The 59th Annual Meeting of the Japanese Association of Educational Psychology

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ポスター発表 PH(01-78)

ポスター発表 PH(01-78)

Mon. Oct 9, 2017 1:00 PM - 3:00 PM 白鳥ホールB (4号館1階)

1:00 PM - 3:00 PM

[PH07] 東アジアと欧州の教科書にみる親子間葛藤

日本・中国・ドイツ・イタリアの親子間葛藤に焦点をあてて

塘利枝子 (同志社女子大学)

Keywords:文化比較, 教科書, 親子関係

目   的
 教科書は各国・社会を担う次世代の健全な発達と学習の向上を目指し,教育関係者により作成される。したがって教科書には,各国・社会の大人たちが子どもに期待する理想像が反映されている。同時に,次世代の価値観を創る道具にもなっている。本発表では日本・中国・ドイツ・イタリアの小学校国語教科書に描かれた親子間の葛藤内容と葛藤解決方略に焦点をあてて比較分析を行った。
 本研究で取り上げる親子間の「葛藤」とは,「親子それぞれが望ましい状態を続けようとしたり行動したりする際に,それぞれの思いや行動が一致せずに親子間でいざこざが生じたり,そのどちらかが他方の行動や状態に心理的な不満やわだかまりを持っていて,相手のことを受け入れられずにいる状態」と定義した。
方   法
 日本・中国・ドイツ・イタリアで2010年に刊行された小学校1~3年生用の教科書を分析対象とした。日本と中国では検定済教科書を取り上げた。ドイツとイタリアでは自由発行制のため,各州の推薦リストや大手の出版社から選択した。そして前述した親子間葛藤の定義をもとに,一定の基準に沿って親子間葛藤場面が記述された作品のみを分析対象として選定した。その結果,対象作品数は,日本12件,中国6件,ドイツ42件,イタリア45件であった。本発表では親子間葛藤の起因者,葛藤内容,相手の葛藤解決行動,最終的な解決方略について,4ヶ国間比較分析を行った。
結   果
(1) 葛藤の起因者
 第1に,日本では親が,他の3ヶ国では子どもが葛藤の起因者になることが多かった。第2に,親の場合には日本とイタリアでは母親が起因者になることが多く,中国とドイツでは父母の割合は半々であった。母子関係と父子関係のどちらがより重視されるかがこれらの結果に関係していると思われる。第3に,子どもが起因者になる場合には,ドイツでは娘が多く,イタリアでは息子と娘が半々であった。
(2) 葛藤内容
 第1に,親が起因者の場合には,日本とイタリアでは親の妊娠や多忙さなど非意図的な葛藤内容が多かった。一方,中国とドイツでは,子どもの望みに反対するなど意図的な葛藤内容が多かった。第2に,子どもの場合には,日本と中国では子どもの性格など非意図的な葛藤内容が多く,ドイツとイタリアでは親への反抗など意図的な葛藤内容が多かった。以上の結果から,親子の逸脱行動の許容範囲は4ヶ国で異なると推測される。
(3) 相手の葛藤解決行動
 第1に,親が起因者の場合の子どもの葛藤解決行動は,日本を除く3ヶ国では,不満を持っているが反対表明をしないことで解決することが多かった。第2に,子どもが起因者の場合の親の葛藤解決行動は,日本・中国・イタリアでは親が叱ることが多く,ドイツでは反対意見を言うことが多かった。
(4) 最終的な解決方略
 日本では最終的に他者の介入によって親子間葛藤を解決することが多かったが,他の3ヶ国では直接対決後に子どもが自分の主張を通すことが多かった。
 以上の結果から,親子間葛藤に関しては東洋と西洋といった文化で必ずしも二分できるものではなく,各国の親子関係の緊密性や親子それぞれに期待される行動の違いが,親子間葛藤の共通性や相違性を生み出していると思われる。今後は各国の実際の父子・母子関係を併せて分析していく予定である。