10:00 AM - 12:00 PM
[PG03] 見守るしつけと子どもの感情制御
縦断研究からの検討
Keywords:見守るしつけ, 子どもの攻撃行動, 気質
問題と目的
攻撃行動のような子どもの問題行動と関連する要因について,子どもの気質や親の養育態度から多くの研究が行われ,衝動性などの子どもの気質(Olson et al.,2005)やスパンキング,感情的叱責などのネガティブな養育態度(e.g.,Olson et al.,2011)との関連が明らかにされてきた。一方日本の子育てでは,親が子どもをあまりコントロールせず,見守るしつけが広く行われている。このしつけ方略は,幼児期の子どもの認知発達からみると,親の言語的指示が明確でないため,他者理解課題の成績との間には負の関連が示されている(風間ほか, 2013)。しかし,見守るしつけと児童期以降の子どもの発達との関連はあまり明らかにされていない。日本の親の見守るしつけの妥当性を検討するには,その後の子どもの発達との関連を検討する必要がある。そこで本研究では,幼児期における親の見守るしつけと児童期の子どもの攻撃行動との関連について,子どもの気質やチャレンジ課題での生理的反応などの特性を考慮した上で,見守るしつけの意味を検討することとした。
方 法
◇研究協力者:都内の子どもとその親28組(幼児期:4歳4ヶ月, SD=4.4, 児童期: 8歳5ヶ月, SD=5.7)
◇子どもの攻撃行動:親にChild Behavior Checklistの質問紙調査を実施した。幼児期はCBCL/2-5 (Achenbach,1997)を用い,児童期はCBCL/4-18 (Achenbach,1991)を用いて攻撃行動を分析した。
◇児童期の子どもの気質:親にThe Temperament in Middle Childhood Questionnaire (TMCQ: Simons & Rothbart, 2004)の質問紙調査を実施し,怒り・フラストレーション,注意の焦点化,衝動性を分析。
◇幼児期のチャレンジ課題での生理的ストレス反応の測定:自己能力へのチャレンジとしてコンピュータ課題(Tardif,2008)を実施し,唾液を採取した。課題実施10分後から50分後までのコルチゾール分泌増加量AUCi10-50を分析した。
◇幼児期の親のしつけ:親にSocialization of Moral Affect-Parent of Preschoolers (SOMA: Rosenberg et al.,1997)の質問紙調査を行い,見守るしつけを分析に用いた。
結果と考察
幼児期の親の見守るしつけが,後の児童期の子どもの攻撃行動とどのような関連があるのかをみるために,児童期の子どもの攻撃行動を従属変数,幼児期の親の見守るしつけ,児童期の子どもの気質(怒り・フラストレーション,注意の焦点化,衝動性),幼児期のチャレンジ課題における生理的ストレス反応(AUCi10-50),幼児期の子どもの攻撃行動を独立変数として階層的重回帰分析を行った(Table1)。その結果,児童期の子どもの気質の衝動性が高いと児童期の子どもの攻撃行動が高く,幼児期の子どもの生理的ストレス反応が大きいと児童期の子どもの攻撃行動が高い傾向が示された。さらに幼児期に親の見守るしつけが高いと,児童期の子どもの攻撃行動が低くなる傾向が示された。
結果から,Olson et al.(2005)で指摘されているように,児童期についても,子どもの気質の衝動性の高さは子どもの攻撃行動の高さと関連することが見出された。また,幼児期の自己能力チャレンジ課題における生理的ストレス反応の高さもまた,児童期の子どもの攻撃行動の高さと関連することが見出された。さらに,幼児期の親の見守るしつけは,児童期の子どもの攻撃行動と負の関連傾向を示したことから,見守るしつけは,児童期以降の子どもの発達にとって,必ずしもネガティブな意味をもつものではないことが示唆された。
今後の課題として,見守るしつけが,どのようなタイプの子どもにとって発達的にポジティブな意味をもつのかについて,子どもの認知能力,気質や生理的ストレス反応を統合的に分析し検討することが必要である。
付 記
本研究発表は,JSPS科研費 20330139,及び16H07222の助成を受けている。
攻撃行動のような子どもの問題行動と関連する要因について,子どもの気質や親の養育態度から多くの研究が行われ,衝動性などの子どもの気質(Olson et al.,2005)やスパンキング,感情的叱責などのネガティブな養育態度(e.g.,Olson et al.,2011)との関連が明らかにされてきた。一方日本の子育てでは,親が子どもをあまりコントロールせず,見守るしつけが広く行われている。このしつけ方略は,幼児期の子どもの認知発達からみると,親の言語的指示が明確でないため,他者理解課題の成績との間には負の関連が示されている(風間ほか, 2013)。しかし,見守るしつけと児童期以降の子どもの発達との関連はあまり明らかにされていない。日本の親の見守るしつけの妥当性を検討するには,その後の子どもの発達との関連を検討する必要がある。そこで本研究では,幼児期における親の見守るしつけと児童期の子どもの攻撃行動との関連について,子どもの気質やチャレンジ課題での生理的反応などの特性を考慮した上で,見守るしつけの意味を検討することとした。
方 法
◇研究協力者:都内の子どもとその親28組(幼児期:4歳4ヶ月, SD=4.4, 児童期: 8歳5ヶ月, SD=5.7)
◇子どもの攻撃行動:親にChild Behavior Checklistの質問紙調査を実施した。幼児期はCBCL/2-5 (Achenbach,1997)を用い,児童期はCBCL/4-18 (Achenbach,1991)を用いて攻撃行動を分析した。
◇児童期の子どもの気質:親にThe Temperament in Middle Childhood Questionnaire (TMCQ: Simons & Rothbart, 2004)の質問紙調査を実施し,怒り・フラストレーション,注意の焦点化,衝動性を分析。
◇幼児期のチャレンジ課題での生理的ストレス反応の測定:自己能力へのチャレンジとしてコンピュータ課題(Tardif,2008)を実施し,唾液を採取した。課題実施10分後から50分後までのコルチゾール分泌増加量AUCi10-50を分析した。
◇幼児期の親のしつけ:親にSocialization of Moral Affect-Parent of Preschoolers (SOMA: Rosenberg et al.,1997)の質問紙調査を行い,見守るしつけを分析に用いた。
結果と考察
幼児期の親の見守るしつけが,後の児童期の子どもの攻撃行動とどのような関連があるのかをみるために,児童期の子どもの攻撃行動を従属変数,幼児期の親の見守るしつけ,児童期の子どもの気質(怒り・フラストレーション,注意の焦点化,衝動性),幼児期のチャレンジ課題における生理的ストレス反応(AUCi10-50),幼児期の子どもの攻撃行動を独立変数として階層的重回帰分析を行った(Table1)。その結果,児童期の子どもの気質の衝動性が高いと児童期の子どもの攻撃行動が高く,幼児期の子どもの生理的ストレス反応が大きいと児童期の子どもの攻撃行動が高い傾向が示された。さらに幼児期に親の見守るしつけが高いと,児童期の子どもの攻撃行動が低くなる傾向が示された。
結果から,Olson et al.(2005)で指摘されているように,児童期についても,子どもの気質の衝動性の高さは子どもの攻撃行動の高さと関連することが見出された。また,幼児期の自己能力チャレンジ課題における生理的ストレス反応の高さもまた,児童期の子どもの攻撃行動の高さと関連することが見出された。さらに,幼児期の親の見守るしつけは,児童期の子どもの攻撃行動と負の関連傾向を示したことから,見守るしつけは,児童期以降の子どもの発達にとって,必ずしもネガティブな意味をもつものではないことが示唆された。
今後の課題として,見守るしつけが,どのようなタイプの子どもにとって発達的にポジティブな意味をもつのかについて,子どもの認知能力,気質や生理的ストレス反応を統合的に分析し検討することが必要である。
付 記
本研究発表は,JSPS科研費 20330139,及び16H07222の助成を受けている。