The 60th Annual Meeting of the Japanese Association of Educational Psychology

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自主企画シンポジウム

[JA03] 自主企画シンポジウム 3
人はいかにテスト問題を解くか

思考発話法を用いた検討

Sat. Sep 15, 2018 10:00 AM - 12:00 PM D307 (独立館 3階)

企画・話題提供:白水始(東京大学)
司会・話題提供:益川弘如(聖心女子大学)
話題提供:齊藤萌木#(東京大学)
指定討論:大杉住子#(大学入試センター)
指定討論:西岡加名恵#(京都大学)

[JA03] 人はいかにテスト問題を解くか

思考発話法を用いた検討

白水始1, 益川弘如2, 齊藤萌木#3, 大杉住子#4, 西岡加名恵#5 (1.東京大学, 2.聖心女子大学, 3.東京大学, 4.大学入試センター, 5.京都大学)

Keywords:センター試験, 思考発話, 認知科学

 テストを受けている最中に,子どもたちは何を考えながら,どのように問題を解いているのか。この点が分かって初めて,現在のテストで測定している学力や,テストの改革によるその改変について,具体的な議論ができるのではないか。そこで本研究では,大学入試センター試験(以下「センター試験」)の国語既出問題を活用して,高校生に問題を解いている最中や直後に何を考えているかを逐一話してもらう「思考発話法」を用いて,その認知過程に迫る試みを行った(益川報告)。さらに,同じセンター試験の問題文をそのまま活用して,小問や問題の出し方だけを変えた新しいタイプの問題を作り,センター試験問題を解くときと新タイプの問題を解くときの認知過程の違いを検討した(齊藤報告)。以上の研究より,本シンポでは,1)高大接続改革の一つの焦点となっている教科固有・横断的な思考力等をより働かせる問題や問い方はあるのか,2)1)の是非を決めるためにも「テストで問う資質・能力」と「実際テスト場面で発揮されている資質・能力」の一致不一致を検証し改善する「テストの継続的評価・改善研究」が必要ではないかということを検討する。
 本研究の動機は二つある。一つは,センター試験から大学入学共通テストへの移行に伴い,記述式問題の導入など,「問題形式」の是非が議論されがちだが,そもそも選択式問題にどれほどの弊害があるのか,それが記述式にしさえすれば解消できるのかは,問題解決過程の認知研究がなくては判断できないのではないかということである。例えば,国語では「複数の情報を統合し構造化して考えをまとめ…相手が正確に理解できるよう根拠に基づいて論述」する力を評価したいとあるが,それはどのような問題形式におけるいかなる認知過程として現れるのか。
 もう一つの研究動機は,生徒に求める資質・能力と実際の認知過程の突合せをより多くの現場教員や研究者が行えるよう支援したいということである。我々東京大学CoREFでは「話しながら考える子ども」の姿を求める先生方の協調学習の授業づくりを支援してきたが,「学びの場のデザインと見とりが評価の本質をなし,それは入試などの場面でも変わらない」という理解に至るまでには一層の支援が必要である。逆にそれが全教育関係者でできるようになれば,日々の教育と評価は一層緊密に繋がることになる。
 高大接続改革の成否は関係者自身の前向きな努力に掛かっている。教育心理学会員に何ができるか,指定討論者である大学入試センターの大杉と評価研究者の西岡と共に議論したい。

大学入試センター試験国語における多肢選択式問題の解決方略
益川弘如
 本報告では,多肢選択式の問題場面で,生徒がいかに思考し解決しているかを明らかにする。そのために,センター試験の国語問題2題(評論・小説)を題材として,18名の高校3年生を対象に思考発話法を用いた認知実験を行った。
 これまで国内では,多数の受検者の成績からテスト形式と学習成果の関係を調べた研究は多くの蓄積がある一方で,テストを受けている最中の認知過程についての研究はほぼ見当たらない。国外では,思考発話法をテスト場面に適用して,高い得点を取るためにテストの特性や形式を利用するテストワイズネスなどの方略活用を同定した研究が見られる。例えばTowns & Robinson(1993)は,大学生に化学の多肢選択式問題15問を思考発話しながら解かせた結果,学力の不十分さ以外の理由で点を落とすことがないようにする方略に加え,問題文よりも選択肢の内容に過度に集中した方略を指摘している。
 本来,センター試験の国語問題において,問題文の深い読みに基づく解答を測定したいのであれば,期待する解決プロセスは,(1)まず問題文全体を十分読み込み,(2)その過程で各段落の要旨を理解しつつ,(3)段落間の要旨をつなぎ合わせて問題文全体の要旨を理解した上で,(4)問題文の内容理解に従って各設問の選択肢から該当する解答を選択するようなものとなるはずである。
 これらを踏まえ,「生徒の読解方略や問題解決方略から推測して,どれだけ深い水準の処理に従事しているか」を研究設問とした。
 題材は,平成24年度第1問(評論)木村敏の『境界としての自己』と平成27年度第2問小池昌代の『石を愛でる人』を扱った。両問題とも,問題作成部会の見解から,問題文全体を捉えた深い読みに従事させたい狙いが推察できた。実験では8人が評論問題,10人が小説問題を解いた。
 問題文の読み方の分析では,問題文全体を読んでから設問を見るような生徒はおらず,問題文の傍線部が登場する箇所まで読んで設問を見たり,設問を見て傍線部が登場する箇所まで読んだりして解答を検討する浅い処理に留まることが見て取れた。このことから,問題文の断片的な読みが基本的な解決プロセスであることが明らかになった。
 設問の解き方については,設問全体を見渡した上で,解きたい設問から解くといった「自分の読み」を中心とした設問選択行動は一人も見られず,設問を最初から順番に解き進めていた。このことから,設問の順序性に強い影響を受けて問題を解いていることがうかがえた。
 選択肢の選び方については,全61設問の解決方略を発話分析から分類したところ,部分的な読みに基づいた深い処理によって解答された設問は33件で,単語レベルの判断など浅い処理の解答が9件だった。ただ深い処理と言っても,単一の設問内での処理であり,別の設問の内容と関連付けるような発言は見られなかった。
 以上の結果より,生徒はセンター試験の解決に当たって深い処理に従事しているとは言い難かった。特に「設問間の対応付け方」や「問題文全体を理解する読み」に関して,設問間で考えたことを結び付けたり,問題文全体を構造的に捉えたりといった点についての浅い処理が目立った。反面,「選択肢の選び方」については深い処理も見られ,限られた時間内に多肢選択式の複数の小問を継時的に,一定程度の深さで「考えながら」解くという方略で得点を向上させようとしている傾向が見て取れる。
 生徒が活用できていないのは,出題者が用意している設問間の関係性やそれと問題文全体の内容との関係性であり,設問ごとに解くことによる読解の分断化や,問題文の表面的情報に依存した選択肢の消去など,期待されないプロセスが喚起されている可能性がある。センター試験の成績には,教科学力-内容理解や理解に基づく思考など―以外が含まれている可能性を指摘できる。

卒業後も見据えて教科等で育てたい資質・能力を適切に評価するテストの検討
齊藤萌木
 本報告では,学校を卒業した後も見据えて教科等で育てたい資質・能力を適切に評価するためのテストのあり方を検討する。
 近年,教科内容の知識やその活用を評価するテストに加え,問題解決力や思考力などの「資質・能力」(Griffinら,2012)を評価するテストが求められており,PISA2015のCollaborative Problem Solvingなどが提案されている。他方,教科内容の知識と別に「一般的な」資質・能力を評価するテストでは,細かい下位スキルのトレーニング(例:価値中立的な選択肢を選ぶと正解しやすい等)で得点できることから,目指す資質・能力を評価できているかに疑問が残るといった問題も指摘されている(遠山・白水,2017)。
 学習科学の知見に基づけば,評価したい21世紀型の資質・能力とは,教科内容の知識を得たり理解を深めたりするために使うものであり,深まった理解と結びつくことでより良く発揮できるようになる力だと定義できる(Scardamaliaら,2012:国立教育政策研究所,2016)。だとすれば,今求められるテストの作問指針は,教科の観点から見て質の高い理解を誘発する題材を用いて,学習者が理解の深まりに焦点化できる発問を工夫すること,深まった理解をより充実した解として表現させる方法を工夫することであると考えられる。
 そこで,本報告では,既に教科の観点から題材の質が十分検討されているセンター試験の古文の題材文を活用して,発問と解答形式のみを変更したテストを作成し,センター試験問題を解くときと新しいタイプの問題を解くときの認知過程の違いを検討した。実際に,センター試験と新しいタイプの問題を,同一の受検者(大学入試を突破した大学生)計6名に十分な時間をおいて受検させ,思考発話法によって可視化した受検時の認知過程と事後アンケートの記述を比較したところ,「辞書も用いて全文読解してから個別の解釈問題に取組む」,「歌の作者など,省略されている個別具体的情報はあらかじめ示したうえで和歌の解釈をさせる」などの発問の工夫によって,アンケートに記載された「もっと知りたくなったこと」が,「単語の訳」といった個別具体的な知識から,本文の主題に関わる内容へと変化すること,「選択肢に頼らず記述式で答えさせる」といった表現のさせ方の工夫によって,解答の根拠を本文に求める行動が見られるようになったことを指摘できた。
 この結果より,国語(古文)の分野においては,「教科の理解の深まりに思考を焦点化させる発問の工夫」と「記述式など解の表現のさせ方の工夫」によって,既存の教科ベースの作問研究の蓄積を活かしながら「21世紀型資質・能力の評価」を可能にするテストを実現できる可能性を示唆できる。

引用文献
Griffin, P., McGaw, B. & Care, E. (2012). Assessment and teaching of 21st century skills. NY: Springer-Verlag.
国立教育政策研究所編(2016). 資質・能力 理論編 東洋館出版社
Scardamalia, M. et al.(2012). New assessments and environments for knowledge building. In P. Griffin et al. (Eds.) 231-300.
遠山紗矢香・白水 始 (2017). 協調的問題解決能力をいかに評価するか.認知科学,24,494-517.
Towns, M. H. & Robinson, W. R (1993). Student use of test-wiseness strategies in solving multiple-choice chemistry examinations. JofR in SciTeaching. 30, 709-722.