1:30 PM - 3:30 PM
[PE62] 大学生のメンタルヘルスに関する理解と知識
Keywords:メンタルヘルス, 心理教育, 大学生
問 題
今日,産業界や教育現場において,メンタルヘルス対応への社会的な需要が高まっている。しかしながら,精神的な不調を抱えた人が,医療機関や専門機関を利用する率は高くなく,また,当人および周囲の精神障害等への理解は十分であるとは言いがたい。社会からの需要と実態との不一致を埋めるために,企業や自治体などにおいて介入が実施されているが,社会に出る前段階である高等教育機関においては心理教育の機会は少ない。しかし,学習や研究を主体的に進め,時には学業以外の取り組みにも関わる大学生・大学院生にとっては,自他のメンタルヘルスに関する知識は必要不可欠であると言える。この課題に対して,各大学においては保健センターなどが中心となり,心理教育研修が実施されている場合もあるが,研修を受講する前の彼らが有するメンタルヘルスに関する知識状態を明らかにした研究は少ない。そこで,本研究では,大学生と大学院生を対象に,彼らの知識と理解を調査することを目的とした。
方 法
対象 5年制大学院M1からD2までの大学院生27名(2016年度),19名(2017年度)。大学1年生132名(文理混合),看護学科3年生75名。
手続き 平成28年3月から平成29年3月までに実施された「メンタルヘルスに関する研修(講義)」にてアンケートを集団実施した。講義を受ける前に,後述する10項目について,「現時点で,どのように思っているか」を「そう思う」(4)〜「そう思わない」(1)の4件法で回答を求めた。
項目内容 平井ら(2014)が調査結果として示した,初診者のメンタルヘルスに関する誤った理解を参考に,⒑項目を作成した。回答は4件法で,2つの逆転項目を除いて「そう思わない(1)」と回答することが正解である。
結果と考察
分析対象 度数分布表を作成したところ,大学院生は年度・所属に,学部生は所属学部にかかわらず,同様の分布傾向が見られたため,以降の分析では大学院生の年度込み(院生グループ,46名),学部生は所属学部を込み(学部生グループ,27名)で扱うこととした。
グループの特徴 院生グループは,⒑項目中9項目について,「1」または「2」(逆転項目は「3」「4」)を選択する者が6割を超え,メンタルヘルスについて正しい理解があることが示された。これに対して学部生グループは,明らかな不正解(「4」,逆転項目は「1」)を選択する者は少ないが,8項目について理解が不十分である傾向が見られた。
項目検討 項目ごとに検討したところ,両グループに共通して理解が不十分であったのが「メンタルヘルスの治療とケアの目的は,不安な気持ちやイライラなどの症状を取り去ることだ」,「精神的不調を持っている本人が専門機関に行きたがらない場合,友人だけで行ってもいい」の2項目である。とくに前者には院生グループで5割,学部生グループで6割以上が「その通りだ」と回答している。このような認識は社会人一般にとっても広く持たれているものであり,専門機関が提供する治療とのギャップが,ネガティブなイメージを生み出している可能性がある。また,グループ間の理解で差が見られた項目は,「精神的不調は,体の負傷と同じように,多くの場合は原因がはっきりしている」(図1),「精神的な不調の原因が解決すれば(ストレスの原因がなくなれば),回復にそれほど時間はかからないだろう」であった。院生グループは,身近な他者や自身に精神的不調を経験したことがあり,その要因や解消の複雑さを理解しているようである。
今後,このような年代による差や共通事項を精査し,心理教育プログラムの内容を検討していく必要があるといえる。
(本研究は,文部科学省科学研究費基盤研究(C) 「メンタルヘルスケア受療行動の最適化のための受診勧奨・心理教育プログラムの開発」の支援をうけて実施した)
今日,産業界や教育現場において,メンタルヘルス対応への社会的な需要が高まっている。しかしながら,精神的な不調を抱えた人が,医療機関や専門機関を利用する率は高くなく,また,当人および周囲の精神障害等への理解は十分であるとは言いがたい。社会からの需要と実態との不一致を埋めるために,企業や自治体などにおいて介入が実施されているが,社会に出る前段階である高等教育機関においては心理教育の機会は少ない。しかし,学習や研究を主体的に進め,時には学業以外の取り組みにも関わる大学生・大学院生にとっては,自他のメンタルヘルスに関する知識は必要不可欠であると言える。この課題に対して,各大学においては保健センターなどが中心となり,心理教育研修が実施されている場合もあるが,研修を受講する前の彼らが有するメンタルヘルスに関する知識状態を明らかにした研究は少ない。そこで,本研究では,大学生と大学院生を対象に,彼らの知識と理解を調査することを目的とした。
方 法
対象 5年制大学院M1からD2までの大学院生27名(2016年度),19名(2017年度)。大学1年生132名(文理混合),看護学科3年生75名。
手続き 平成28年3月から平成29年3月までに実施された「メンタルヘルスに関する研修(講義)」にてアンケートを集団実施した。講義を受ける前に,後述する10項目について,「現時点で,どのように思っているか」を「そう思う」(4)〜「そう思わない」(1)の4件法で回答を求めた。
項目内容 平井ら(2014)が調査結果として示した,初診者のメンタルヘルスに関する誤った理解を参考に,⒑項目を作成した。回答は4件法で,2つの逆転項目を除いて「そう思わない(1)」と回答することが正解である。
結果と考察
分析対象 度数分布表を作成したところ,大学院生は年度・所属に,学部生は所属学部にかかわらず,同様の分布傾向が見られたため,以降の分析では大学院生の年度込み(院生グループ,46名),学部生は所属学部を込み(学部生グループ,27名)で扱うこととした。
グループの特徴 院生グループは,⒑項目中9項目について,「1」または「2」(逆転項目は「3」「4」)を選択する者が6割を超え,メンタルヘルスについて正しい理解があることが示された。これに対して学部生グループは,明らかな不正解(「4」,逆転項目は「1」)を選択する者は少ないが,8項目について理解が不十分である傾向が見られた。
項目検討 項目ごとに検討したところ,両グループに共通して理解が不十分であったのが「メンタルヘルスの治療とケアの目的は,不安な気持ちやイライラなどの症状を取り去ることだ」,「精神的不調を持っている本人が専門機関に行きたがらない場合,友人だけで行ってもいい」の2項目である。とくに前者には院生グループで5割,学部生グループで6割以上が「その通りだ」と回答している。このような認識は社会人一般にとっても広く持たれているものであり,専門機関が提供する治療とのギャップが,ネガティブなイメージを生み出している可能性がある。また,グループ間の理解で差が見られた項目は,「精神的不調は,体の負傷と同じように,多くの場合は原因がはっきりしている」(図1),「精神的な不調の原因が解決すれば(ストレスの原因がなくなれば),回復にそれほど時間はかからないだろう」であった。院生グループは,身近な他者や自身に精神的不調を経験したことがあり,その要因や解消の複雑さを理解しているようである。
今後,このような年代による差や共通事項を精査し,心理教育プログラムの内容を検討していく必要があるといえる。
(本研究は,文部科学省科学研究費基盤研究(C) 「メンタルヘルスケア受療行動の最適化のための受診勧奨・心理教育プログラムの開発」の支援をうけて実施した)