4:00 PM - 6:00 PM
[PF69] 中国の中学生の感謝感情の検討
中国版感謝尺度の作成と検討を通して
Keywords:感謝感情, 感謝尺度, 中国の中学生
問題と目的
近年,ポジティブ感情の一つである感謝を測定する尺度が開発されてきた(McCullough et al., 2002;藤原ほか,2014など)。申ほか(2011)は大学生を対象に感謝尺度を作成し,Li et al.(2012)は欧米の先行研究の尺度を翻訳し,中国版特性感謝尺度を開発している。先行研究によれば,中国では,儒教文化の影響により,子どもたちは重要な他者に「努力」を通して「よりよい成績を取る」ことで感謝を表すこと(代ほか,2010),また,感謝は学業成績に正の影響を与えることも示されている(叶ほか,2013)。中国と欧米,日本の異文化を考慮すると,中国の独自の感謝尺度を開発する必要がある。
以上より本研究では,中国の中学校における感謝を測定する尺度を開発することを目的とする。なお,本研究では,感謝は重要な他者の恩義に謝意が生起し,恩義に対する返報を動機づける感情と定義する。また,感謝は特性感謝と状態感謝の両方の特徴を持つ概念と捉えられ,池田(2006)や相川ほか(2013)の感謝の下位概念負債感に関する研究を参考に,重要な他者に対する「感謝感情」,「感謝に基づく動機づけ」,「負債感」という三つの側面から構成されると仮定する。
方 法
調査対象者 中国の東北地方と長江三角洲地方の4つの中学校に通う中学生952名(男子463名,女子464名,不明25名)を対象とした。
調査時期 2016年11月
調査方法 各学級担任が教室で調査対象者に質問紙を配り, 一斉に実施,回収をした。
調査内容 ①感謝尺度 Adler ほか(2005)と2016年7月に中国東北地方の公立中学校1年・2年生100名対象の予備調査から,中国版感謝尺度37項目(5件法)を作成した。②特性感謝尺度(McCulloughほか, 2002)6項目(5件法);③ポジティブ感情・ネガティブ感情尺度(Yamasakiほか, 2006)24項目(5件法)。
結 果
項目分析および因子分析 平均値4.0以上の項目は32項目あり,全体的に感謝得点は高かった。平均値,天井効果・フロア効果及びr=.70以上の相関により項目分析を行い,6項目を削除し,31項目を因子分析(最尤法,プロマックス回転)にかけ,2因子が抽出された(Table 1)。第1因子は,「学業を通した返報動機」(6項目),第2因子は,「感謝感情」(6項目)と命名した。
信頼性の検討 Cronbachのα係数を算出し,第Ⅰ因子はα=.88,第Ⅱ因子はα=.83であり,十分な内的整合性が得られた。
妥当性の検討 併存的妥当性を検討するため,同尺度の下位尺度と特性感謝,ポジティブ感情・ネガティブ感情尺度との相関を求めた。その結果,「学業を通した返報動機」は特性感謝,ポジティブ感情と有意な正の相関(r=.468**,.468**),「感謝感情」は特性感謝,ポジティブ感情と有意な正の相関(r= .561**, .286**),ネガテイブ感情と有意な負の相関(r= -.250**, -.220**)が認められた。
考察と今後の課題
本研究の結果から,授業文化の影響からか,中国の中学生の感謝尺度の得点は全体に非常に高かった。このため,原尺度の項目から多くの項目が落ちた。また,中国の中学生では感謝に「負債感」が含まれず,中日間の差異が明らかになった。
ポジティブ心理学の知見では,感謝はメンタルヘルスにポジティブな効果があるとされ(Seligman, et al., 2005;相川ら,2013),今後は本尺度の再テストを行うと共に,中学生の学校適応感,メンタルヘルスに感謝がどのような役割を果たすか検討する必要がある。
近年,ポジティブ感情の一つである感謝を測定する尺度が開発されてきた(McCullough et al., 2002;藤原ほか,2014など)。申ほか(2011)は大学生を対象に感謝尺度を作成し,Li et al.(2012)は欧米の先行研究の尺度を翻訳し,中国版特性感謝尺度を開発している。先行研究によれば,中国では,儒教文化の影響により,子どもたちは重要な他者に「努力」を通して「よりよい成績を取る」ことで感謝を表すこと(代ほか,2010),また,感謝は学業成績に正の影響を与えることも示されている(叶ほか,2013)。中国と欧米,日本の異文化を考慮すると,中国の独自の感謝尺度を開発する必要がある。
以上より本研究では,中国の中学校における感謝を測定する尺度を開発することを目的とする。なお,本研究では,感謝は重要な他者の恩義に謝意が生起し,恩義に対する返報を動機づける感情と定義する。また,感謝は特性感謝と状態感謝の両方の特徴を持つ概念と捉えられ,池田(2006)や相川ほか(2013)の感謝の下位概念負債感に関する研究を参考に,重要な他者に対する「感謝感情」,「感謝に基づく動機づけ」,「負債感」という三つの側面から構成されると仮定する。
方 法
調査対象者 中国の東北地方と長江三角洲地方の4つの中学校に通う中学生952名(男子463名,女子464名,不明25名)を対象とした。
調査時期 2016年11月
調査方法 各学級担任が教室で調査対象者に質問紙を配り, 一斉に実施,回収をした。
調査内容 ①感謝尺度 Adler ほか(2005)と2016年7月に中国東北地方の公立中学校1年・2年生100名対象の予備調査から,中国版感謝尺度37項目(5件法)を作成した。②特性感謝尺度(McCulloughほか, 2002)6項目(5件法);③ポジティブ感情・ネガティブ感情尺度(Yamasakiほか, 2006)24項目(5件法)。
結 果
項目分析および因子分析 平均値4.0以上の項目は32項目あり,全体的に感謝得点は高かった。平均値,天井効果・フロア効果及びr=.70以上の相関により項目分析を行い,6項目を削除し,31項目を因子分析(最尤法,プロマックス回転)にかけ,2因子が抽出された(Table 1)。第1因子は,「学業を通した返報動機」(6項目),第2因子は,「感謝感情」(6項目)と命名した。
信頼性の検討 Cronbachのα係数を算出し,第Ⅰ因子はα=.88,第Ⅱ因子はα=.83であり,十分な内的整合性が得られた。
妥当性の検討 併存的妥当性を検討するため,同尺度の下位尺度と特性感謝,ポジティブ感情・ネガティブ感情尺度との相関を求めた。その結果,「学業を通した返報動機」は特性感謝,ポジティブ感情と有意な正の相関(r=.468**,.468**),「感謝感情」は特性感謝,ポジティブ感情と有意な正の相関(r= .561**, .286**),ネガテイブ感情と有意な負の相関(r= -.250**, -.220**)が認められた。
考察と今後の課題
本研究の結果から,授業文化の影響からか,中国の中学生の感謝尺度の得点は全体に非常に高かった。このため,原尺度の項目から多くの項目が落ちた。また,中国の中学生では感謝に「負債感」が含まれず,中日間の差異が明らかになった。
ポジティブ心理学の知見では,感謝はメンタルヘルスにポジティブな効果があるとされ(Seligman, et al., 2005;相川ら,2013),今後は本尺度の再テストを行うと共に,中学生の学校適応感,メンタルヘルスに感謝がどのような役割を果たすか検討する必要がある。