The 59th Annual Meeting of the Japanese Association of Educational Psychology

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ポスター発表 PE(01-80)

ポスター発表 PE(01-80)

Sun. Oct 8, 2017 1:30 PM - 3:30 PM 白鳥ホールB (4号館1階)

1:30 PM - 3:30 PM

[PE68] 中学校における各学年のターニングポイントを意識した多面的・組織的適応支援の実践

原田克己1, 木下知子#2 (1.金沢大学, 2.石川県金沢市立金石中学校)

Keywords:中1ギャップ, 学校適応, 人間関係づくり

問題と目的
 中学校は生徒にとって,児童期から青年期への移行の時期に当たる。小学校が児童期に対応するように母性的環境であれば,中学校はこの移行期に際して父性的環境とも言える場となり,学級担任制から教科担任制になるなど,生徒にとっては大きく環境が変わる中での適応を強いられる3年間であるとも言える。こうした環境移行に関わって生徒が示す心理的・行動的問題の表出のされやすさを「中1ギャップ」と捉えて,適応支援は様々に工夫されてきている(佐野,2006; 石川,2009など)。しかしながら,中学校生活の3年間の中にある質的変化のターニングポイントを捉えての適応支援を行う実践を検討したものはあまりない。
 そこで,本研究では,部活動で中心的役割を担うようになる2年生の時期を「中2シフト」,部活動を引退して受験への態勢を整える3年生の時期を「中3スパート」と名付け,「中1ギャップ」も含めて3つの時期において「メンタル・ケア」と「学習・規範意識の確立」を2本の柱とした,多面的・組織的適応支援の効果を検討することを目的とする。
方   法
 実践及び調査期間:X年3月からX+3年3月。
 実践及び調査対象者:公立A中学校のX年4月入学者126名(男子59名,女子67名)。
 適応支援実践:メンタル・ケアと学習・規範意識の確立を主眼に置き,それぞれ生徒全員への支援,個別の生徒・保護者への支援,リーダー会を通じての支援を3年間通して行った。また,生徒理解の深化と共有を図るため,学年教師全員によって全対象生徒についての学習面・行動面・関係面等をチェックするアセスメント・シートの作成と結果の検討を毎年度行い,随時開催される学年会で生徒についての情報共有を積極的に行った。
 質問紙調査:生徒の適応状況を把握するために,佐藤・菅原(2007)による学校環境適応感尺度(一部改変)による調査を小6時3月と,中1から中3までの各学年7月・12月・3月の計10回実施し,QU調査を中1から中3までの各学年5月・10月の計6回実施した。
結果と考察
 中1ギャップを見据えては,入学後すぐの合宿で人間関係づくりと学習習慣の下地づくりを図り,いじめ予防の取組として,1年生全員に「いじめをしない」という宣言文を書かせ,それらを1枚のパネルに貼って校内に3年間掲示した。また,1年職員室を1年の教室横に設置し,生徒との関わりが密になるようにした。
 中2シフトを見据えては,部活動で主導的役割を担うことによって生じる部内の対人ストレスについて顧問が丁寧に聴き取り,肯定的応答を心がけた。また,2年2学期にはQUの結果を受けての個別面談を教育相談担当者が全員に対して行った。
 中3スパートを見据えては,希望者と学習に困難のある生徒に対して,1年3学期から2年2学期の間,補充学習を実施した。また,受験に向けてしっかりと気持ちが切り替えられるように,3年秋の文化祭・運動会では頑張っている姿を下級生によく見てもらえるようにし,十分な完遂感を得られるようにした。
 3年間9回に渡る学校環境適応感得点の推移を,性別との二要因分散分析で検討したところ,時期の主効果のみ見られた。多重比較を行ったところ,1年2学期にいったん有意に下がるが,2年1学期に1年1学期当初の得点まで回復し,その後上昇を続けていた。次に,QUの6下位尺度それぞれの3年間6回に渡る得点推移を,性別との二要因分散分析で検討したところ,すべての尺度で時期の主効果のみが見られた。多重比較を行ったところ,「教師との関係」は時期を経るごとに良好になり,「友人との関係」は1年2学期に有意に良好となりそれを維持し,「学級との関係」は2年2学期から良好になった。「学習意欲」と「進路意識」は3年生になって有意に高まった。「承認」は2年1学期まで変化がなかったが,2年2学期に有意に良好になりその後も上昇を続けた。「被侵害」は3年1学期に好転し,2年1学期までの状況から有意によくなった。
 これらのことから,生徒たちにとってターニングポイントとなる時期を捉え,それに応じた多面的な手立てによって,3年間を通じた継続的な支援を行うことが,適応状況を維持向上させていったと考えられた。特に「教師との関係」が時期を経るごとによくなっていったことから,こうした支援は生徒・教師関係をよくし,そのことが次の支援の効果をより強いものにしたのではないかと考えられた。