The 59th Annual Meeting of the Japanese Association of Educational Psychology

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ポスター発表 PF(01-81)

ポスター発表 PF(01-81)

Sun. Oct 8, 2017 4:00 PM - 6:00 PM 白鳥ホールB (4号館1階)

4:00 PM - 6:00 PM

[PF51] 武力紛争解決・予防を目指した教育プログラムが受講者の道徳不活性へ及ぼす影響

池田満1, 福田彩#2, 宮城徹#3 (1.南山大学, 2.東京外国語大学, 3.東京外国語大学)

Keywords:道徳不活性, 平和教育, プログラム評価

問   題
 道徳逸脱行為が発生する要因としてBandura(1999)は,道徳不活性という概念を導入している。道徳不活性とは,特定の条件下で自己規制が不活性となる現象を指し,その結果,道徳逸脱行為が遂行されることを意味する。武力紛争は,他者の生命・財産に脅威を与えることを前提に自己の目的遂行を目指す行為であり,典型的な道徳逸脱行為と解釈されうる。
 道徳不活性の先行要因としてBandura(1999)は,道徳的正当化,都合のよい社会的比較,婉曲表現の使用,責任の転嫁や拡散,結果の矮小化・無視・曲解,犠牲の原因帰属,非人間化などを挙げている。一方でMcAlister, Bandura, & Owen(2006)は,道徳不活性の代表的な抑制要因として,教育歴を挙げている。その理由として教育を受けた人は,先行要因となる様々な外部からの情報に対してクリティカルに分析する能力を有していること,多様な人間関係を持つ中で,一面的ではなく多様な情報に触れ,多角的視点から情報を検討することが可能となると述べている。
 そこで本研究では,アジアの紛争経験国5か国(カンボジア,インド,パキスタン,インドネシア,スリランカ)を結んだ紛争解決・予防に関する教育プログラムの実施によって,受講生の武力紛争に対する道徳不活性の変化について検討をする。本研究の対象教育プログラムは,武力紛争の解決,予防に対する実践的知識やスキルの獲得を目指し,講義とともに異なる紛争体験を有する多国の学生による共同研究なども含んでおり,道徳不活性の低減に有効であると予想される。

方   法
 週1回3時間,5週間にわたる教育プログラムを受講した5か国合計74名の受講者を対象に調査を行った。調査項目として,McAlister, Bandura & Owan(2006)が作成した武力紛争・戦争を対象とした道徳不活性尺度を用いた。事前事後調査の両方に回答をした22名と分析の対象とした。

結   果
 道徳不活性尺度15項目それぞれの事前,事後得点の差に対して対応のあるt検定を行った(Table 1)。15項目中,3項目が1-5%水準で事後得点が有意に低下,1項目が10%水準で低下傾向が見られた。一方,2項目で有意な上昇,もしくは上昇傾向が見られた。

考   察
 まず,道徳不活性に対して教育プログラムが望ましい影響を及ぼしたと思われる項目が3項目にとどまり,プログラムの効果は限定的であったと言える。また,戦闘員と非戦闘員の区別が困難なテロとの戦いが主流となった現在では,道徳判断における社会的規準が,尺度が作られた2001年当時と異なっていること,教育プログラムの中で国際法の遵守が強調されていることなどが,非戦闘員に対する被害やテロ活動に関する項目の得点に影響を及ぼした可能性が考えられる。

引用文献
Bandura, A. (1999). Moral disengagement in the perpetration of inhumanities. Personality and Social Psychology Review, 3, 193-209.
McAlister, A. L., Bandura, A., & Owen, S. V. (2006). Mechanisms of moral disengagement in support of military force: The impact of Sept. 11. Journal of Social and Clinical Psychology, 25, 141-165.