4:00 PM - 6:00 PM
[PF22] 歩きスマホ防止のための啓発授業の実践とその効果
中学生を対象に
Keywords:歩きスマホ, 啓発, 中学生
本稿の目的
歩きスマホの害についての理解を促すために中学生を対象に行った授業の実践を紹介するとともに,実践の効果について検証した結果を報告する。
方 法
中学校第2学年1クラスに在籍する30名を対象とし,討論型の授業実践(45分)を行った。また,授業の直前,直後,1か月後に歩きスマホに関する認識を問う無記名自記式の質問紙調査を行った。全質問紙に回答した28名の結果を分析した。
授業の概要
授業のねらいは,「歩きスマホの害について理解を深める」ことであった。授業ではまず,歩きスマホ者の味方2名,交通弱者の味方2名,ジャッジマン2名で構成されるグループによるディスカッションを行った。歩きスマホ者の味方はスマホで仕事のメール見ながら移動する営業マンの意見や友だちとラインをするのが好きな学生の意見を,交通弱者の味方は目の見えない人や足の悪い高齢者の意見を事前に読んだ上で,歩きスマホを「許してほしい」「しないでほしい」という主張を,理由をつけながら説明しあった。ジャッジマンは,それぞれの主張に納得できるかどうかを評価した。
次に同じグループ内で,歩きスマホの危険に関するデータや事故事例を見た後に,歩きスマホを禁止すべきかすべきでないかについて,3:3のディベートを行った。最後に,歩きスマホをめぐる問題を改善するための対策についてグループごとに話し合い,まとめた案を発表しあった。
受講者の認識の変化
歩きスマホに関する8項目の意見のそれぞれについて,どの程度賛成するかを5件法で尋ね,平均値を算出した。平均値が大きいほど,意見に賛成であることを表す。授業前から「スマホ等の操作は他人の邪魔にならないところですべき」(4.54),「歩きスマホは多くの人の迷惑になっている」(4.32)には賛成し,「周りの人が歩きスマホ者を避ければよい」(1.57),「周りの人に配慮すれば,歩きスマホをしてよい」(2.18)には賛成しない傾向にあった。
授業前,授業直後,1か月後の結果に差があるかを調べたところ,「周りの人が,歩きスマホ者を避ければよい」(平均値は授業前1.57,直後1.93,1か月後2.11:F(2, 54)=4.59, p<0.05),「どうしても必要な場合には,歩きスマホは仕方ない」(平均値は授業前3.00,直後2.93,1か月後3.46:F(2, 54)=5.50, p<0.01)に有意差が認められ,いずれも授業の1か月後に賛成する傾向が授業前より強まった。また,「スマホなどには,歩きスマホをできなくする機能をつけた方がよい」に有意差が認められ(F(2, 54)=12.64, p<0.01),授業直後にのみ賛成する傾向が強まった(平均値は授業前3.04,直後2.04,1か月後2.96)。
生徒たちは授業の前も後も,歩きスマホは迷惑な行為であり,歩きスマホをしてよいとは思っていなかった。また,授業直後には,歩きスマホができないような機能をスマホにつけた方がよいという考えが強まった。これには,授業中の話し合いにおいて「条例等で規制すべき」「啓発すべき」「歩きスマホできない機能をスマホにつける」「歩きスマホ専用路を作る」などの意見が出たことが影響したと考えられる。
一方で,授業の1か月後には歩きスマホに対して許容的な考えに移行する傾向が認められた。本実践では,交通弱者が歩きスマホ者の存在に困っている事例を示したが,同時に歩きスマホ者の思いにふれる経験ももった。そのため,交通弱者への共感より,歩きスマホ者への共感が生徒たちの中に長く残った可能性がある。このことから,歩きスマホをバリアに感じている人の存在について,より生徒の心に残るような教育方法や内容の検討が必要である。今後はこの点について検討したい。
歩きスマホの害についての理解を促すために中学生を対象に行った授業の実践を紹介するとともに,実践の効果について検証した結果を報告する。
方 法
中学校第2学年1クラスに在籍する30名を対象とし,討論型の授業実践(45分)を行った。また,授業の直前,直後,1か月後に歩きスマホに関する認識を問う無記名自記式の質問紙調査を行った。全質問紙に回答した28名の結果を分析した。
授業の概要
授業のねらいは,「歩きスマホの害について理解を深める」ことであった。授業ではまず,歩きスマホ者の味方2名,交通弱者の味方2名,ジャッジマン2名で構成されるグループによるディスカッションを行った。歩きスマホ者の味方はスマホで仕事のメール見ながら移動する営業マンの意見や友だちとラインをするのが好きな学生の意見を,交通弱者の味方は目の見えない人や足の悪い高齢者の意見を事前に読んだ上で,歩きスマホを「許してほしい」「しないでほしい」という主張を,理由をつけながら説明しあった。ジャッジマンは,それぞれの主張に納得できるかどうかを評価した。
次に同じグループ内で,歩きスマホの危険に関するデータや事故事例を見た後に,歩きスマホを禁止すべきかすべきでないかについて,3:3のディベートを行った。最後に,歩きスマホをめぐる問題を改善するための対策についてグループごとに話し合い,まとめた案を発表しあった。
受講者の認識の変化
歩きスマホに関する8項目の意見のそれぞれについて,どの程度賛成するかを5件法で尋ね,平均値を算出した。平均値が大きいほど,意見に賛成であることを表す。授業前から「スマホ等の操作は他人の邪魔にならないところですべき」(4.54),「歩きスマホは多くの人の迷惑になっている」(4.32)には賛成し,「周りの人が歩きスマホ者を避ければよい」(1.57),「周りの人に配慮すれば,歩きスマホをしてよい」(2.18)には賛成しない傾向にあった。
授業前,授業直後,1か月後の結果に差があるかを調べたところ,「周りの人が,歩きスマホ者を避ければよい」(平均値は授業前1.57,直後1.93,1か月後2.11:F(2, 54)=4.59, p<0.05),「どうしても必要な場合には,歩きスマホは仕方ない」(平均値は授業前3.00,直後2.93,1か月後3.46:F(2, 54)=5.50, p<0.01)に有意差が認められ,いずれも授業の1か月後に賛成する傾向が授業前より強まった。また,「スマホなどには,歩きスマホをできなくする機能をつけた方がよい」に有意差が認められ(F(2, 54)=12.64, p<0.01),授業直後にのみ賛成する傾向が強まった(平均値は授業前3.04,直後2.04,1か月後2.96)。
生徒たちは授業の前も後も,歩きスマホは迷惑な行為であり,歩きスマホをしてよいとは思っていなかった。また,授業直後には,歩きスマホができないような機能をスマホにつけた方がよいという考えが強まった。これには,授業中の話し合いにおいて「条例等で規制すべき」「啓発すべき」「歩きスマホできない機能をスマホにつける」「歩きスマホ専用路を作る」などの意見が出たことが影響したと考えられる。
一方で,授業の1か月後には歩きスマホに対して許容的な考えに移行する傾向が認められた。本実践では,交通弱者が歩きスマホ者の存在に困っている事例を示したが,同時に歩きスマホ者の思いにふれる経験ももった。そのため,交通弱者への共感より,歩きスマホ者への共感が生徒たちの中に長く残った可能性がある。このことから,歩きスマホをバリアに感じている人の存在について,より生徒の心に残るような教育方法や内容の検討が必要である。今後はこの点について検討したい。