4:00 PM - 6:00 PM
[PF56] Sense of Coherenceは閉ざされた関心によるものなのか
Sense of Coherenceと認知欲求・認知的完結欲求・知的好奇心との関係
Keywords:Sense of Coherence, 認知欲求, 知的好奇心
問題と目的
首尾一貫感覚(Sense of Coherence:SOC)は, 「ストレス対処能力」とされ,身体的・精神的健康を予測する概念である(山崎,2008)。SOCは,「その人に浸みわたった,ダイナミックではあるが持続する確信の感覚によって表現される世界(生活世界)規模の志向性」と定義され,「把握可能感」・「処理可能感」・「有意味感」の3つからなり,「把握可能感」は「自分の内外で生じる環境刺激は,秩序づけられた,予測と説明が可能なものであるという確信」,「処理可能感」は「その刺激がもたらす要求に対応するための資源はいつでも得られるという確信」,「有意味感」は「そうした要求は挑戦であり,心身を投入しかかわるに値するという確信」と定義される(Antonovsky,1987 山崎・吉井監訳,2001)。
SOCは,「自分の生活する世界は秩序づけられ予測と説明が可能である」という確信(「把握可能感」)が重要な要素を占めるが,これはSOCを有する者の関心が狭く閉ざされており,「把握可能」な世界に固執することから成立しているのか,それとも,SOCを有する者の関心は広く開かれており,「把握可能感」は生じる事柄を体制化する認知的活動に根ざすものなのかは明らかになっていない。この点を検討するため,本研究では,認知欲求,認知的完結欲求,知的好奇心とSOCとの関係について検討する。
方 法
調査時期 2017年 4月中旬〜下旬
被調査者 西日本の4年制大学生 198名
分析対象者 調査に同意し,不適切な回答や欠損値のなかった171名(男性:57名,女性:114名,平均19.45(SD=1.10)歳)
調査内容(本稿で報告しないものは省略)
1. 人生の志向性に関する質問票(Antonovsky,1987 山崎・吉井監訳,2001)のうち,短縮版として使用を推奨されている13項目
2. 認知欲求尺度(神山・藤原,1991)
3. 認知的完結欲求尺度(鈴木・桜井,2003)
4. 知的好奇心尺度(西川・雨宮,2015)
倫理審査 大阪大学大学院人間科学研究科教育学系の研究倫理審査を経て,倫理的に配慮し研究を行った。
結 果
各尺度のα係数を算出したところ,概ねα=.70以上であり,信頼性が確認された。しかし,SOCの下位因子のうち,「有意味感」(α=.65),「処理可能感」(α=.56)は信頼性が低かった。
各変数とSOCとの関係を検討するため,相関分析を行った(Table 1)。その結果,SOC全体とは「特殊的好奇心」 を除き相関が見出され,そのうち負の相関を示したのは「予測可能性に対する選好」のみであった。
SOC下位因子では「有意味感」において全ての変数と相関が示され,特に知的好奇心は「有意味感」との関係が深かった。「把握可能感」は「決断性」との相関が高かった。「処理可能感」は,「決断性」以外と相関を示さなかった。
考 察
SOC全体,特に「有意味感」は,認知欲求,知的好奇心と正の相関を示し,認知的完結欲求の「予測可能性に対するの選好」とは負の相関を示したことから,SOCは閉ざされた関心によるものではなく,開かれた関心と関係している可能性が示唆された。新奇性を伴う事柄を求める際や,関心を深める際に,SOCが高い者は認知欲求に基づいた認知活動を多く行うことが予想される。それによって,事柄に有意味感を見出したり,認知が深まることにより把握可能感が高まるのではないか。
また,「決断性」はSOCの下位因子全てと相関が示されたが,その中核は「把握可能感」にあると考えられる。「把握可能感」が高い者は,決断対象に対する認知が体制化されており,決断の要点・結果が把握可能であると感じるため,「決断性」が高まるのではないかと考えられた。
首尾一貫感覚(Sense of Coherence:SOC)は, 「ストレス対処能力」とされ,身体的・精神的健康を予測する概念である(山崎,2008)。SOCは,「その人に浸みわたった,ダイナミックではあるが持続する確信の感覚によって表現される世界(生活世界)規模の志向性」と定義され,「把握可能感」・「処理可能感」・「有意味感」の3つからなり,「把握可能感」は「自分の内外で生じる環境刺激は,秩序づけられた,予測と説明が可能なものであるという確信」,「処理可能感」は「その刺激がもたらす要求に対応するための資源はいつでも得られるという確信」,「有意味感」は「そうした要求は挑戦であり,心身を投入しかかわるに値するという確信」と定義される(Antonovsky,1987 山崎・吉井監訳,2001)。
SOCは,「自分の生活する世界は秩序づけられ予測と説明が可能である」という確信(「把握可能感」)が重要な要素を占めるが,これはSOCを有する者の関心が狭く閉ざされており,「把握可能」な世界に固執することから成立しているのか,それとも,SOCを有する者の関心は広く開かれており,「把握可能感」は生じる事柄を体制化する認知的活動に根ざすものなのかは明らかになっていない。この点を検討するため,本研究では,認知欲求,認知的完結欲求,知的好奇心とSOCとの関係について検討する。
方 法
調査時期 2017年 4月中旬〜下旬
被調査者 西日本の4年制大学生 198名
分析対象者 調査に同意し,不適切な回答や欠損値のなかった171名(男性:57名,女性:114名,平均19.45(SD=1.10)歳)
調査内容(本稿で報告しないものは省略)
1. 人生の志向性に関する質問票(Antonovsky,1987 山崎・吉井監訳,2001)のうち,短縮版として使用を推奨されている13項目
2. 認知欲求尺度(神山・藤原,1991)
3. 認知的完結欲求尺度(鈴木・桜井,2003)
4. 知的好奇心尺度(西川・雨宮,2015)
倫理審査 大阪大学大学院人間科学研究科教育学系の研究倫理審査を経て,倫理的に配慮し研究を行った。
結 果
各尺度のα係数を算出したところ,概ねα=.70以上であり,信頼性が確認された。しかし,SOCの下位因子のうち,「有意味感」(α=.65),「処理可能感」(α=.56)は信頼性が低かった。
各変数とSOCとの関係を検討するため,相関分析を行った(Table 1)。その結果,SOC全体とは「特殊的好奇心」 を除き相関が見出され,そのうち負の相関を示したのは「予測可能性に対する選好」のみであった。
SOC下位因子では「有意味感」において全ての変数と相関が示され,特に知的好奇心は「有意味感」との関係が深かった。「把握可能感」は「決断性」との相関が高かった。「処理可能感」は,「決断性」以外と相関を示さなかった。
考 察
SOC全体,特に「有意味感」は,認知欲求,知的好奇心と正の相関を示し,認知的完結欲求の「予測可能性に対するの選好」とは負の相関を示したことから,SOCは閉ざされた関心によるものではなく,開かれた関心と関係している可能性が示唆された。新奇性を伴う事柄を求める際や,関心を深める際に,SOCが高い者は認知欲求に基づいた認知活動を多く行うことが予想される。それによって,事柄に有意味感を見出したり,認知が深まることにより把握可能感が高まるのではないか。
また,「決断性」はSOCの下位因子全てと相関が示されたが,その中核は「把握可能感」にあると考えられる。「把握可能感」が高い者は,決断対象に対する認知が体制化されており,決断の要点・結果が把握可能であると感じるため,「決断性」が高まるのではないかと考えられた。