The 59th Annual Meeting of the Japanese Association of Educational Psychology

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ポスター発表 PG(01-81)

ポスター発表 PG(01-81)

Mon. Oct 9, 2017 10:00 AM - 12:00 PM 白鳥ホールB (4号館1階)

10:00 AM - 12:00 PM

[PG36] 心的イメージ能力の個人差は中学校理科への志向性と関連するか?

鮮明性と空間的統御性の次元に着目して

原田勇希1, 鈴木誠2 (1.北海道大学・日本学術振興会特別研究員, 2.北海道大学)

Keywords:理科, 心的イメージ能力, 動機づけ

問題と目的
 理科を含むSTEM(Science Technology Engineering and Mathematics)領域の学業達成や当該分野への志向性には,心的回転課題などの認知課題で測定される心的イメージの空間的統御能力が密接に関連する(e.g., Shea, Lubinski & benbow, 2001; Wai, Lubinski & Benbow, 2009)。その影響力は学校教育の比較的早い段階で観察されており,諸外国では中学校理科でその関連が見出されている(Ganley, Vasilyeva & Dulaney, 2014; Stavridou & Kakana, 2008)。しかし,本邦の理科教育においてその影響力が検討された例はない。また心的イメージ能力には空間的統御性の他にも,鮮明性の次元があり,その影響力は定かではない。
 本邦では小学生から中学生にかけて「理科が好き」,「理科の勉強がわかる」割合が大きく減少することが示されており(国立教育政策研究所,2016),理科に苦手意識を持ち,動機づけが低下しやすい生徒の特徴を明らかにすることは喫緊の課題である。そこで本研究では心的イメージ能力に焦点を当て,中学校理科の学習に対する志向性との関連を検討することを目的とした。
方   法
対象者と調査時期
 北海道内の公立中学校の1年生と3年生を対象とした。分析対象者は1年生108名(男子44名,女子64名),3年生72名(男子38名,女子34名)であった。実施時期は4月から5月初頭であり,1年生はほぼ入学直後の状態と考えられた。
測定変数
心的イメージ能力(鮮明性):Marks(1973)によって作成されたVVIQの日本語版(菱谷,2005)を実施した。(range:16¬-80)。心的イメージ能力(空間的統御性):Vandenberg & Kuse(1978)による心的回転課題(以下,MRT)を実施した(range:0-20)。理科に対する好感度:「理科は私の好きな科目です」に対し,「まったくあてはまらない(1)」から「よくあてはまる(5)」までの5件法で回答を求めた(range:1-5)。理科に対する統制感:鈴木(1996)によって作成された統制感尺度を実施した。4項目5件法(range:1.00¬-5.00)。理科に対する興味価値:解良・中谷(2014)によって作成された尺度のうち興味価値の下位尺度を実施した。4項目5件法(range:1.00¬-5.00)。
結   果
 各学年における理科への志向性と心的イメージ能力の関連を検討するため,学年ごとにPearsonの積率相関係数を算出した(Table 1)。
 中学校1年生において,VVIQ,MRTともに理科への志向性と正の相関があった。特にVVIQは統制感と中程度の相関を示したのに対し(r = .43, p < .001),MRTでは有意な相関がなかった(r = .13, p = .17)。中学校3年生において,VVIQは理科への志向性のどの側面とも有意な相関を示さなかったのに対し(all ps > .10),MRTは理科の好感度(r = .27, p < .05)および統制感(r = .43, p < .001)と有意な正の相関が認められた。
 次に,学年によって心的イメージ能力と理科への志向性との相関の様相が異なるかを検討するため,相関の差を分析した。その結果,VVIQと統制感の相関(Z = 3.47, p < .01)とMRTと統制感の相関(Z = 2.12, p < .05)は1年生と3年生で異なっていた。
考   察
 本研究の結果,中学校理科への志向性と心的イメージ能力の関連が示された。理科では直接観察できない現象や科学概念をイメージすることが求められるため,こうした能力は理科学習の基盤であると考えられる。
 中学校1年生ではイメージの鮮明性が,中学校3年生ではイメージの空間的統御性が統制感と正の相関を示した。この違いは,学年によって理科学習で要求されるイメージの質が異なることを反映したものと推察される。中学校理科では抽象的な概念を取り扱い,力や磁界,運動の向きや大きさなどベクトル情報の処理が要求される。そのために,心的イメージの空間的統御が苦手な生徒ほど,認知的処理の負荷が大きく,理科に対する統制感が低減しやすいものと考えられる。