The 59th Annual Meeting of the Japanese Association of Educational Psychology

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ポスター発表 PE(01-80)

ポスター発表 PE(01-80)

Sun. Oct 8, 2017 1:30 PM - 3:30 PM 白鳥ホールB (4号館1階)

1:30 PM - 3:30 PM

[PE64] 医療的な配慮を必要とする子どもを担当する保育者の負担感

ストーマを使用している子どもを担当する保育者の場合

西村実穂1, 徳田克己2 (1.東京未来大学, 2.筑波大学)

Keywords:ストーマ, 保育, 医療的配慮

はじめに
近年,医療的な配慮を要する子ども (以下,医療的配慮児と略)が地域の保育所や幼稚園に入園するようになっている。しかし,そのような子どもが地域の保育所に受け入れられるようになってからまだ日が浅く,保育の方法が確立されているとはいえない。医療的配慮児を受け入れる保育者は,受け入れの際にさまざまな不安を持つ。本稿ではストーマを使用している子どもの保育事例を通じて,医療的配慮児を保育の場に受け入れる際に保育者がいかなる不安を持つのかを明らかにすることを目的とする。
方法:ストーマを使用している子どもを担任した経験のある保育者1名に対して,ヒアリング調査を実施した。対象となった保育者は,保育歴5年,私立幼稚園に勤務する女性保育者である。
調査時期は2017年1月であった。
結果と考察
【子どもの様子】入園時5歳であり,年長クラスに在籍していた。入園までは集団生活をしたことがなく,就学前に集団生活を経験させたいとの保護者の思いがあり,入園することとなった。消化器疾患により左腹部にストーマがあった。ストーマとは,自力で排泄をすることが難しい場合に手術によって腸を腹部の外に出し,便を排出できるようにする処置である。パウチという袋に便を溜めたり,パウチを交換することによって便を捨てる。在園時間中にパウチ交換を行う場合がある。
【保護者からの要望】他児と同様の活動をさせてほしいとの希望があった。また,ストーマに関しては便が出たときにパウチを交換する,腹部を圧迫する活動はさせない,汗をかくとストーマ周辺の皮膚があれるため汗をかかせないようにしてほしいとの要望があった。これに対して,他児と同様の活動をさせてほしいという保護者の思いは理解できるものの,どこまで他児と同じことができるのかがわからなかったとの保育者の発言があった。保育を行う際には,毎日保護者に電話をして,活動の予定を伝え,活動に参加させて良いかを確認していた。確認をすることで参加できない活動があることに気づくことがあったとの発言があり,保護者への入念な確認が不可欠であったことがわかる。また,保育者は「汗をかかせないでほしい」という現実的に難しい要望にどう対応すればよいのかと困惑していた。
【ストーマに関する不安】パウチ交換の方法を保護者から教えてもらい,便が出たときに保育者がパウチを変えていた(1日1~3回程度)。保育者から,「交換の方法は覚えたものの,ストーマがはずれたり漏れたりしないか心配」,「医療のような行為をしてよいのかと不安だった」との発言があった。ストーマの状態がいつもと違うと感じたときには,電話で保護者に問題がないかを確認していた。また,電話で説明しきれない時にはストーマの状態を写真に撮り,保護者に見せて確認を行っていた。
 ストーマの交換は医療行為にはあたらないため,医療従事者でなくとも実施可能である。また,写真を活用してストーマの状態を確認していた点は適切な対処であったといえる。しかし,ストーマのパウチ交換は,ただ交換すればよいというものではなく,ストーマの状態を観察して異常を発見する機会のひとつである。保育者がストーマの管理を担うのは難しく,園でパウチ交換をすることは保育者の過剰な負担になっていたと推察される。
【活動に関する不安】入園当初は,身体を動かす遊び(鬼ごっこやじゃんけん列車,しっぽとりなど)をクラス全体で行うことを控えていた。年度の後半になると,危ないところは見学させるなど部分的に参加できるように配慮することで,身体を動かす遊びを控えることはなくなった。「腹部を圧迫してはならない」という点に保育者が過敏になり,そのことがクラスの活動に影響していた様子がうかがえた。
【相談体制の不備による不安】担任保育者は保護者や同僚の保育者に医療的な配慮について相談しながら保育を進めていたが,特に医療的なことについては相談しても解決できないことが多かったと述べていた。ここから医療的なケアについて不安を抱きながら保育をしていた様子がうかがえた。医療的配慮児の場合,子どもに合わせた高度な治療や処置を行っていることが多い。同じ病気であっても処置の内容は多様であるため,子どもの状態を把握している主治医や看護師などに保育者が相談できる体制を整えることが重要である。