The 59th Annual Meeting of the Japanese Association of Educational Psychology

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ポスター発表 PH(01-78)

ポスター発表 PH(01-78)

Mon. Oct 9, 2017 1:00 PM - 3:00 PM 白鳥ホールB (4号館1階)

1:00 PM - 3:00 PM

[PH60] 聴覚障害児童に対する日記指導における指導内容の特徴

低学年在籍児童に対する指導の分析

茂木成友 (東北福祉大学)

Keywords:聴覚障害児童, 日記指導

 近年の情報通信機器の普及に伴い,社会生活における書きことばの重要性が高まってきている。聴覚障害児者は書きことばの獲得に困難を示すことが知られているが,教育現場では書きことばの指導の1つとして日記を用いた指導が広く行われている(田中ら,2007)。これらのことから,本研究では,小学校段階の聴覚障害児が書いた日記に対して,担任教諭がどのような指導を行っているのかについて,使用語彙の観点から明らかにすることを目的とした。
方   法
 分析対象:特別支援学校(聴覚障害)小学部に在籍していたA児が小学部1年生から3年生までの3年間に書いた日記のうち,担任教諭による指導がみられた日記を対象とした。
 分析の観点:A児が書いた日記に対して,担任教諭がどのような指導を行っているのかを検討するため,指導の際に用いた使用語彙を集計した。なお,当該期間のA児の担任教諭は同一であった。
結   果
 A児が書いた日記のうち,担任教諭による指導がみられた日記は589日分(1年生日記148日分,2年生255日分,3年生186日分)であった。担任教諭による指導の文字数は20,331文字(1年生5,178文字,2年生9,032文字,3年生6,121文字)であった。これらの指導をテキストデータ化しText Mining Studio(NTTデータ数理システム)によって集計を行った。
 1.学年別の使用語彙
 まず,担任教諭による指導で用いられた語彙を学年別に集計したところ,のべ使用語彙数は4,184語(1年1,107語,2年1,831語,3年1,246語)であった。このうち,各学年で使用頻度上位3つの語彙を調べると,1年生では「良い」が26回,「みんな」が18回,「楽しい」が16回,2年生では「良い」が40回,「人」が20回,「頑張る」が16回,3年生では「良い」が28回,「人」が13回,「A児の氏名」が9回であった。
 いずれの学年においても,「良い(良かった,なども含む)」が最も多かった。また,「頑張る(頑張って,なども含む)」や「楽しい(楽しかった,なども含む)」などのように,児童の日記に対して肯定的な応答のことばも多く見られた。
2.「良い」の使用パターンについて
次に,A児の日記に対する指導で,最も多く(94回)使用された「良い」について,その使用パターンを検討するため,「良い」を,“応答”(例:~で良かったですね。),“改善”(例:これからは○○できると良いですね。),“単純修飾”(例:良い本など),“その他”(例:気にしなくても良いです)の4つに分類した。その結果,“応答”が最も多く39回(1年生7回,2年生19回,3年生13回), “単純修飾”が32回(1年生14回,2年生10回,3年生8回),“改善”が7回(1年生0回,2年生6回,3年生1回),“その他”が16回(1年生5回,2年生5回,3年生6回)であった。
考   察
 小学校低学年段階の聴覚障害児に対する日記指導においては,「良い」や「頑張って」などのように,肯定的な表現が多く用いられていることが明らかになった。さらに,最も多く用いられた「良い」については,日記に書かれた内容に対する“応答”の目的で最も多く用いられており,“改善”を求める内容は非常に少なかった。
今後の課題
 今後は,A児の小学部高学年段階の日記に対する指導や,小学部低学年に在籍する他の聴覚障害児童を対象とした日記指導の内容を分析することで,日記を書いた聴覚障害児の実態に合わせた指導の工夫などを検討していく必要がある。
文   献
田中・斎藤(2007)特殊教育学研究,45(3),137-148.