日本教育心理学会第59回総会

講演情報

ポスター発表 PG(01-81)

ポスター発表 PG(01-81)

2017年10月9日(月) 10:00 〜 12:00 白鳥ホールB (4号館1階)

10:00 〜 12:00

[PG64] 通級指導教室に通う小学生のコーピング尺度の検討

吉原勝 (関西大学大学院)

キーワード:特別支援教育, コーピング, ストレスマネージメント

はじめに
 これまでの発達障害の問題行動の起因は発達障害の障害特性としており「対人関係が苦手」など直線的因果関係が主流であった。しかし,遭遇する様々な出来事や刺激などストレッサーを負のコーピングで軽減するために問題行動が生起していることも考えられる。そこで,本研究では,通級指導教室に在籍している児童を対象にコーピング尺度について検討した。
方   法
調査参加者
 通級指導教室に通っている小学生5・6年生93名(男子76名,女子16名,無記入1名)から有効回答が得られた82名(男子68名,女子14名)を分析対象とした。
調査手続き
 調査は,Y市内の11校の情緒通級指導教室設置校の各担当者から保護者に調査用紙を配布し,自宅で保護者が子どもに調査を実施した。
調査測度
 コーピング尺度は,大竹・島井・嶋田(1998)によって用いられた小学生用ストレスコーピング尺度の計40項目に「寝る」を「本を読む」に変更し,合計40項目を用いた。設問としては,友達とけんかした時,という状況を設定し,各コーピング項目をどのくらいあてはまるかを4件法で評定を求めた。
結   果
よく使われるコーピング
 通級指導教室に通っている小学生(5・6年生)が採用する平均点の高いコーピングの上位10項目は「ゲームをする」「あまり先を考えないようにする」「不満を言う」「そのことをあまり考えないようにする」「時間がたつのをまつ」「自分の気持ちを人にわかってもらう」「どのようなことなのかをよく考える」「テレビをみる」「当り散らす」「友だちとあそぶ」であった。 
因子分析
 コーピング40項目について主成分分析を行い,因子数を6と決定した。その後,主因子法,バリマックス回転を行った。第1因子は,高い因子負荷量を持つ項目は,8項目あり,項目の内容から「問題解決回避」と解釈された(α=.859)。第2因子は,10項目あり,「認知的回避」と解釈された(α=.730)。第3因子は,6項目あり,「行動回避」と解釈された(α=.787)。第4因子は,6項目あり,「気分転換回避」と解釈された(α=.663)。第5因子は,5項目あり,「サポート」と解釈された(α=.697)。第6因子は,4項目あり「情動的回避」と解釈された(α=.597)。
コーピングの男女差
 コーピングの下位尺度ごとに項目の合計点を算出し,男女差についてt検定を行った。その結果,5つの因子すべてに男女差がみられなかった。
コーピングの診断の有無による差
 コーピングの下位尺度ごとに項目の合計点を算出し,診断あり群と診断なし群についてt検定を行った。その結果,問題解決回避は,診断ありとなしで有意差がみられた(t=2.63,df=56.55,p<
.05)。この結果と平均値(診断あり:1.91,診断なし:1.59)から診断のある児童は,問題解決回避のコーピングをより使う傾向があることが示された。

考   察
 通級指導教室に通う小学生が採用する平均点の高いコーピングの上位10項目のうち5項目,そして,上位1位,2位が第2因子の「認知的回避」であった。一方,問題行動に関係している負のコーピングである情動回避や行動回避は低い傾向がみられた。診断の有無で問題解決回避が高い理由は,診断有の児童は,早期から地域の療育センター等の専門的な指導・支援を受けていることが影響していると考えられる。また,通級指導教室に通う小学生は,男女差より共通の問題行動が影響していると推測される。

 関西大学倫理委員会の承認をえて実施している。