10:00 AM - 12:00 PM
[PG12] ひきこもりを抱える家族におけるきょうだいの体験過程
Keywords:ひきこもり, きょうだい, 体験
問題と目的
ひきこもりの支援では,家族のコミュニケーションを調整することを通して当事者(以下,同胞)の変化を促すことを目的に,家族支援が重視されてきた(吉川,2011)。ただし,その主な対象は親であり,家族としてともに生活し影響を与え合うと考えられる兄弟姉妹(以下,きょうだい)は見過ごされがちであった。近年のひきこもりの実態調査(境ら,2013)により約9割の家庭にきょうだいがいることが示され,「兄弟姉妹の会」が設立された。今後の支援の展開のために,きょうだい固有の困難について理解していく必要がある。
同胞がひきこもることによるきょうだいへの影響については,連鎖反応が生じる場合があることなどが支援者の実践に基づいて指摘されているが(田中,2001;小島・斎藤,2012),きょうだいの視点から検討された研究は少ない。和田(2016)は,思春期・青年期に同胞がひきこもり状態にあったそのきょうだいに面接調査を行い,きょうだいが家族から自律するまでの体験径路の多様性を明らかにしている。しかし,同胞がひきこもるとはきょうだいにとってどのような体験であるのかについての全体像が捉えられていない。
子どもは周囲の人の行動をモデルにして自分の行動を形成し,きょうだい間で比較し合うことで自己像を明確化するとされ(白佐,2004),思春期・青年期という自己を形成していく時期の家族における体験について検討することは,きょうだいを理解するうえで重要だと考えられる。そこで本研究では,家族の関係性に着目し,思春期・青年期のきょうだいの体験過程について質的に検討することとする。
方 法
分析方法 修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチ:M-GTA(木下,2003)を援用した。
協力者 思春期・青年期に,同胞が6ヶ月以上のひきこもり状態にあったそのきょうだい14名。ひきこもり支援団体から紹介してもらった。
調査手続き インタビューガイドを基に,個別に半構造化面接を2回実施し,協力者の同意を得てICレコーダに録音し,逐語化した。
倫理的配慮 調査の主旨,面接方法,プライバシーの保護などを書面で示し説明し,承諾を得た。
結 果
分析の結果,きょうだいの体験を説明する30個の概念,9個の小カテゴリー,3個の大カテゴリーが生成され,それらの相互の関係から結果図を作成した。きょうだいの体験過程は,3つの過程,すなわち〔会話に気を遣う〕〔変化への期待と諦めとの間で揺れる〕〔関わりつつ巻き込まれない〕が時間の経過とともに順に重なっていくような構造になると考えられた。
最初の〔会話に気を遣う〕過程では,きょうだいは,同胞が話さなくなったり家庭内で暴れたりすることで【同胞の変化に戸惑い】,その【原因を推測】していた。次の過程では,きょうだいは,以前のような家族に戻ってほしいという〔変化への期待と諦めとの間で揺れ〕ていた。具体的には,家族に【変わってほしい】と思いながら,実際に変わることへの【大変さに共感する】といった,思いの揺れを体験していた。そして,状態がよくなるように働きかけるが上手くいかず【関わりに疲れ】,やり取りを繰り返すうちに【自分も辛く】なっていた。三つ目の過程では,家族に〔関わりつつ巻き込まれない〕ことができるようになっていた。きょうだいは,時間とともに【家族という枠から出たい】と思うようになり,家族から距離を置いて状況をありのままに観ることを通して,【自分を取り戻す】ことができていた。しかし,同胞のひきこもりがいつまで続くのか【終わりが見えない】ことへの不安をもち続けていた。
考 察
きょうだいは,同胞のひきこもり始めから長期化していく時間の経過にともない,複数の過程を重なるように体験することが示された。なかでも家族の変化への期待と諦めとの間の思いの揺れは,中核的な体験であることが示唆された。三つ目の過程における,家族としてともに生活しなから感情的に巻き込まれないといったきょうだいの自己のあり方は,家族に関する認識の枠の外に出て,自分を含めた家族をメタな視点で観ることを通して可能になるといえる。したがって,そのような自己を形成していく過程を支え,きょうだいが〈自分になれる距離を置き〉,〈自分や家族をありのままに観る〉ことができるように支援していくことが重要になると考えられる。
ひきこもりの支援では,家族のコミュニケーションを調整することを通して当事者(以下,同胞)の変化を促すことを目的に,家族支援が重視されてきた(吉川,2011)。ただし,その主な対象は親であり,家族としてともに生活し影響を与え合うと考えられる兄弟姉妹(以下,きょうだい)は見過ごされがちであった。近年のひきこもりの実態調査(境ら,2013)により約9割の家庭にきょうだいがいることが示され,「兄弟姉妹の会」が設立された。今後の支援の展開のために,きょうだい固有の困難について理解していく必要がある。
同胞がひきこもることによるきょうだいへの影響については,連鎖反応が生じる場合があることなどが支援者の実践に基づいて指摘されているが(田中,2001;小島・斎藤,2012),きょうだいの視点から検討された研究は少ない。和田(2016)は,思春期・青年期に同胞がひきこもり状態にあったそのきょうだいに面接調査を行い,きょうだいが家族から自律するまでの体験径路の多様性を明らかにしている。しかし,同胞がひきこもるとはきょうだいにとってどのような体験であるのかについての全体像が捉えられていない。
子どもは周囲の人の行動をモデルにして自分の行動を形成し,きょうだい間で比較し合うことで自己像を明確化するとされ(白佐,2004),思春期・青年期という自己を形成していく時期の家族における体験について検討することは,きょうだいを理解するうえで重要だと考えられる。そこで本研究では,家族の関係性に着目し,思春期・青年期のきょうだいの体験過程について質的に検討することとする。
方 法
分析方法 修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチ:M-GTA(木下,2003)を援用した。
協力者 思春期・青年期に,同胞が6ヶ月以上のひきこもり状態にあったそのきょうだい14名。ひきこもり支援団体から紹介してもらった。
調査手続き インタビューガイドを基に,個別に半構造化面接を2回実施し,協力者の同意を得てICレコーダに録音し,逐語化した。
倫理的配慮 調査の主旨,面接方法,プライバシーの保護などを書面で示し説明し,承諾を得た。
結 果
分析の結果,きょうだいの体験を説明する30個の概念,9個の小カテゴリー,3個の大カテゴリーが生成され,それらの相互の関係から結果図を作成した。きょうだいの体験過程は,3つの過程,すなわち〔会話に気を遣う〕〔変化への期待と諦めとの間で揺れる〕〔関わりつつ巻き込まれない〕が時間の経過とともに順に重なっていくような構造になると考えられた。
最初の〔会話に気を遣う〕過程では,きょうだいは,同胞が話さなくなったり家庭内で暴れたりすることで【同胞の変化に戸惑い】,その【原因を推測】していた。次の過程では,きょうだいは,以前のような家族に戻ってほしいという〔変化への期待と諦めとの間で揺れ〕ていた。具体的には,家族に【変わってほしい】と思いながら,実際に変わることへの【大変さに共感する】といった,思いの揺れを体験していた。そして,状態がよくなるように働きかけるが上手くいかず【関わりに疲れ】,やり取りを繰り返すうちに【自分も辛く】なっていた。三つ目の過程では,家族に〔関わりつつ巻き込まれない〕ことができるようになっていた。きょうだいは,時間とともに【家族という枠から出たい】と思うようになり,家族から距離を置いて状況をありのままに観ることを通して,【自分を取り戻す】ことができていた。しかし,同胞のひきこもりがいつまで続くのか【終わりが見えない】ことへの不安をもち続けていた。
考 察
きょうだいは,同胞のひきこもり始めから長期化していく時間の経過にともない,複数の過程を重なるように体験することが示された。なかでも家族の変化への期待と諦めとの間の思いの揺れは,中核的な体験であることが示唆された。三つ目の過程における,家族としてともに生活しなから感情的に巻き込まれないといったきょうだいの自己のあり方は,家族に関する認識の枠の外に出て,自分を含めた家族をメタな視点で観ることを通して可能になるといえる。したがって,そのような自己を形成していく過程を支え,きょうだいが〈自分になれる距離を置き〉,〈自分や家族をありのままに観る〉ことができるように支援していくことが重要になると考えられる。