The 59th Annual Meeting of the Japanese Association of Educational Psychology

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ポスター発表 PF(01-81)

ポスター発表 PF(01-81)

Sun. Oct 8, 2017 4:00 PM - 6:00 PM 白鳥ホールB (4号館1階)

4:00 PM - 6:00 PM

[PF79] 日本語語彙についての多肢選択課題と既知判断課題の成績の関係

高校生から60歳代までを対象とした大規模調査による検討

猪原敬介1, 古屋美樹#2, 松尾千佳#3, 沓澤糸#4 (1.くらしき作陽大学, 2.(株)ベネッセコーポレーション, 3.(株)ベネッセコーポレーション, 4.教育アナリスト)

Keywords:語彙力, 語彙数, 語彙テスト

 語彙力の測定には多肢選択問題が用いられることが多い (e.g., 芝, 1978; 福沢・平山, 2009) が,ある単語(ターゲット語)を理解できているかを調べるために,他の単語(選択肢となるターゲット語ではない単語)の理解が関わることになってしまい,特定領域の語彙力(例えば,新聞に出てくる単語)を知りたい場合には,概念上および刺激選定上,困難が生じてしまう。一方,ある単語を知っているかを問う既知判断課題では,あるターゲット語を知っているかを調べるために,そのターゲット語のみが関与するため,刺激の選定・統制がし易く,研究者の関心に合わせた語彙テストを作成しやすい利点がある。また,1問を解くのにかかる時間が短いため,より多くの単語について問うことができる。このような利点に着目し,日本語の語彙数の推定に用いられたりしてきた (Amano & Kondo, 1998)。
 本研究では,日本語母語話者における語彙力について,高校生から60歳代までを対象に大規模な調査を行い,多肢選択課題における正答率と既知判断課題の既知率の関係について検討を行うことで,多肢選択課題の代替課題として既知判断課題がどの程度妥当なのかについて検討を行った。
方   法
参加者
 参加者は3,130名であった(Table 1)。調査はweb調査会社に依頼し行われた。高校生以外は本人がweb調査会社に登録し,調査に回答した。高校生は,保護者が登録者,回答者が高校生本人であった。
材料および手続き
 芝 (1978, 1981) および芝・野口 (1983) によって作成された語彙検査から,20問を使用した。多肢選択課題では,ターゲット(単語・フレーズ・文)に対して5つの選択肢が設けられ,ターゲットの意味として適切なものを選ぶ課題であった。既知判断課題では,多肢選択課題におけるターゲットが単語やフレーズであったときにはそのターゲットを,ターゲットが文であったときには,正解となる単語を,既知判断課題におけるターゲットとして,「次のそれぞれの言葉について,その言葉の意味が分かるならば,「知っている」を選んでください。その言葉を見たことも聞いたこともなかったり,見たり聞いたりはしたことがあるが,意味がはっきりと分からないときには,「知らない」を選んでください。」と教示した。
結果および考察
 多肢選択課題の正答率と既知判断課題の既知率の平均値(SD)と両者の相関係数を算出した(Table 1)。相関係数の値は.60(高校3年生)~.76(大学1年生)という範囲に収まり,すべて有意であった (ps<.01)。これらの相関係数は比較的高い値であり,既知判断課題を多肢選択課題の代替課題として用いることについて,一定の妥当性が得られたと言えるだろう。
 今回の既知判断課題には,フィラー(存在しない単語)が含まれていなかったが,フィラーを含めることで,上述の相関係数が上昇するか,より低年齢を対象とした場合ではどうか,については,今後検討すべき課題である。