1:30 PM - 3:30 PM
[PE52] 感謝感情と負債感情が排斥された第三者への向社会的行動に及ぼす影響の検討
Keywords:感謝感情, 負債感情, 向社会的行動
問題と目的
被援助時に生じた感謝感情は,感情を経験した個人に対して第三者への向社会的行動を促進することが示されている(Bartlett&DeSteno,2006;DeSteno et al.,2010)。一方で,被援助時に生じる感情には,感謝感情の他に,申し訳なさのような負債感情の存在も指摘されている(蔵永・樋口, 2011)。両感情を同時に考慮した際の,第三者への向社会的行動への影響は未だ明らかではない。本邦における検討では,第三者への向社会的行動が様々な方法で測定されているが,明確な結果は得られていない(e.g.Yoshino&Aikawa,2016)。この原因は,第三者の困窮度が実験参加者へ伝わりにくいことであると考えられる。
そこで,本研究は,困窮度の高い第三者の存在を明示するために「排斥された第三者」を設定した。感謝感情と負債感情が,排斥された第三者への向社会的行動に及ぼす影響を検討する。
なお,本研究では,感情体験の想起に基づく感謝感情と負債感情は共起するが,おもに感謝感情が生起する場合と,おもに負債感情が生起する場合があるとする立場にたち,前者の感情状態を「感謝喚起条件」,後者の感情状態を「負債喚起条件」とし,いずれの感情も生起させない「統制条件」を加えた,3条件に対応した感情操作を扱う。
方 法
実験参加者 大学生55名(感謝喚起条件:19名,負債喚起条件:18名,統制条件18名)
実験手続き 実験は,感情体験の想起による感情操作と感情状態の確認を行った後,サイバーボールによって排斥された第三者の提示とその第三者へボールを渡す程度を記録する順序で実施された。
感情操作は,感謝喚起条件では,「ありがたかった友人からの手助けを多く思い出した後に,最もありがたかった場面を味わうように追体験するような想起」を求めた。負債喚起条件では,上記教示の内,「ありがたい」を「申し訳ない」に変更し教示した。統制条件では,感情体験ではなく,友人との会話場面と発言内容の想起を求めた。
感情状態の確認は,感謝感情と負債感情を,「ありがたい」「感謝」「好ましい」「寛大な」,「申し訳ない」「すまない」「悪い」「負い目」の8項目7件法で測定した。
サイバーボールは,実験参加者を含めた4名で行う課題であると,カバーストーリーを提示した。課題のプログラムは,実験参加者以外のキャラクター1名が排斥される設定にした。4名間での総試行数は90回,実験参加者が実際に操作をする試行数は32-34回であり,全体の約36%であった。
結 果
感謝感情と負債感情の変数は,測定項目の平均値を得点とした。第三者への向社会的行動の変数は,サイバーボールにおける実験参加者の総試行数のうち,排斥された第三者へボールを投げた割合を得点とした。
感情操作の確認 条件間における,感謝感情,負債感情の得点の差をそれぞれ検討した。
感謝感情は, Welch検定を行い(F(2,28.87)=12.43,p<.001), Games-Howellの多重比較を行った。感謝喚起条件(M=8.71,SD=0.72),負債喚起条件(M=7.93,SD=1.41)と,統制条件(M=6.25,SD=2.04)のそれぞれの間においてのみ有意な差がみられた。
負債感情は,一要因分散分析を行い(F(2,52)=28.32,p<.001),Bonferroniの多重比較を行った。感謝喚起条(M=4.57,SD=2.02),負債喚起条件(M=6.69,SD=1.83),統制条件(M=1.76,SD=2.06)の全ての条件間に有意な差がみられた。したがって,感情操作は,成功していた。
第三者への向社会的行動の差 第三者への向社会的行動の変数と,実験参加者が他の参加者へ等しくボールを投げる確率(33.33%)の差の有意性検定を条件ごとに行った。なお,有意水準はBonferroniの補正をかけた。
感謝喚起条件(t(18)=6.19,M=40.51,SD=5.05),負債喚起条件(t(17)=4.30,M=40.75,SD=7.31)は共に,33.33%よりも多く,排斥された第三者へボールを投げていた(p<.001)。統制条件(t(17)=1.77,M=38.17,SD=11.63)には,33.33%と有意差は見られなかった(p=.09)。
考 察
感情体験の想起により操作された感謝感情と負債感情は,実験参加者に対しサイバーボールにおいて排斥された第三者へ,均等配分よりも多くボールを投げ渡す向社会的行動をとらせた。
ただし,一要因分散分析における条件間差の検討では,有意差がみられなかったため(F(2,52)=.52,ns),本研究が示す感謝感情と負債感情が第三者への向社会的行動に及ぼす効果は,必ずしも大きくないと考えられる。
被援助時に生じた感謝感情は,感情を経験した個人に対して第三者への向社会的行動を促進することが示されている(Bartlett&DeSteno,2006;DeSteno et al.,2010)。一方で,被援助時に生じる感情には,感謝感情の他に,申し訳なさのような負債感情の存在も指摘されている(蔵永・樋口, 2011)。両感情を同時に考慮した際の,第三者への向社会的行動への影響は未だ明らかではない。本邦における検討では,第三者への向社会的行動が様々な方法で測定されているが,明確な結果は得られていない(e.g.Yoshino&Aikawa,2016)。この原因は,第三者の困窮度が実験参加者へ伝わりにくいことであると考えられる。
そこで,本研究は,困窮度の高い第三者の存在を明示するために「排斥された第三者」を設定した。感謝感情と負債感情が,排斥された第三者への向社会的行動に及ぼす影響を検討する。
なお,本研究では,感情体験の想起に基づく感謝感情と負債感情は共起するが,おもに感謝感情が生起する場合と,おもに負債感情が生起する場合があるとする立場にたち,前者の感情状態を「感謝喚起条件」,後者の感情状態を「負債喚起条件」とし,いずれの感情も生起させない「統制条件」を加えた,3条件に対応した感情操作を扱う。
方 法
実験参加者 大学生55名(感謝喚起条件:19名,負債喚起条件:18名,統制条件18名)
実験手続き 実験は,感情体験の想起による感情操作と感情状態の確認を行った後,サイバーボールによって排斥された第三者の提示とその第三者へボールを渡す程度を記録する順序で実施された。
感情操作は,感謝喚起条件では,「ありがたかった友人からの手助けを多く思い出した後に,最もありがたかった場面を味わうように追体験するような想起」を求めた。負債喚起条件では,上記教示の内,「ありがたい」を「申し訳ない」に変更し教示した。統制条件では,感情体験ではなく,友人との会話場面と発言内容の想起を求めた。
感情状態の確認は,感謝感情と負債感情を,「ありがたい」「感謝」「好ましい」「寛大な」,「申し訳ない」「すまない」「悪い」「負い目」の8項目7件法で測定した。
サイバーボールは,実験参加者を含めた4名で行う課題であると,カバーストーリーを提示した。課題のプログラムは,実験参加者以外のキャラクター1名が排斥される設定にした。4名間での総試行数は90回,実験参加者が実際に操作をする試行数は32-34回であり,全体の約36%であった。
結 果
感謝感情と負債感情の変数は,測定項目の平均値を得点とした。第三者への向社会的行動の変数は,サイバーボールにおける実験参加者の総試行数のうち,排斥された第三者へボールを投げた割合を得点とした。
感情操作の確認 条件間における,感謝感情,負債感情の得点の差をそれぞれ検討した。
感謝感情は, Welch検定を行い(F(2,28.87)=12.43,p<.001), Games-Howellの多重比較を行った。感謝喚起条件(M=8.71,SD=0.72),負債喚起条件(M=7.93,SD=1.41)と,統制条件(M=6.25,SD=2.04)のそれぞれの間においてのみ有意な差がみられた。
負債感情は,一要因分散分析を行い(F(2,52)=28.32,p<.001),Bonferroniの多重比較を行った。感謝喚起条(M=4.57,SD=2.02),負債喚起条件(M=6.69,SD=1.83),統制条件(M=1.76,SD=2.06)の全ての条件間に有意な差がみられた。したがって,感情操作は,成功していた。
第三者への向社会的行動の差 第三者への向社会的行動の変数と,実験参加者が他の参加者へ等しくボールを投げる確率(33.33%)の差の有意性検定を条件ごとに行った。なお,有意水準はBonferroniの補正をかけた。
感謝喚起条件(t(18)=6.19,M=40.51,SD=5.05),負債喚起条件(t(17)=4.30,M=40.75,SD=7.31)は共に,33.33%よりも多く,排斥された第三者へボールを投げていた(p<.001)。統制条件(t(17)=1.77,M=38.17,SD=11.63)には,33.33%と有意差は見られなかった(p=.09)。
考 察
感情体験の想起により操作された感謝感情と負債感情は,実験参加者に対しサイバーボールにおいて排斥された第三者へ,均等配分よりも多くボールを投げ渡す向社会的行動をとらせた。
ただし,一要因分散分析における条件間差の検討では,有意差がみられなかったため(F(2,52)=.52,ns),本研究が示す感謝感情と負債感情が第三者への向社会的行動に及ぼす効果は,必ずしも大きくないと考えられる。