The 59th Annual Meeting of the Japanese Association of Educational Psychology

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ポスター発表 PH(01-78)

ポスター発表 PH(01-78)

Mon. Oct 9, 2017 1:00 PM - 3:00 PM 白鳥ホールB (4号館1階)

1:00 PM - 3:00 PM

[PH36] 授業中の私語抑制に関する認知心理学的研究

中田英利子 (神戸女学院大学)

Keywords:大学教育, 私語, メタ認知的知識

 私語とは,先生が許可した場合は除いて,授業内容に関係するか否かにかかわらず,授業中に学生同士で行われる私的な発言を指す(卜部・佐々木, 1999)。近年,私語は初等・中等教育だけでなく大学教育でも問題視されている(家本, 1990)。私語の発生や抑制に関する知見を得ることは,大学教育における重要な研究課題である。小牧・岩淵(1997)は,学生の59.0%が私語を“絶対してはいけない”と知っているが,84.9%が“ついしてしまう”と回答していると報告した。つまり,学生は私語に関する否定的見解を有するが,つい行ってしまうと言える。この点について,出口・吉田(2005)が社会心理学的に検討しているが,認知心理学的に検討した研究は殆ど認められない。本研究の目的は,認知心理学的に介入して私語を抑制することである。ところで,教師自身の学習者観や授業観はメタ認知的知識の1種に該当すると考えられている(中條他, 2007)。学生もまた,どのように受講すべきかというメタ認知的知識を有しているならば,私語に関する否定的見解もメタ認知的知識に含まれるのではないか。実際に私語を行ってしまうのは,私語に関するメタ認知的知識が不活性なため,私語をしたくなった時に抑制することができないと推察される。本研究では,私語を禁じるリマインダを私語の多いクラスで呈示するが,私語の少ないクラスでは呈示しない。リマインダによって私語に関するメタ認知的知識が活性化されるため,私語をしたくなったとしても,メタ認知的知識によって抑制される考えられる.その結果,リマインダ呈示群とリマインダ非呈示群とで私語の頻度に差が認められなくなると予測された。
ベースラインセッション
質問項目 講義内容に関係のある私語と関係のない私語に関する計7項目(出口・吉田, 2005)を用いた。各項目につき(a)自分が行った頻度,(b)周りの人が行った頻度,(c)項目のような私語をどの程度“迷惑だ”と感じるかをたずねた。(a)と(b)は5件法(1=ぜんぜんしなかった-5=たくさんした),(c)は5件法(1=感じない-5=非常に感じる)。参加者と手続き 筆者が担当する3クラスで実施した。Aクラス計113名(M=18.61,SD=0.96,男性75名,女性38名),Bクラス計121名(M=19.43,SD=2.02,男性67名,女性54名),Cクラス計117名(M=19.19,SD=1.42,男性56名,女性61名)。授業開始時,授業中iPhoneで私語を録音すること,授業終了時に私語に関する調査を実施することを告げた。授業終了後に項目に回答させた。結果と考察 各項目の評定値につき1要因3水準(Aクラス,Bクラス,Cクラス)の分散分析を行った(表1上段)。
介入セッション
質問項目 ベースラインセッションで用いた項目,実験目的への気づきに関する項目,この実験について気になったことに関する項目であった。参加者と手続き ベースラインセッションの結果から,私語の多いAクラスとCクラスをリマインダ呈示群,私語の少ないBクラスをリマインダ非呈示群に割り当てた。Aクラス計112名(M=18.84,SD=1.09,男性76名,女性36名),Cクラス計90名(M=19.15,SD=1.19,男性45名,女性45名),Bクラス計96名(M=19.81,SD=2.70,男性67名,女性54名)。リマインダ呈示群と非呈示群ではリマインダ呈示・非呈示以外,同じ手続きであった。授業開始時,黒板の隅に“私語禁止”というリマインダを書き,録音用iPhoneを机に設置すること,授業終了時に私語に関する調査を行うことを告げた。授業終了時に項目へ回答させた。結果と考察 各項目の評定値につき1要因3水準(リマインダ呈示群(Aクラス,Cクラス),非呈示群(Bクラス))の分散分析を行った(表1下段)。表1下段(5)(6)のどちらも,CクラスがAクラスやBクラスより有意に下回った(F(2, 211)= 4.65,6.25,p<.01)。この他の項目は3クラス間の差が認められなかった。以上から,私語の少ないクラスと同程度まで,リマインダで私語を抑制できるということが示された。更に効率よく私語を抑制するため,リマインダの内容について今後の検討を要する。