The 59th Annual Meeting of the Japanese Association of Educational Psychology

Presentation information

ポスター発表 PE(01-80)

ポスター発表 PE(01-80)

Sun. Oct 8, 2017 1:30 PM - 3:30 PM 白鳥ホールB (4号館1階)

1:30 PM - 3:30 PM

[PE56] 母親のパーソナリティ,養育と幼児の気質との関連

子どもの困難度に焦点を当てて

内海緒香 (お茶の水女子大学)

Keywords:子育て支援, 幼児期, Big Five

問   題
 親のパーソナリティは,養育の質に影響を与える内的な資源(Prinzie et al., 2009)であり,パーソナリティと養育との関連は,子どもの気質に応じて異なる(Coplan et al., 2009)と示唆されてきている。本邦では,幼児期の子どもの気質と親のパーソナリティ,または気質と養育に焦点を当てた研究は数多く行われてきたが,養育者のパーソナリティ・養育と子どもの気質との関連を同時に調べた研究は少ない。母子双方の特性に関する知見は子育て支援を行ううえでも重要と考えられる。
方   法
調査対象者:公立幼稚園(東京都内)の年中クラスに在籍する子ども(女児14名・男児14名)の母親28名。実施期間:2015年10月から2016年2月。実施方法と手続き:大学周辺の幼稚園を通じ参加者を募集した。まず自宅に質問紙を郵送し,他の実験に参加するため母親が来学した際,質問紙を回収した。質問内容:①母親の年齢と教育年数,②母親のパーソナリティは,Big 5理論に基づくMINI(村上・村上,1997)より,知的好奇心,良識性,外向性,協調性,情緒安定性を使用した。③母親の養育に関する自己認知として,PAS(内海,2012)より,受容,モニタリング,心理的統制を使用した。④子どもの気質として,草薙(1993)の日本語翻訳によるCBQ Short Form(Putnam & Rothbart, 2006)より,AF(集中力),IC(抑制的制御),LP(弱い刺激への快),PS(知覚的敏感性),AL(活動水準),AN(怒り・欲求不満),AP(接近),DS(不快),SO(なだまりやすさ),FE(恐れ),HP(強い刺激への快),IM(衝動性),SD(悲しさ),SH(内気さ),SL(微笑)を用いた。「子どもの強さと困難さアンケート(SDQ; Goodman, 2000)」より,客観的困難度としてTD(総合的困難度)および主観的困難感(「お子さんは,情緒・集中力・行動・他人との付き合いのいずれか1つ以上の領域において困難を抱えていると思いますか?」)を使用した。本研究は本学の倫理委員会の承認を受けた後,研究協力者への説明を事前に行い同意を得たうえで実施した。
結果と考察
 母親の属性は,平均年齢 38.62歳(SD = 4.47),平均教育年数 15.57年(SD = 1.45),89%が専業主婦であった。引き続き,変数間の単相関を調べた。母親の年齢と他の変数との間に有意な関連はみられなかった。母親の教育年数は,外向性と負の関連,子どものAN/FE/SDと正の関連を示していた。高学歴の母親ほど,子どもの欲求不満,恐れ,悲しさといった否定的な気質を認識する傾向があるといえる。
 母親のパーソナリティは,養育や子どもの気質と関連するか:母親の協調性は,養育とは無関連であったが,子どものICと正の関連,子どものDSと負の関連を示していた。母親の情緒安定性は,養育と無関連,子どものSOと正の関連,AN/AP /SHと負の関連を示していた。母親の知的好奇心は,心理的統制と負の関連,子どもの気質とは無関連であった。母親の外向性は,養育,子どもの気質ともに無関連であった。母親のパーソナリティと養育との間については海外の先行研究ほどには顕著な関連がみられなかったが,母親の協調性や情緒的安定性と一部の子どもの気質との間には関連が認められた。したがって,親のパーソナリティは,自らの養育よりも子どもの気質との関連のほうが強いと推測される。
 母親は子どものどのような気質に困難を感じるのか:客観的困難度は,AF/IC/SOと負の関連,AL/AN/HPと正の関連であった。客観的困難と主観的困難度との有意な正の関連は中程度であり,主観的困難はAL/APとのみ正の関連を示した。母親は,外在化問題と関連が高いと推測される怒りや衝動性については幼児によくみられがちなこととして困難と認識していないのかもしれない。内在化問題と関連性が高いと推測される内気さや悲しさに困難を感じていなかった一方で,良く動き回るなど身体的な活動性が高い,あるいは楽しい活動を予期したとき興奮するような状態を問題視する傾向があった。なだまりやすく,活動水準が低く,自己制御の高い子どものほうがより受容的でモニタリングが高い養育を受ける傾向がみられたことから,子どもの活発な働きかけにどのように応じてともに楽しんだらよいか学ぶ実践的な子育て支援に加え,家庭で目に留まりにくい子どもの内気さや不安への注意喚起が重要と考えられる。今後は以上の関連性について,サンプル数を増やし,多変量解析により詳しく証することが必要である。
本研究は平成27年度科学研究費基盤研究(C)「幼児期の自律的自己制御への動機づけを育む養育者と保育者のモニタリング(課題番号:15K01750,研究代表者:内海緒香)」の助成を受けた。