10:00 AM - 12:00 PM
[PG19] 教師は生徒の学習方略利用の実態を把握できているのか?
数理モデルを用いた教師の予測の正確性の分析
Keywords:学習方略, 教師の実態把握力, 数理モデル
問題と目的
教師の実態把握力の重要性は言うまでもない。教師が学習者のつまずきを予測する力は,教師の授業設計力の重要な一部と考えられる(市川,2014)。知識や技能が定着したのかを把握するのみならず,学習方略をどのていど利用しているのかの把握も必要である。なぜならば,もし丸暗記だけで覚えている学習者が多い場合には,意味の説明を授業中に求めるなど,授業設計にも影響を与えるためである。本研究では,筆者らが開発中の数理モデルを用いて,教師が生徒の学習方略利用を正しく把握できているのかについて分析する。
植阪ら(2012, 2015など)は,学習者の実態把握力を解析するための新たな数理モデルを開発している。想定しているデータと数理モデルを以下に示す(表1および式1-1)。
αとβはパラメータを,P,Qは実態分布および予測分布の確率を表現している。iは課題,jは教師,kはカテゴリーを意味している。この数理モデルは,教師の予測分布と学習者の実態分布との一致度を評価するものであり,α=1は完全一致を示している(βはαの関数になっているため,実質的なパラメーターはαだけである)。αから離れるにつれて正確性は低くなることを示している。ただし,α>1の場合には,実際に多いカテゴリをより多く予測し,実際には少ないカテゴリをより少なく予測するなど,分布の傾向性は予測できていると考えられる。一方,α>1の場合には,実際に多いカテゴリをより少なく予測し,実態には少ないカテゴリをより多く予測といった傾向を示しており,不正確な予測と考えられる(詳細は,植阪ら,2015などを参照されたい。なおモデルを実装した無償のwebサイト(Witsシステム)が開発され,公開されている(仲谷ら,2015)。また,教師ごとの予測の正確性,課題ごとの予測の正確性なども解析でき,パラメータの検定等も行なえる)。
方 法
参加したのは,関東圏の高校1校(501名)。事前に質問紙を使って,生徒の学習方略利用を調査(数学,英語,国語,理科,社会の5教科。全64項目。浅い認知的方略/深い認知的方略/メタ認知的方略/外的リソース方略を含む。各4 件法で質問)。その後,各教科から9-10項目を選び,教師27名に生徒の回答パタンを予測してもらった。
結果と考察
分析に当たっては,各教師の予測力αを,項目ごとに算出し,概観した。この結果,社会を除く4教科で以下の3つの共通した傾向が認められた。第1に,生徒がほとんど利用していない学習方略については,教師の予測の正確性が非常に高かった。第2に,浅い認知的方略などでは中程度の正確性がみられた。ただし,図2のように,教師は,生徒の丸暗記傾向を十分には予測できていない様子も伺われた。第3に,深い認知的方略,メタ認知的方略など,学習の促進に寄与すると考えられる多くの学習方略についての教師の予測は,個人差が大きく,また必ずしも正確ではないことが明らかとなった(表3)。教師の指導の視点として取り入れられていないことが伺われた。一方で,方略指導に熱心な教師の予測は全体として正確であることなども明らかとなった。今後,社会科ではなぜ上述の結果が得られなかった原因の分析を行う。また本校では学習方略を促進する実践を行っている。本結果を実践に活用することを目指す。
教師の実態把握力の重要性は言うまでもない。教師が学習者のつまずきを予測する力は,教師の授業設計力の重要な一部と考えられる(市川,2014)。知識や技能が定着したのかを把握するのみならず,学習方略をどのていど利用しているのかの把握も必要である。なぜならば,もし丸暗記だけで覚えている学習者が多い場合には,意味の説明を授業中に求めるなど,授業設計にも影響を与えるためである。本研究では,筆者らが開発中の数理モデルを用いて,教師が生徒の学習方略利用を正しく把握できているのかについて分析する。
植阪ら(2012, 2015など)は,学習者の実態把握力を解析するための新たな数理モデルを開発している。想定しているデータと数理モデルを以下に示す(表1および式1-1)。
αとβはパラメータを,P,Qは実態分布および予測分布の確率を表現している。iは課題,jは教師,kはカテゴリーを意味している。この数理モデルは,教師の予測分布と学習者の実態分布との一致度を評価するものであり,α=1は完全一致を示している(βはαの関数になっているため,実質的なパラメーターはαだけである)。αから離れるにつれて正確性は低くなることを示している。ただし,α>1の場合には,実際に多いカテゴリをより多く予測し,実際には少ないカテゴリをより少なく予測するなど,分布の傾向性は予測できていると考えられる。一方,α>1の場合には,実際に多いカテゴリをより少なく予測し,実態には少ないカテゴリをより多く予測といった傾向を示しており,不正確な予測と考えられる(詳細は,植阪ら,2015などを参照されたい。なおモデルを実装した無償のwebサイト(Witsシステム)が開発され,公開されている(仲谷ら,2015)。また,教師ごとの予測の正確性,課題ごとの予測の正確性なども解析でき,パラメータの検定等も行なえる)。
方 法
参加したのは,関東圏の高校1校(501名)。事前に質問紙を使って,生徒の学習方略利用を調査(数学,英語,国語,理科,社会の5教科。全64項目。浅い認知的方略/深い認知的方略/メタ認知的方略/外的リソース方略を含む。各4 件法で質問)。その後,各教科から9-10項目を選び,教師27名に生徒の回答パタンを予測してもらった。
結果と考察
分析に当たっては,各教師の予測力αを,項目ごとに算出し,概観した。この結果,社会を除く4教科で以下の3つの共通した傾向が認められた。第1に,生徒がほとんど利用していない学習方略については,教師の予測の正確性が非常に高かった。第2に,浅い認知的方略などでは中程度の正確性がみられた。ただし,図2のように,教師は,生徒の丸暗記傾向を十分には予測できていない様子も伺われた。第3に,深い認知的方略,メタ認知的方略など,学習の促進に寄与すると考えられる多くの学習方略についての教師の予測は,個人差が大きく,また必ずしも正確ではないことが明らかとなった(表3)。教師の指導の視点として取り入れられていないことが伺われた。一方で,方略指導に熱心な教師の予測は全体として正確であることなども明らかとなった。今後,社会科ではなぜ上述の結果が得られなかった原因の分析を行う。また本校では学習方略を促進する実践を行っている。本結果を実践に活用することを目指す。