分かり,グループ活動の質によって効果のトレードオフがみられることが示された(杉本・佐藤,2017)。
 そこで本稿では,アクティブ・ラーニングのもう一つの重要な目的である,知識の定着・活用に焦点を当てた。そして,授業前開始前の適応感を統制したうえで,グループワーク中の活動(発言活動と協同活動)が,知識の構造化や深まりに及ぼす集団レベル,および個人レベルの効果を,マルチレベル構造方程式モデリングを用いて検討することとした。また,グループメンバーが事前の大学環境への適応の程度が専門知識の習得に及ぼす影響についても併せて検討する。

方   法

 調査対象者 大学1年生185名(女性66名,男性119名)で,5~8名の固定メンバーから成る30グループを対象とした。
 質問紙 (1) グループワーク中の活動:佐藤他(2016)で使用した「発言活動」と「協同活動」を測る11項目の尺度を使用した。(2)大学への適応感:大久保・青柳 (2003) の大学環境への適応感尺度29項目から,「居心地の良さの感覚」「被信頼感・受容感」「課題・目的の存在」「拒絶感のなさ」の4因子を使用した。(3)成績:心理尺度作成および信頼性・妥当性の検討に関する個人で執筆した論文の内容及び授業参加度を合計したものを,知識の定着・活用の指標として100点満点で得点化を行った。
 手続き (1)は第2回から第14回の授業終了時に毎回測定した。(2)は第1回授業開始前と第15回授業終了後に測定した。(3)の論文は第15回授業後1週間以内に提出させた。

結果と考察

 Figure 1.の分析モデルを使用した。グループワーク中の活動は,全13回の平均値を使用し,全体平均による中心化を行なった。発言行動と協同活動の級内相関係数はそれぞれ,.09,.20であった。
 集団レベルのパス(b)については,「被信頼感・受容感」および「居心地の良さ」で有意な負の効果がみられ,より発言行動ができていたグループほど成績が低いことが示された。パス(c)においては「被信頼感・受容感」と「居心地の良さ」で有意な正の効果が見られ,より協同活動ができていたグループほど成績が高かった。
 個人レベルのパス(g)について4因子の全てで有意および有意傾向な正の効果が得られ,より発言行動ができていた個人ほど成績が高かった。
 パス(d)については,「被信頼感・受容感」と「居心地の良さ」において,それぞれ有意な負の効果が見られ,発言活動が多いグループでは「被信頼感・受容感」が強い個人は成績が低く,「居心地の良さ」が強い個人は高かった。パス(e)においては,「被信頼感・受容感」と「居心地の良さ」において,有意な負の効果が見られ,協同活動が多いグループでは「被信頼感・受容感」が強い個人は成績が高く「居心地の良さ」が強い個人は低かった。これらのことから,個人の事前の適応感によって所属するグループの質が知識の構造化や深まりに及ぼす影響が異なることが示唆された。