4:00 PM - 6:00 PM
[PF73] 部活動における生徒の指導者への信頼感及び指導者の統制感(コントロールスタイル)についての一考察
時期要因と目標タイプ要因からの検討
Keywords:部活動, 信頼感, 統制感(コントロールスタイル)
問題と目的
高校生にとって部活動は,社会性を陶冶し友人関係を構築し特技を伸ばす場として期待される一方で,学校生活における不適応の契機となる可能性もある。角谷・無藤(2009)は,二面性を併せ持った部活動を生徒にとって意義あるものにするために指導者の指導行動が至要な資源となることを示している。生徒が指導者に抱く信頼感と生徒が認知する指導者の統制感(コントロールスタイル)を時期要因と目標タイプ要因から検討し,生徒の指導者認知の実態を明らかにすることを目的とする。
方 法
調査対象及び調査時期:A県立B高等学校の2年生276名のうち,1回目の調査において回答が有効であった197名(男子101名,女子96名),2回目の調査において回答が有効であった185名(男子92名,女子93名)を分析対象とした。調査は2016年7月と11月に実施した。
調査手続き:①構成的文章完成法(SCT)を援用し,「わたしの目標は」に続けて自由記述を求めた。②中井・庄司(2008)の作成した「信頼感(STT)尺度」を用いた。尺度は「安心感」「不信」「役割遂行評価」の3つの下位尺度からなる。③Bartholomew et al.(2010)の作成した「コントロールスタイル尺度」を和訳して用いた。確認のため,因子分析(最尤法,Promax回転)を行い,共通性の高い1項目を削除した。残った14項目について因子分析(最尤法,Promax回転)を行い,その結果4因子が抽出された。4因子とも.75以上のα係数が算出され,一定程度の内的整合性が得られたと考える。本稿では,4因子のうち「管理的フィードバック」「過度の個人統制」の2因子を使用する。
結 果
時期要因(7月,11月)と目標タイプ要因(全国大会出場以上,それ以外)に基づく指導者認知の違いを検討するため,2要因の分散分析を行った(Table1)。主効果の検定を行ったところ,時期要因では「安心感」(F=7.54,p<.01)に有意な主効果が認められた。目標タイプ要因では「不信」(F=29.65,p<.001),「管理的フィードバック」(F=38.11,p<.001),「過度の個人統制」(F=72.70,p<.001)に有意な主効果が認められた。分析の結果,いずれの下位尺度においても交互作用は認められなかった。
考 察
3年生が引退する前は,彼らを仲介とした指導者との間接的な関わりがあったと考えられるが,3年生が引退し,最上級生としての役割が付与されてからは指導者との直接的な関わりが増えていく。その関わりの中でそれまでとは違った指導者像が現前し,7月に比べ11月期における指導者への「安心感」が低減したと考えられる。また,信頼感尺度のうち「不信」のみ目標タイプ要因に有意差が認められた。高い水準を目標として部活動に取り組んでいる生徒は,指導者へ「不信」を抱き,指導者の「管理的フィードバック」「過度の個人統制」を強く認知していた。しかし,目標タイプ要因間では,指導者への「役割遂行評価」「安心感」に有意差がみられなかった。この結果は,勝利を追及していくためには指導者の統制的行動も是認していく必要があるといった生徒の内在化された意識が潜んでいることを示唆するのではないかと考えられる。友添(2013)は,部活動における勝利追及行為は集団の封建制の基盤となり,体罰を助長させる要因となることを指摘している。指導者だけでなく生徒と指導者の相互で指導行動の在り方を再度問う必要があるのではないだろうか。
引用文献
Bartholomew,K.J., Ntoumanis,N.,&Thøgersen-Ntoumani, C.(2010):The Controlling Interpersonal Style in a Coaching Context: Development and Initial Validation of a Psychometric Scale. Journal of Sport and Exercise Psychology, 32: 193-216.
中井大介・庄司一子(2008)「中学生の教師に対する信頼感と学校適応感との関連」発達心理学研究第19巻 pp,57-68.
高校生にとって部活動は,社会性を陶冶し友人関係を構築し特技を伸ばす場として期待される一方で,学校生活における不適応の契機となる可能性もある。角谷・無藤(2009)は,二面性を併せ持った部活動を生徒にとって意義あるものにするために指導者の指導行動が至要な資源となることを示している。生徒が指導者に抱く信頼感と生徒が認知する指導者の統制感(コントロールスタイル)を時期要因と目標タイプ要因から検討し,生徒の指導者認知の実態を明らかにすることを目的とする。
方 法
調査対象及び調査時期:A県立B高等学校の2年生276名のうち,1回目の調査において回答が有効であった197名(男子101名,女子96名),2回目の調査において回答が有効であった185名(男子92名,女子93名)を分析対象とした。調査は2016年7月と11月に実施した。
調査手続き:①構成的文章完成法(SCT)を援用し,「わたしの目標は」に続けて自由記述を求めた。②中井・庄司(2008)の作成した「信頼感(STT)尺度」を用いた。尺度は「安心感」「不信」「役割遂行評価」の3つの下位尺度からなる。③Bartholomew et al.(2010)の作成した「コントロールスタイル尺度」を和訳して用いた。確認のため,因子分析(最尤法,Promax回転)を行い,共通性の高い1項目を削除した。残った14項目について因子分析(最尤法,Promax回転)を行い,その結果4因子が抽出された。4因子とも.75以上のα係数が算出され,一定程度の内的整合性が得られたと考える。本稿では,4因子のうち「管理的フィードバック」「過度の個人統制」の2因子を使用する。
結 果
時期要因(7月,11月)と目標タイプ要因(全国大会出場以上,それ以外)に基づく指導者認知の違いを検討するため,2要因の分散分析を行った(Table1)。主効果の検定を行ったところ,時期要因では「安心感」(F=7.54,p<.01)に有意な主効果が認められた。目標タイプ要因では「不信」(F=29.65,p<.001),「管理的フィードバック」(F=38.11,p<.001),「過度の個人統制」(F=72.70,p<.001)に有意な主効果が認められた。分析の結果,いずれの下位尺度においても交互作用は認められなかった。
考 察
3年生が引退する前は,彼らを仲介とした指導者との間接的な関わりがあったと考えられるが,3年生が引退し,最上級生としての役割が付与されてからは指導者との直接的な関わりが増えていく。その関わりの中でそれまでとは違った指導者像が現前し,7月に比べ11月期における指導者への「安心感」が低減したと考えられる。また,信頼感尺度のうち「不信」のみ目標タイプ要因に有意差が認められた。高い水準を目標として部活動に取り組んでいる生徒は,指導者へ「不信」を抱き,指導者の「管理的フィードバック」「過度の個人統制」を強く認知していた。しかし,目標タイプ要因間では,指導者への「役割遂行評価」「安心感」に有意差がみられなかった。この結果は,勝利を追及していくためには指導者の統制的行動も是認していく必要があるといった生徒の内在化された意識が潜んでいることを示唆するのではないかと考えられる。友添(2013)は,部活動における勝利追及行為は集団の封建制の基盤となり,体罰を助長させる要因となることを指摘している。指導者だけでなく生徒と指導者の相互で指導行動の在り方を再度問う必要があるのではないだろうか。
引用文献
Bartholomew,K.J., Ntoumanis,N.,&Thøgersen-Ntoumani, C.(2010):The Controlling Interpersonal Style in a Coaching Context: Development and Initial Validation of a Psychometric Scale. Journal of Sport and Exercise Psychology, 32: 193-216.
中井大介・庄司一子(2008)「中学生の教師に対する信頼感と学校適応感との関連」発達心理学研究第19巻 pp,57-68.