1:30 PM - 3:30 PM
[PE49] 他者の情動を効果的に調整可能な方略は何か?
プロセスモデルに基づく検討
Keywords:情動調整, コミュニケーション
目 的
強い悲しみや不安を経験した際,私たちはしばしば他者の力を借りて情動の調整を行う。この現象を情動調整の与え手の立場から捉えた時,どのような方略を用いれば,他者の情動を上手く調整できるのだろうか。これまで多くの自己の情動調整研究ではGross (1998) の「プロセスモデル」が用いられてきた。プロセスモデルでは,「状況」に「注意」が向けられ,その意味を「評価」することで,感情「反応」が生じるという感情生成プロセスを想定する。そして数多くの研究から,情動生成の前段階である「状況」「注意」「評価」を対象とする方略の方が,情動「反応」を直接対象とする方略よりも,効果的に情動調整を行えることが頑健に明らかにされている (Webb et al., 2012)。
本研究では,プロセスモデルを初めて他者の情動の調整に当てはめ,「自己の情動の調整」で効果的に働く方略が,「他者の情動の調整」でも効果的に働くのかを検討した。
方 法
参加者 株式会社クロスマーケティングが保有する参加者プールの中から360名(平均年齢 44.0歳, SD = 8.76) がオンライン調査に参加した。
材料と手続き Cheung & Gardner (2015) と同様に,参加者には「この研究は新しいSNSサイトの開発に関心があること」「すでに他の人が自己紹介の手紙を書いており,この3名に返信を書いてほしいこと」が伝えられた。3名の手紙の内容は「犬が亡くなって悲しい気持ちでいる」「解雇され次の職を探せるか不安」「初めての孫が生まれて嬉しい」であった。
コーディング 参加者の返信は,2名の評定者が「用いられている他者の情動の調整の方略の種類」を,以下のプロセスモデルの分類に従いコーディングした。1) 状況選択:情動を喚起させる状況を経験しないようにする 2) 状況修正: 情動を喚起させている状況を変える 3) 注意の方向づけ:情動を喚起させている状況への注意の向け方を変える 4) 認知的変化:情動を喚起させている出来事に対する認知的解釈を変える5) 反応調整:生理的・経験的・行動的な情動反応を直接的に変える(例;共感的関心,理解,抑止など)。さらに,別の2名の評定者が「相手のネガティブ情動を和らげ,ポジティブ情動を高める上で,返信内容がどの程度有効か?」を4件法で評定した。
結果と考察
「状況選択」「注意の方向づけ」は,ほぼ全ての参加者が用いていなかったため,残りの3方略を分析対象とした。用いられていた方略と,相手の情動を調整する上での返信内容の有効性との相関を検討した結果 (Table 1),これまでの自己の情動の調整研究から予想される結果とは異なり,「反応調整」が最も強く有効性と正に相関していた。また,状況修正と有効性の相関は中程度であり,認知的変化と有効性の間には有意な相関は認められなかった。
さらに,自己の情動調整研究では,人は複数の方略を組み合わせて情動調整を行うことが知られている。そこで,本研究でも,複数の方略を組み合わせた調整と,相手の情動を調整する上での返信内容の有効性との相関を検討した。指標はMIN Index (Schimmack, 2001) を用いた。これは,2変数の小さい方の値を分析に用いるものであり。たとえば,ある人が認知的変化を多く使っていたとしても(例:5つ),反応調整を全く使っていなければ(0つ),MIN(認知的変化,反応調整)は0となる。そして反応調整の数が増えるに従い,MINの値も増加する。分析の結果 (Table 1),「状況選択と反応調整を組み合わせた調整」および「認知的変化と反応調整を組み合わせた調整」の方が,「状況選択と認知的変化を組みわせた調整」よりも,強く有効性と正に相関していた。
以上より,自己の情動の調整の場合とは異なり,他者の情動の調整の場合には,「反応調整」が効果的な情動調整において重要な役割を果たすことが明らかになった。
強い悲しみや不安を経験した際,私たちはしばしば他者の力を借りて情動の調整を行う。この現象を情動調整の与え手の立場から捉えた時,どのような方略を用いれば,他者の情動を上手く調整できるのだろうか。これまで多くの自己の情動調整研究ではGross (1998) の「プロセスモデル」が用いられてきた。プロセスモデルでは,「状況」に「注意」が向けられ,その意味を「評価」することで,感情「反応」が生じるという感情生成プロセスを想定する。そして数多くの研究から,情動生成の前段階である「状況」「注意」「評価」を対象とする方略の方が,情動「反応」を直接対象とする方略よりも,効果的に情動調整を行えることが頑健に明らかにされている (Webb et al., 2012)。
本研究では,プロセスモデルを初めて他者の情動の調整に当てはめ,「自己の情動の調整」で効果的に働く方略が,「他者の情動の調整」でも効果的に働くのかを検討した。
方 法
参加者 株式会社クロスマーケティングが保有する参加者プールの中から360名(平均年齢 44.0歳, SD = 8.76) がオンライン調査に参加した。
材料と手続き Cheung & Gardner (2015) と同様に,参加者には「この研究は新しいSNSサイトの開発に関心があること」「すでに他の人が自己紹介の手紙を書いており,この3名に返信を書いてほしいこと」が伝えられた。3名の手紙の内容は「犬が亡くなって悲しい気持ちでいる」「解雇され次の職を探せるか不安」「初めての孫が生まれて嬉しい」であった。
コーディング 参加者の返信は,2名の評定者が「用いられている他者の情動の調整の方略の種類」を,以下のプロセスモデルの分類に従いコーディングした。1) 状況選択:情動を喚起させる状況を経験しないようにする 2) 状況修正: 情動を喚起させている状況を変える 3) 注意の方向づけ:情動を喚起させている状況への注意の向け方を変える 4) 認知的変化:情動を喚起させている出来事に対する認知的解釈を変える5) 反応調整:生理的・経験的・行動的な情動反応を直接的に変える(例;共感的関心,理解,抑止など)。さらに,別の2名の評定者が「相手のネガティブ情動を和らげ,ポジティブ情動を高める上で,返信内容がどの程度有効か?」を4件法で評定した。
結果と考察
「状況選択」「注意の方向づけ」は,ほぼ全ての参加者が用いていなかったため,残りの3方略を分析対象とした。用いられていた方略と,相手の情動を調整する上での返信内容の有効性との相関を検討した結果 (Table 1),これまでの自己の情動の調整研究から予想される結果とは異なり,「反応調整」が最も強く有効性と正に相関していた。また,状況修正と有効性の相関は中程度であり,認知的変化と有効性の間には有意な相関は認められなかった。
さらに,自己の情動調整研究では,人は複数の方略を組み合わせて情動調整を行うことが知られている。そこで,本研究でも,複数の方略を組み合わせた調整と,相手の情動を調整する上での返信内容の有効性との相関を検討した。指標はMIN Index (Schimmack, 2001) を用いた。これは,2変数の小さい方の値を分析に用いるものであり。たとえば,ある人が認知的変化を多く使っていたとしても(例:5つ),反応調整を全く使っていなければ(0つ),MIN(認知的変化,反応調整)は0となる。そして反応調整の数が増えるに従い,MINの値も増加する。分析の結果 (Table 1),「状況選択と反応調整を組み合わせた調整」および「認知的変化と反応調整を組み合わせた調整」の方が,「状況選択と認知的変化を組みわせた調整」よりも,強く有効性と正に相関していた。
以上より,自己の情動の調整の場合とは異なり,他者の情動の調整の場合には,「反応調整」が効果的な情動調整において重要な役割を果たすことが明らかになった。