10:00 AM - 12:00 PM
[PG68] 小中一貫校の学校づくりにおける教師の学習
開校準備に携わる教師の語りに着目して
Keywords:小中一貫校, 教師の学習, 保護者や地域との連携
問題と目的
9年間で子どもの発達に応じたカリキュラムや学習環境の創出を目指す小中一貫校の設置が全国的に進行している。なかでも地域の実情に合わせた教育改革としての小中一貫校設置は,子どもの発達に応じた実践を創出し,地域と連携しつつ子どもの学習や発達を支援するとともにコミュニティスクールとして地域と連携した新たな教育のあり方を模索している。そこでは教師たちは校種を超えて協働し子どもの生活環境や学習環境を創出することに加え保護者や地域コミュニティとも協働しながら地域に根ざした学校づくりに取り組むこととなる。その過程において,学校づくりやカリキュラム開発など実践上の取り組みは各学校や地域において組織される準備委員会等に委ねられている。教師や保護者,地域住民がその意義や実践上の留意点について理解しつつ,新たな学校のありかたをそれぞれの立場で模索する活動は教師にとってどのような経験であるのだろうか。
本研究では,準備過程を小学校,中学校という差異ある実践共同体の成員である教師が葛藤しつつ相互に対象化し自らの実践を省察することを通して学び合うとともに,保護者,地域住民,行政担当者という異なる実践共同体の成員とも協働する活動システムとして定位し,教師が保護者,地域住民,行政担当者と協働的に学校づくりを進めるに際してどのような課題に直面し,その解決を通してなにを学ぶのかを検討する。
対象と方法
対象:3年後に小中一貫校へ移行する東海地方の公立小学校教師11名(校長,教頭,教務主任,養護教諭各1,教諭7),中学校教師10名(校長,教頭,教務主任,養護教諭各1,教諭6)の計21名。教師は通常の教育活動を進めつつ開校準備のワーキンググループ(学習指導,生徒指導,健康・保健,特別活動,行事)を組織し準備作業に取り組む。調査:小中一貫教育や対象校についてたずねる質問紙調査(自由記述)と面接調査。授業への参与観察。分析:教師の記述や語り,授業の映像記録の質的分析。
結果と考察
〔小中一貫教育の印象〕としては9年間一貫した教育課程編成,「小規模校のデメリットをメリットに変える」など学校改革によってもたらされうる効果,「発達段階や学年集団の特性に応じた指導が可能になる」など発達に応じた教育の効果,「9年間を様々な立場のおとなが見通しをもって教育することができる」など指導上の効果が示された。反面,6年生が最高学年にならないことや連続した教育課程など一貫教育そのものへの戸惑いや違和感,地域の理解への不安の表明もみられた。〔小中一貫校の可能性〕としては「学校を中心とした地域改革ができるのではないか」など学校づくりから地域への波及効果,「地域の特色を活かした活動」など地域学習の可能性,「連続性のある教育」など校種間の連続性の保障とともに「豊かな教育資源の活用」など教育の質向上への期待,「個に応じた指導が可能になる」など指導体制の改善が示された。〔対象小中一貫校の課題〕としては「小中で足並みをそろえること」など校種間の教師の協働や準備体制,一貫校への保護者や地域の理解を得ることや連携体制づくり,一貫した教育課程の編成,施設面の課題,小規模校の学校経営,子どもの人間関係の固定化や希薄化などが示された。〔どのような学校にしたいか〕としては「子どもが誇りをもてる学校」,「子どもにとって居場所のある学校」など子どもの心理的安定への思い,「9年間で確実に力をつけられる学校」など子どもの学力保障への思い,「郷土への愛着をもてる学校」など子どもの郷土愛の涵養や「地域の将来像を描く教育活動のできる学校」など地域連携への思い,「一貫校でしかできないことができる学校」,「他地区から通ってみたいと思われる学校」など学校経営への思いが示された。〔準備段階での戸惑いや困難〕としては日常の教育活動と準備作業の両立,教師の意識の多様さ,学校-準備委員会-行政間の連携や情報共有,役割分担,予算措置,などへの戸惑いや困難が示された。
教師たちは,小中一貫教育の理念や生じうる教育的効果について理解しており小中一貫校そのものについては好意的であった。また,開校する一貫校の教師の立場に立ち,思いやビジョンを明確に言語化し学習指導体制や生徒指導体制等の構築には高い動機を有している。他方で,校種間の協働体制における教師間の意思のぶつかりやズレが開校予定の学校の課題として認識されている。さらに,学校と地域の境界に存在する保護者とは直接間接に関わり,保護者の期待を受けて学校のビジョンを再構築するとともに保護者の不安を受けて一貫校設置への困難を感じている。また,直接的には関わりがなく,間接的に情報が提供される行政や地域の意思については不明確さを感じ,それをズレや温度差としてとらえているが,一方的に自分たちの活動へ制約を与えるものととらえるのではなく,自分たちとは役割や志向の異なる主体として位置づけることで,自らの描く学校の設置に向けて行政や地域への要求をもち自らの活動に正当性を付与していると思われる。今後は,準備が進むごとに教師たちの活動そのものや他校種の教師,保護者や地域,行政のとらえ方がどのように変容するかを明らかにしていく。
本研究は,科学研究費補助金(基盤研究(C))「小中一貫校の設置と学校づくりにおける教師の学習過程の分析と支援方策の検討」(研究課題番号:16K04537)の助成を受けた。
9年間で子どもの発達に応じたカリキュラムや学習環境の創出を目指す小中一貫校の設置が全国的に進行している。なかでも地域の実情に合わせた教育改革としての小中一貫校設置は,子どもの発達に応じた実践を創出し,地域と連携しつつ子どもの学習や発達を支援するとともにコミュニティスクールとして地域と連携した新たな教育のあり方を模索している。そこでは教師たちは校種を超えて協働し子どもの生活環境や学習環境を創出することに加え保護者や地域コミュニティとも協働しながら地域に根ざした学校づくりに取り組むこととなる。その過程において,学校づくりやカリキュラム開発など実践上の取り組みは各学校や地域において組織される準備委員会等に委ねられている。教師や保護者,地域住民がその意義や実践上の留意点について理解しつつ,新たな学校のありかたをそれぞれの立場で模索する活動は教師にとってどのような経験であるのだろうか。
本研究では,準備過程を小学校,中学校という差異ある実践共同体の成員である教師が葛藤しつつ相互に対象化し自らの実践を省察することを通して学び合うとともに,保護者,地域住民,行政担当者という異なる実践共同体の成員とも協働する活動システムとして定位し,教師が保護者,地域住民,行政担当者と協働的に学校づくりを進めるに際してどのような課題に直面し,その解決を通してなにを学ぶのかを検討する。
対象と方法
対象:3年後に小中一貫校へ移行する東海地方の公立小学校教師11名(校長,教頭,教務主任,養護教諭各1,教諭7),中学校教師10名(校長,教頭,教務主任,養護教諭各1,教諭6)の計21名。教師は通常の教育活動を進めつつ開校準備のワーキンググループ(学習指導,生徒指導,健康・保健,特別活動,行事)を組織し準備作業に取り組む。調査:小中一貫教育や対象校についてたずねる質問紙調査(自由記述)と面接調査。授業への参与観察。分析:教師の記述や語り,授業の映像記録の質的分析。
結果と考察
〔小中一貫教育の印象〕としては9年間一貫した教育課程編成,「小規模校のデメリットをメリットに変える」など学校改革によってもたらされうる効果,「発達段階や学年集団の特性に応じた指導が可能になる」など発達に応じた教育の効果,「9年間を様々な立場のおとなが見通しをもって教育することができる」など指導上の効果が示された。反面,6年生が最高学年にならないことや連続した教育課程など一貫教育そのものへの戸惑いや違和感,地域の理解への不安の表明もみられた。〔小中一貫校の可能性〕としては「学校を中心とした地域改革ができるのではないか」など学校づくりから地域への波及効果,「地域の特色を活かした活動」など地域学習の可能性,「連続性のある教育」など校種間の連続性の保障とともに「豊かな教育資源の活用」など教育の質向上への期待,「個に応じた指導が可能になる」など指導体制の改善が示された。〔対象小中一貫校の課題〕としては「小中で足並みをそろえること」など校種間の教師の協働や準備体制,一貫校への保護者や地域の理解を得ることや連携体制づくり,一貫した教育課程の編成,施設面の課題,小規模校の学校経営,子どもの人間関係の固定化や希薄化などが示された。〔どのような学校にしたいか〕としては「子どもが誇りをもてる学校」,「子どもにとって居場所のある学校」など子どもの心理的安定への思い,「9年間で確実に力をつけられる学校」など子どもの学力保障への思い,「郷土への愛着をもてる学校」など子どもの郷土愛の涵養や「地域の将来像を描く教育活動のできる学校」など地域連携への思い,「一貫校でしかできないことができる学校」,「他地区から通ってみたいと思われる学校」など学校経営への思いが示された。〔準備段階での戸惑いや困難〕としては日常の教育活動と準備作業の両立,教師の意識の多様さ,学校-準備委員会-行政間の連携や情報共有,役割分担,予算措置,などへの戸惑いや困難が示された。
教師たちは,小中一貫教育の理念や生じうる教育的効果について理解しており小中一貫校そのものについては好意的であった。また,開校する一貫校の教師の立場に立ち,思いやビジョンを明確に言語化し学習指導体制や生徒指導体制等の構築には高い動機を有している。他方で,校種間の協働体制における教師間の意思のぶつかりやズレが開校予定の学校の課題として認識されている。さらに,学校と地域の境界に存在する保護者とは直接間接に関わり,保護者の期待を受けて学校のビジョンを再構築するとともに保護者の不安を受けて一貫校設置への困難を感じている。また,直接的には関わりがなく,間接的に情報が提供される行政や地域の意思については不明確さを感じ,それをズレや温度差としてとらえているが,一方的に自分たちの活動へ制約を与えるものととらえるのではなく,自分たちとは役割や志向の異なる主体として位置づけることで,自らの描く学校の設置に向けて行政や地域への要求をもち自らの活動に正当性を付与していると思われる。今後は,準備が進むごとに教師たちの活動そのものや他校種の教師,保護者や地域,行政のとらえ方がどのように変容するかを明らかにしていく。
本研究は,科学研究費補助金(基盤研究(C))「小中一貫校の設置と学校づくりにおける教師の学習過程の分析と支援方策の検討」(研究課題番号:16K04537)の助成を受けた。